起業家・ベンチャーキャピタル・投資家を繋ぐコミュニティ・マガジン

VC vision
前編 後編
第8回 ベンチャーの陽の下に 前編 学閥というキャピタル
早稲田大学は、ベンチャー分野での研究・教育に30年以上の歴史をもち、
日本の大学のベンチャー研究ではトップクラスの水準と規模を誇っている。
ウエルインベストメント株式会社は、こうした早稲田大学のベンチャー研究の実績を結集して、
早稲田大学の教授自らもがマネジメントを行うベンチャーキャピタルである。
ウエルインベストメント株式会社が展開するファンドの魅力とその特徴について、
ウエルインベストメント株式会社の取締役で、
早稲田大学ビジネススクールの教授である東出浩教氏にうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
投資先一覧パートナー
社会に対してバリューを生み出していくこと

【森本】 ウエルインベストメントは、早稲田大学のベンチャー教育機関と密接な関連を持つベンチャーキャピタルですが、具体的にどのような関係性にあり、ウエルインベストメントはそれをどのように生かして事業を展開しているのでしょうか。
【東出】 1993年に、「早稲田大学アントレプレヌール研究会(WERU:ウエル)」というベンチャーの研究教育機関が設立されて、早稲田大学の起業家育成研究が本格的にスタートしました。これは、現在は早稲田大学のアジア太平洋研究センターに所属する組織です。このアジア太平洋研究センターと、1998年開設の早稲田大学ビジネススクール(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科)が力を結集し、ベンチャーの育成、輩出に向けた研究教育体制を強化しています。ウエルインベストメントは、このWERUをベースに、早稲田大学アジア太平洋研究センター、早稲田大学ビジネススクール、早稲田大学知的生産本部、理工学総合研究センター等と連携しながら事業を進めています。
【森本】 ウエルインベストメントは、どのようなビジョンのもとにスタートしたのでしょうか。
【東出】 ウエルインベストメントでは、「早稲田の杜から起業家を!」というキャッチコピーを掲げていますが、早稲田大学という名前と意味合いをコアに、社会に対してバリューを生み出していくことをビジョンとしています。早稲田の教授が中心になって大学の研究・教育活動を支援すると同時に、起業家の輩出、支援の展開を積極的に行うことを目指しています。
【森本】 早稲田大学のベンチャー研究をバックボーンにしたベンチャーキャピタルとなるわけですね。
【東出】 たしかにこれは特殊だと思います。率直に言うと、すべての投資が早稲田大学発というわけではないのですが、早稲田に何らかの形で関連する案件への投資が軸であることが基本です。たとえば、早稲田大学の先生の研究・テクノロジーを基にしたベンチャーへの投資。また、社長が早稲田の卒業生である企業への投資などですね。それから、早稲田大学に関連する何らかのネットワーク経由で話が入ってきた案件への投資も含まれます。こうした大学に関連するベンチャー投資が、私たちの投資構成のマジョリティを占めているのです。
【森本】 早稲田大学は卒業生も大勢いらっしゃるし、その卒業生が活躍されている分野もさまざまです。それらの個別の情報をどうやって引き上げているのでしょう。
【東出】 毎年1万人以上いる卒業生の全部をカバーすることは、現実にはほとんど不可能です。ただ、早稲田大学ビジネススクールの出身者のネットワークはできています。早稲田大学ビジネススクールは、開設されてから8年。その前身の早稲田大学システム科学研究所時代を含めれば、ビジネススクールの歴史は30年以上に及びます。現在のビジネススクールからの毎年150人ずつの卒業生と合わせ、すでに約2,000人の卒業生がいます。投資案件は、これらのネットワーク経由で入ってくることも多いですね。

早稲田大学全体のネットワーク化

【森本】 早稲田大学は、ベンチャー分野での研究・教育活動において、30年近い歴史をもっていらっしゃいます。
【東出】 はい。ビジネススクールは、もともとあったシステム科学研究所を母体に発足したもので、教員たちのベンチャー業界や卒業生とのネットワークは、システム科学研究所時代を含めれば、30年に及ぶ蓄積があるわけです。早稲田大学がもつベンチャーに関する情報・人材ネットワークは、ベンチャー界の中でも大きい規模にあると思います。
【森本】 早稲田大学ビジネススクールの卒業生は、やはり起業家を目指す人が主なのですか。
【東出】 早稲田大学ビジネススクールでは、「ベンチャー」というキーワードを前面に出して教育活動をしてきていますので、ベンチャーに関心のある学生が多く集まっています。ですから、学生たちにそういうフォーカスがある分、「新しいビジネスを起こしたい」と考える人のネットワークは、幅広い形で、また、短期間でできあがってきたといえます。
【森本】 ビジネススクール以外の学部生とのパイプはどのようになっていますか。
【東出】 そこはこれからの課題のひとつですね。政経学部や理工学部、商学部などすべての学部生を対象に、企業での実務を単位認定するなどのインターンシップ・プログラムの導入などで、早稲田全体の横のつながりをつくっていくことに取り組んでいます。
【森本】 早稲田大学ビジネススクールの研究や教育を核にして、さらには早稲田全体をネットワーク化して起業家の育成を推し進めていこうというわけですね。
【東出】 そうです。ですから、私たちのファンドは、早稲田大学ビジネススクールと表裏一体になっている点が、大きな強みになっていますし、早稲田大学全体のネットワーク化が進めば、その強みはより強固なものになっていくと考えています。
【森本】 ウエルインベストメントは、1998年に事業をスタートしていますが、いま話されたビジョンは、いままでにどの程度実現できていますか。
【東出】 ウエルインベストメントがスタートした1998年当時、日本のベンチャーキャピタルは、アーリーステージに投資するビジネスではなかったのですね。相当多くのベンチャーキャピタルは、レイターステージでの、つまり、ある程度先が読める企業にしか投資しない状況でした。これは、アジアの国々でもそうですし、アメリカでも、実は、同じような傾向が強くあります。特に日本は、当時、そういう状況が非常に強かったといえます。また、金融機関系のベンチャーキャピタルでも、そのマインドは「お金を貸す」というものでした。ベンチャーを育成するためには、「投資」活動をしていかなければいけないにもかかわらず、実態としてそういうことをする人たちが少なかったのです。リスクを取らない、つまり、シードやアーリーステージに投資しないベンチャーキャピタルが非常に多かったわけです。





HC Asset Management Co.,Ltd