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VC vision
前編 後編
第1回 起業の原点と向き合って 後編
自ら起業したから見えてくるもの、
起業の現場に立ち続けるから見えてくるもの。
そして、PE&HR株式会社代表取締役、
山本亮二郎氏を超アーリーステージへと向かわせるもの。
それは、若者たちが起業にかける、ひたむきな真剣さと、
自分を成長させたいという強い思いである。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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成功したベンチャー企業に共通すること

【森本】 山本さんは若手とともに女性起業家への支援を打ち出していらっしゃいますよね。
【山本】 劇的には変わらないんですけれど、先ほど5年間で若手起業家が急増したというお話をしましたが、同じく女性社長でIPOする方がもっと増えてくることはもう間違いないと思いますね。前職で複数の女性社長に投資したこともあって身近に女性起業家で上場した方がたくさんいらっしゃるのですが、残念ながらPE&HRでは女性起業家への投資はまだこれからです。もっと積極的に投資をしていきたいと思っています。
【森本】 そこに山本さんの思想というか、哲学がみえてきますね。
【山本】 私たちなりのどういう社会がいいのかという思想はあります。それを一言で表現すると、若者がもっともっと活躍できて才能が発揮できるような社会がいいなということです。女性が活躍できることも同じですね。ファンドレイジングの際に、実績もトラックレコード、会社の信用力、知名度、何にもなかった私たちに、どうして投資してくださったかというと、たぶん私はこういう信念にご賛同いただけたからだと思うのです。実際お話しすることはこれしかないわけですから。もちろん、ちゃんと儲かりそうでなければ投資はしていただけないと思いますけれども。
【森本】 ベンチャーキャピタルの人々が降り立っていけないようなアーリーやシードのところでのディールソーシングはどのように行っているのですか。
【山本】 経験を通して培ったノウハウがいくつかあります。一つは少人数のセミナーをずっと続けていまして、ここに来てくださった方々から資本政策的なことについて相談をお受けしています。ここに来られた方の中には、その後著名になられた方が何人もいますし、創業前の方にも多数ご参加いただいています。資本金が小さくて増資などできないと思っていたけれども、このやり方なら資本を増強し事業を先に進められるかもしれない、と思っていただけるようになると、当然投資のチャンスも広がります。もう一つが、ここが今すごく私たちが力を入れてるところですけれど、起業家の方の年齢は様々なのですが、私の知っているすべての成功したベンチャー企業には共通することとして、必ず20代半ばくらいの、その起業家と寝食をともにして一心同体となり、自分のこととして仕事をしてる人間がいるんですね。その典型的な例がソニーです。

25歳の盛田昭夫青年

【森本】 ソニーの創業時、確か井深大さんが38歳、盛田昭夫さんが25歳でしたよね。
【山本】 はい。三木谷浩史さんと一緒に楽天を始めた本城愼之介さんも当時、慶応大学の大学院生でした。こうした若い人たちが必ずいるんです。このことに途中で気が付いたわけです。以前ベンチャーキャピタル会社にいたときには、アーリーステージでの投資はやっていたのですが、会社設立前から関わりを持つということまではしていませんでしたので見過ごしていたのだと思います。このことは当社の採用活動をやってる中でも気が付きました。どうして私たちのようなできたばかりの小さな会社へやってくるのか、初めは不思議で仕方がなかったのですが、必ずそのような人たちがいます。その人たちのことを、私たちは「若手経営人材」と呼んでいます。
【森本】 智恵袋ではなくて力袋というわけですね。
【山本】 自分自身を思い起こしても言えますが、おそらく、20代の半ば頃にある、ある種のひたむきな真剣さというか、自分を成長させたいと思う必死さのようなものが、ベンチャーという新しい何かが生まれる時に、絶対的に必要なのだと思います。そもそも超アーリーステージなわけですから、たとえばMBAを持っているような30代くらいのバリバリの人に報酬を支払うことは難しいです。20代だと、ベンチャーの支払能力からしても若干高めに払えるということもあると思います。体力的にも20代でなければ難しいのかもしれません。
【森本】 人材採用にはそういう現実的な部分もあるんでしょうね。
【山本】 ベンチャーを考える上で、「若さ」と「才能」、これは大きなテーマだと思います。実際に、最初はお金の相談だけじゃなく人の相談でこられるケースが結構あるんですね。そこで、よくよく聞いてみると増資のことも考えているとか、資金調達をしたいという話になっていくのです。ですから、このような若い経営人材を採用するための支援が、起業のステージでは絶対的に必要だと私たちは思って、「若手経営人材発掘事業」というサービスを行っているのです。

ディール発掘としてのレンタルオフィス

【森本】 起業支援のひとつとしてオフィスの提供もなさっていますね。
【山本】 はい。すでに一定の規模としてレンタルオフィス業界があるのですが、当社の場合はただ単なる場所貸しではなく、人材やお金やソフトも提供しますということと結びつけていきたいと思っています。現在、青山と半蔵門の2カ所で展開していますが、これまでに急成長して巨大なインテリジェントビルに移転していかれた会社もあります。レンタルオフィスというだけでなくディール発掘の一つとしても機能しています。
【森本】 そういう意味では2005年春から始められている「起業家魂」という企画も、ディール発掘のひとつになりますね。
【山本】 本当の意味での創業期の方々が来るようにと知恵を絞った企画です。設立前の、会社をこれから始めたいと思ってる方、要はサラリーマンの方に対して、事業計画を募集し、1,000万円までは出資をしますということでリリースしたところ、エントリー時点で約100名の応募がありました。今後も、たとえば格闘技のPRIDEのようにシリーズとして継続し、一つの運動としてやっていくことで、新たに起業する人が必ず通過してくれるような、流れを作っていきたいですね。
【森本】 どれくらいのタームで開催するのですか。
【山本】 けっこう手間隙がかかるもので、とくに1回目はもう本当に死ぬ思いをしましたけれど、まあ、年に1〜2回という感じで考えています。もう少し体力がついてきたら、常時募集したいと思っています。
【森本】 今日お話しをお聞きしていてわかったことですけれども、山本さんでなければできないなと。結局僕らだと何が問題かというと、いろいろな経験を踏んできているので、違う論点がたくさん先行して出てきてしまう。リスクが取れなくなってきている。僕たちができないことがやれて確かにいいなあと思うけれど、でも、山本さんも年を取りますよね。
【山本】 そうですね。ただ、最初はインキュベーターだったのが、いずれはバイアウトをやりますなどと考えているといろいろな問題が起きてきますけれども、私たちは未来永劫延々このステージはやり続けていこうと思っているんですよ。ですので、私たちが携わっているマーケットのメッセージで、盛田昭夫青年を採用し続けることはできると思います。




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