【森本】 東京大学でベンチャーキャピタルが設立された経緯からお聞きしたいと思います。
【郷治】 直接のきっかけは、2004年4月にスタートした東京大学の国立大学法人化です。それまで国立大学は、文部科学省の出先機関の位置づけにありましたから、その運営は完全に国の管理下にありました。しかし、この国立大学法人化で、ある程度大学の自由裁量で経営改革が進められるようになりましたので、各国立大学で独自性を出すことが可能になりました。そうした中で、東京大学では当時の佐々木毅総長と石川正俊副学長が「産学連携をより発展させよう」というビジョンを掲げ、大学の知的財産や人的資産を活用するベンチャー企業を支援するという構想が出てきたわけです。しかし、大学はビジネスに携わる機関ではありませんし、ビジネスの専門家集団でもありません。そこで、東京大学は2004年4月に、それまでの産学連携推進室を産学連携本部として改組・拡充した上で、そこに外部の企業などから知的財産やビジネスに理解のある方々を招いて、産学連携を具体的に実施する体制を整えました。さらに、大学とは別に、産学連携本部と密接に連携するベンチャーキャピタル会社を設立することとなり、こうしてできたのが株式会社東京大学エッジキャピタルです。
【森本】 スタートも同年4月からですね。
【郷治】 はい。東京大学エッジキャピタルの設立を契機に、東大の教員が開発した技術の事業化や東大の人材の活用を行うベンチャーを支援する機運が高まりました。また、我々東京大学エッジキャピタルのほかにも、東大の産学連携に携わる企業としては株式会社東京大学TLO(テクノロジー・ライセンス・オフィス)があります。これは、教員たちが発明した特許や知財を民間企業にマーケティングして、ライセンスビジネスを展開する会社です。東京大学TLOは、国立大学法人化前からあった会社ですが、法人化を契機に東大全体をカバーする会社として大学から公認されたわけです。
【森本】 郷治さんが東京大学エッジキャピタルに関わるようになったのはどのような経緯からですか。
【郷治】 私は大学を卒業したあと、通商産業省(現経済産業省)に入省しまして、そこで「投資事業有限責任組合」制度というベンチャーキャピタルファンドの仕組みを作る担当などをしていました。その際に、ベンチャーキャピタル業界のことをいろいろ学びました。投資事業有限責任組合の法律を作るにあたっては、現場を知る必要もあることから3カ月くらい株式会社ジャフコに出向したこともあります。そうした中で、2003年の11月でしたが、国立大学法人化に先立って東京大学での新しい産学連携の仕組みを検討されていた関係者の方から、東大がベンチャーキャピタルを設立するという話を聞く機会があり、それに大変興味を持ったという次第です。 |