【森本】 まず最初に、パナソニック・デジタル・コンセプト・センターが松下電器の本社技術部門内に設けられた経緯からお聞きしたいと思います。
【樺澤】 パナソニック・デジタル・コンセプト・センター(以下、PDCC)を、本社のR&D(技術開発部門)の中に設けている点が、その目的を明確にあらわしていると思います。R&Dに特化した案件への投資で、当社の新技術の開発に役立つベンチャーを掘り起すこと。そして、シリコンバレーのベンチャービジネスの手法やポテンシャルを松下電器のR&Dに取り込んでいこう、ということでPDCCを立ち上げました。
【森本】 PDCCの設立は
1998年ですね。
【樺澤】 はい。当社では、その何年も前から、シリコンバレーでアンテナオフィスとして現地の技術情報の収集拠点を持ち、ベンチャーと協業を進めていました。それをより本格化させるためにシリコンバレーに先端技術の研究所を設立しようとしました。しかし、そのとき、いざ研究所を設立しようとしても、その人材がなかなか獲得できない問題に直面しました。当社としては、最先端の技術に精通する人材がほしかったのですが、そういう人は、すでに自分でベンチャーを起こしており、何百億ドルもの利益を求める活動を自分で始めていて、当社の社員になる由もなかったわけです。当社としては、いくら高い報酬で迎えるといっても、年収で何億ドルも出せるわけではありませんので、研究所の計画はうまくはいきませんでした。しかし、いろいろ調査を重ねていくうちに、シスコやオラクルがコーポレートベンチャーを始めていることに注目するようになりました。1997年のことです。実際に話を聞きいてみると、これが当社にとっても意義のあるスタイルではないかということになり、このコーポレートベンチャーに取り組みたいという提案が了解されて、PDCCが1998年にスタートするという経過を辿っています。
【森本】 コーポレートベンチャーを始めるに当たって、シリコンバレーでどのような調査をされたのですか。
【樺澤】 まず、シスコやオラクルがどんな手法でコーポレートベンチャーを展開しているのかを詳細に取材し研究しました。また、シリコンバレーにあるR&Dの研究所がどのようなことをやっているのか、そして、どういうパターンが成功しているのか、このことを徹底的に調査しました。その結果、我々が重要視したことは、スピードです。長い時間をかけて社長の決裁を待っているようでは、ベンチャーとのパートナーシップの実現には間に合わないということです。今でこそ、当社では、意志決定のスピードアップが進んでいますが、それでも通常のスピード感ではベンチャーから短期間の意思決定を迫られては対応しきれません。
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