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VC vision
前編 後編
第17回 いつも心にベンチャーを  前編 機会創出という支援
独立行政法人の中小企業基盤整備機構は、
ベンチャー企業やベンチャーキャピタルの支援、
育成を組織目標に活動する公的機関である。
支援内容もファイナンシャルにとどまらず、技術支援、人的支援など多岐にわたる。
今回は、独立行政法人中小企業基盤整備機構・理事の後藤芳一氏に、
同機構の活動内容の詳細をお話しいただく。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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中小企業と大手企業とのフェアな競争環境をつくる

【森本】 まず、中小企業基盤整備機構の組織の成り立ちとその目的についてお聞きしたいと思います。
【後藤】 日本の総企業数の99%以上は中小企業によって構成されています。雇用数でも、全体の約7割は中小企業が占めています。日本の産業や経済は、中小企業によって支えられていると言っていいと思います。しかし、中小企業をいきなり競争の土俵に置きますと、市場での競争でハンディキャップを負うことになり、本来持っている力を有効に発揮できない恐れがあります。小回り性、冴えた発想、深い専門性など、中小企業が持つ実力を十分に発揮させることが、産業界全体の競争力向上にも寄与するわけです。それには、その規模からくるハンディキャップを補う必要があり、そのための支援策が必要になります。
【森本】 わが国の中小企業政策は、「世界に冠たる中小企業政策」と言われています。
【後藤】 実際、国際的にも高く評価されていますね。日本の中小企業政策をめぐって、諸外国の政府関係者による意見交換や、産業関係者による調査というぐあいに、海外からの訪問をよく受けています。1963年に中小企業基本法が成立して以来、金融、技術開発、人材育成、組織化といった取り組みを続け、日本ほど体系的、網羅的、継続的に中小企業の育成システムを整備している国はありません。全国各地の商工会や商工会議所による経営支援、政府系金融機関の融資制度のほか、企業への技術アドバイスや商店街の活性化などは、中小企業政策の一環として取り組まれてきた事業です。
【森本】 1999年に、この中小企業政策の大きな節目となる中小企業基本法の改正が行われました。
【後藤】 はい。それまでの政策は、戦後から高度成長期にかけての課題であった、いわゆる二重構造への対応という要請もありまして、中小企業全体の底上げを一つの目的にしていました。社会政策的な側面も、あったわけです。しかし、1999年の法改正で、その方向を大きく変えて、やる気のある中小企業をより強く応援していこうということになりました。中小企業基盤整備機構は、こうした中小企業政策に沿って事業展開しているわけで、昨今のグローバル化、フラット化、スピード化、成熟化といった経済社会に起きている様々な状況変化に対応しながら、その事業を進めることが大切になります。とくに中小企業は、外的要因に大きく影響を受けますから、単に受け身で応援するだけでなく、中小企業やベンチャー企業が必要な経営資源を組み合わせながら、ダイナミックに新しいビジネスを創出していけるように、現場に専門家が参加するなど、踏み込んだ取組みを心がけています。
【森本】 企業も他社にない新しいビジネスを積極的に開発展開していかなければ、企業の存続が約束されない時代になってきています。
【後藤】 そうしたところを支援していくのが、中小企業基盤整備機構に求められる役割と思います。とくに、ベンチャーにつきましては、当機構では、この4月に「創業ベンチャー推進課」という新しい課をつくりました。今まで何度か、いわゆるベンチャーブームといわれた時期がありました。「ブーム」があったということは、裏返せば、盛りあがってもそれが定着しなかった、ということでもあるかと思います。結局、ベンチャーが日本の産業構造上どういう意味を持つのか明確になっていない、という問題があるのではないかと思います。ベンチャー産業が、日本の経済や社会でどういう意義をもつのかを、改めて整理しながら事業を進めていこうとしているのが、「創業ベンチャー推進課」です。また、昨年まで、「創業ベンチャー国民フォーラム」という中小企業庁が開催していた事業がありますが、新年度の今年から中小企業基盤整備機構が引き継いでいます。このことも、我々がベンチャー政策の一環として取り組んでいくことの重要な課題となっています。


