【森本】 まず、中小企業基盤整備機構の組織の成り立ちとその目的についてお聞きしたいと思います。
【後藤】 日本の総企業数の99%以上は中小企業によって構成されています。雇用数でも、全体の約7割は中小企業が占めています。日本の産業や経済は、中小企業によって支えられていると言っていいと思います。しかし、中小企業をいきなり競争の土俵に置きますと、市場での競争でハンディキャップを負うことになり、本来持っている力を有効に発揮できない恐れがあります。小回り性、冴えた発想、深い専門性など、中小企業が持つ実力を十分に発揮させることが、産業界全体の競争力向上にも寄与するわけです。それには、その規模からくるハンディキャップを補う必要があり、そのための支援策が必要になります。
【森本】 わが国の中小企業政策は、「世界に冠たる中小企業政策」と言われています。
【後藤】 実際、国際的にも高く評価されていますね。日本の中小企業政策をめぐって、諸外国の政府関係者による意見交換や、産業関係者による調査というぐあいに、海外からの訪問をよく受けています。1963年に中小企業基本法が成立して以来、金融、技術開発、人材育成、組織化といった取り組みを続け、日本ほど体系的、網羅的、継続的に中小企業の育成システムを整備している国はありません。全国各地の商工会や商工会議所による経営支援、政府系金融機関の融資制度のほか、企業への技術アドバイスや商店街の活性化などは、中小企業政策の一環として取り組まれてきた事業です。
【森本】 1999年に、この中小企業政策の大きな節目となる中小企業基本法の改正が行われました。
【後藤】 はい。それまでの政策は、戦後から高度成長期にかけての課題であった、いわゆる二重構造への対応という要請もありまして、中小企業全体の底上げを一つの目的にしていました。社会政策的な側面も、あったわけです。しかし、1999年の法改正で、その方向を大きく変えて、やる気のある中小企業をより強く応援していこうということになりました。中小企業基盤整備機構は、こうした中小企業政策に沿って事業展開しているわけで、昨今のグローバル化、フラット化、スピード化、成熟化といった経済社会に起きている様々な状況変化に対応しながら、その事業を進めることが大切になります。とくに中小企業は、外的要因に大きく影響を受けますから、単に受け身で応援するだけでなく、中小企業やベンチャー企業が必要な経営資源を組み合わせながら、ダイナミックに新しいビジネスを創出していけるように、現場に専門家が参加するなど、踏み込んだ取組みを心がけています。
【森本】 企業も他社にない新しいビジネスを積極的に開発展開していかなければ、企業の存続が約束されない時代になってきています。
【後藤】 そうしたところを支援していくのが、中小企業基盤整備機構に求められる役割と思います。とくに、ベンチャーにつきましては、当機構では、この4月に「創業ベンチャー推進課」という新しい課をつくりました。今まで何度か、いわゆるベンチャーブームといわれた時期がありました。「ブーム」があったということは、裏返せば、盛りあがってもそれが定着しなかった、ということでもあるかと思います。結局、ベンチャーが日本の産業構造上どういう意味を持つのか明確になっていない、という問題があるのではないかと思います。ベンチャー産業が、日本の経済や社会でどういう意義をもつのかを、改めて整理しながら事業を進めていこうとしているのが、「創業ベンチャー推進課」です。また、昨年まで、「創業ベンチャー国民フォーラム」という中小企業庁が開催していた事業がありますが、新年度の今年から中小企業基盤整備機構が引き継いでいます。このことも、我々がベンチャー政策の一環として取り組んでいくことの重要な課題となっています。
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