起業家・ベンチャーキャピタル・投資家を繋ぐコミュニティ・マガジン

VC vision
前編 後編
第1回 起業の原点と向き合って 前編
自らの起業への思いを忘れることなく、起業家と、共に考え、共に成長していく
PE&HR株式会社代表取締役の山本亮二郎氏。
ベンチャーキャピタルやインキュベーターの既成のノウハウではなく、
起業の原点と現実に向き合うことでベンチャービジネスに
真に必要なサービスを開発、提供し続ける。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
投資先一覧パートナー
ヒューマンキャピタル投資

【森本】 会社を設立されて何年になりますか。
【山本】 2003年の5月20日のスタートですから、この春で3年を迎えることになります。
【森本】 ご自身ではインキュベーターでもなく、ベンチャーキャピタルでもないと話されていますが、当初はどのようなイメージを持って始められたのですか。
【山本】 インキュベーションについては、すでに手がけられている弊社の株主や関係者の方々を存じ上げており、いろいろとお話はお聞きしていましたので興味はありました。ベンチャーキャピタルよりももっと本質的なものを感じていました。しかし、インキュベーターとして起業したというわけではありません。もともと考えていたのは社名(PE&HR:Private Equity & Human Resource)の表すとおりで、お金とヒューマンキャピタルの両方を投資することによって、ベンチャーキャピタル投資とは違う新しいものが生まれるのではないかと思っていました。投資事業と人材ビジネスの両方を経験し、実践の中で生まれた発想です。起業家の方々には資本と人材を提供し、一方で人材、つまりヒューマンキャピタルが経営者としての力をつけていく場を提供していくこともでき、起業家や経営者の裾野が広がっていくのではないかということを思い描いてスタートしました。
【森本】 実際に始められてみていかがでしたか。
【山本】 国内においても、ベンチャーキャピタルは自己勘定からの投資をやめてファンドに一本化する傾向にあると思いますが、インキュベーションのためのお金というものはファンドにはちょっとふさわしくないのかなと思った時期もあります。とにかく時間がかかりますし、そもそもまだ会社が決算もしていないような状況で、ショートレビューも財務や法務のデューデリジェンスもあるわけないですからね。しかし現在では、のちほどご説明するような結果が出始めていますので(「投資先一覧」参照)、ファンド投資にこだわった今のスタイルに自信を深めています。

超アーリーステージ

【山本】 仮にこれを自己資本で投資しようとすると、ただ巨大な資本金になっていき、投資からしばらくの間は当然損失が発生しますので、良い投資ができていたとしても結果が出るまで持ちこたえることができず、立ちいかなくなっていたかもしれません。この仕事の難しい点の一つです。だから、インキュベーションというのは当初想定はしていなかったのですけれど、続けていくうちにどんどんシードに近付いてきましたので、資本金を巨大にしないでやっていくということを、常に意識してきました。
【森本】 インキュベーションというのはベンチャーキャピタルで言うところのアーリーステージよりさらにアーリーというイメージですね。
【山本】 イメージはそうです。
【森本】 設立より前に参加するということですね。
【山本】 親しいインキュベーターから、アメリカには確としてインキュベーション業界というものがあるということをよく聞きますが、日本ではまだそこのところが圧倒的に弱いように思います。
【森本】 マーケットはあるのでしょうけれども、プレーヤーが少ないのではないでしょうか。
【山本】 そうなんです。私達は現在、事業開始からまだ2年半なのですが、これまでも新聞や雑誌、Webなどでたくさん取材をうけたのも、この業界では若手だったこともあるのでしょうが、超アーリーステージのところでサービス提供をしようという人たちが非常に少ないので珍しがられた、ということもあったのだと思います。
【森本】 その状況は2年半たった今変わりましたか。
【山本】 変わってはいませんね。この層で積極的に投資をしようとするベンチャーキャピタルは依然として少ないですし、インキュベーターが増えたという実感もありません。また、人材業界サイドも、私も以前勤めていた経験からわかるのですが、このステージではほとんど商売が成り立たないはずです。小さな規模の会社というものは人を採用するといっても最初はかぎられた人数ですし、資本金が500万円、1,000万円の創業期のベンチャーには100万円、200万円といった人材紹介手数料もなかなか払いにくいものですからね。

お金プラス人の価値の提供

【森本】 そもそも人材会社の側から見ても回収リスクがありますからアプローチ自体も少ないでしょうね。
【山本】 そういう状況なので、この層に降り立ってくる人自体がいないのです。ですけれども、このステージにも当然ですがニーズは絶対あります。伸びようとする会社で人を求めていないところはありませんから。ポテンシャルの高い会社ほど、初期の段階からいい人をどうやって採っていくかということを本当に真剣に考えています。
【森本】 それでも手がける人が少ないというのはリスクの問題ですか。
【山本】 リスクに比べると当面の実入り(収益)が乏しいということでしょう。
【森本】 現在ファンドの運用はされていますか。
【山本】 はい、第1号ファンドです。立ち上げたのが2004年の5月20日で、会社を設立してちょうど1年目でした。先ほどもお話ししたように、お金(PE)を投入し、人(HR)も投入することを考えていましたので、通常なら仮に10億円のファンドがあるいうことは10億円分の株式をファンドが手にするということになりますよね。ところが私達は人を送り込む際にも株式を新株予約権のスタイルで得ているのです。
【森本】 ほー。
【山本】 お金の価値はお金の価値でしかないのですけれども、プラス人の価値を提供してそこでも株式を得ることで、ベンチャーキャピタルファンドの2倍くらいの株式を手にするファンドができあがるわけです。このやり方のほうがレバレッジがきいているんですね。これをもちろん全部ファンドで受けるのです。
【森本】 対価としてファンドのほうにストックオプションを出していただくわけですね。
【山本】 はい、そうです。ただし、提供しているサービスの価値をおたがい認識するうえで、お金をいただく意味も大きいと考えていますので、新株予約権とお金を組み合わせたやり取りをしています。ここで私たちの事業家資質が問われるわけです。一般的にベンチャーキャピタルがコンサルティング報酬を得るというとファンドとの間でコンフリクトがあるとみなされます。しかし私たちのやり方は、コンサルティングの対価として新株予約権をファンドで得るという、通常のベンチャーファンドにはない仕組みを持つことによって、その問題を解決しています。





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