ベンチャー育成に関して総合的な事業を展開

【森本】 中小企業基盤整備機構では、いままでベンチャーファンド、がんばれ中小企業ファンド、中小企業再生ファンドなどのファンド事業を展開していますが、ファンド事業をどのように取り組んできているのか、その目的と役割についてお聞かせください。
【後藤】 ベンチャーファンド出資事業ができたのが1998年度でしたが、これは、我々が資金を投資することで、民間金融のベンチャー企業への投資活動を促すことを目的にスタートしたものです。しかし、我々は、こうした金融支援だけではなく、社労士、弁護士、公認会計士、中小企業診断士など約2,000人の専門家と全国で契約をしており、ハンズオンも手厚くできる体制を持っています。その他にもOB人材の企業派遣、販路開拓コーディネート事業、ベンチャーと投資家のマッチングを行うベンチャープラザ、さらには、全国の大学など30カ所に、インキュベーション施設も設けています。ベンチャー育成に関して、こうした総合的な事業を展開していることが、中小企業基盤整備機構の特徴です。そういう体制をもってファンド事業を行うことが、より深い支援につながっていくと考えています。我々は直接GP(ゼネラル・パートナー)として投資するわけではなく、LP(リミテッド・パートナー)として、GPに対するバックアップを行うという形をとっています。我々のファンド事業の目的には、ベンチャーキャピタルを育てていくという側面もあるわけです。
【森本】 ベンチャー企業の育成だけでなく、独立系のベンチャーキャピタルも育成の対象になっているわけですね。
【後藤】 そのとおりです。日本では直接金融をもっと活用する余地があると思います。米国はもちろん、台湾、韓国と比べても、日本ほど間接金融に依存している国はありません。国際市場でイノベーションの競争にチャレンジしていくには、ベンチャー企業に対する直接金融の役割は大きいと思います。それゆえ、ベンチャーキャピタルの育成、成長も欠かせない課題です。それには、独立系のベンチャーキャピタルがもっと育っていく必要があります。具体的には、我々がLPとして半分の資金を提供して、それを文字どおりの資金面でも、また、信用面でもレバレッジとして活用していただき、ベンチャーファンドを立ち上げていただく、という促進策を行っています。また、組み入れ先の企業も、ファンドの出資を受けることにともすると抵抗感がありますが、半分の資金を我々が出資していることで、安心を提供することができます。
【森本】 トラックレコードがないと資金が集まらないという状況があり、新しいベンチャーキャピタルの事業がうまくスタートできないという現実があります。
【後藤】 そこをお手伝いして、立ち上げを推進していくことが、我々の重要な役割になっています。とくに、独立系で実績が少ないと鶏とタマゴの関係になって、立ち上げ自体が難しいという現実があります。過去の実績ではなくて未来の可能性に投資する、という言葉がありますが、ベンチャーキャピタルについても、同じだと思います。それらのことを通じて、ベンチャー企業にファンドを利用する文化が定着していくのではないかと考えているわけです。さらには、シード期など比較的早い段階、大学発ベンチャー、地域の企業など、一般にファンドの出資が行われにくい部分への支援も重要な任務になります。

ファンド展開で産業をエンカレッジする

【森本】 中小企業基盤整備機構のベンチャーへの支援策では、その発端から独立系のベンチャーキャピタルの育成に重きが置かれていたのですか。
【後藤】 ええ、それは大きい目的の一つになっています。資金の量で言いましたら、やはり市中の金融機関の供給が多いのだろうと思います。しかし、我々がエンカレッジすることで、それが誘い水になって投資活動が活発化していくことが、政策的意味を持つわけです。金額の大きさでリードしていくのが我々の役割なのではありません。もともとのきっかけは、1990年代後半の第3次ベンチャーブームのころになりますが、投資事業有限責任組合法の施行が契機になります。我々もファンドを活用する政策ができるようになり、また、日本国内でのベンチャーキャピタルによるベンチャーファンド展開がだんだん整備されてきて、我々の活動もベンチャー支援とベンチャーキャピタル支援の両面で広がってきているということになります。
【森本】 中小企業基盤整備機構と通常のベンチャーキャピタルのファンド運用との異なる点は何でしょう。
【後藤】 我々のファンドの組成や運用について、一番に言えることは、キャピタルゲインだけを目的にはしていないということです。当然、一定の結果が出ることは必要ですが、先ほども申しましたように、ポイントはそのファンド展開で、産業や市場をエンカレッジすることができるのかということです。中小企業政策の目的に沿って行うことになるわけですが、すこし繰り返しになりますが、アイデアややる気のある人たちが、事業やベンチャーキャピタルを立ち上げていこうとするときに、規模が小さいことや実績がないこと自体がハンディキャップになることがあります。
【森本】 新規企業にとって、実績がないからといって外されてしまっては、いつまでたっても始めることができなくなってしまうということですね。
【後藤】 そこで、そうした企業のリスクを取っていくことは、我々の大事な役割の一つだと考えています。我々がじかに接するのは、ベンチャーキャピタルの方々が中心ですが、出資の判断を行うに際しては、まずは、規模や期間などの数量的な条件、形式要件といいますけれど、これが合っていることは必要です。で、そのあとは経営者や事業スタッフといった体制の面と、事業モデルをみて、それらがよければコンプライアンス的な確認ということになります。一言でいえば、こういうことですが、落とそうとしてみるのではなくて、仮に完璧でない面があっても、それを補う利点はないか、と、いわば、山に登る方法をいろいろ探すような感覚でみさせていただくようにしています。さらに、こうした手順を、勘や暗黙知でやるのではなくて、いろいろな担当者を揃えるなどのクオリティを出せるように、手順自体を標準化してきました。これをさらに高度にすることに、いま、取り組んでおります。





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