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VC vision
前編 後編
第5回 ベンチャーに針路をとれ 前編 成長支援という資源
3年前のりそな銀行の発足とともに誕生した りそなキャピタル株式会社。
その半年後、役員を一新。経営理念の刷新を行い、
成長支援をメルクマールに独自の営業展開で
投資会社の開拓を進める りそなキャピタル株式会社。
この経営維新を断行した同社社長、高橋洋秀氏が語る、
新しい銀行系ベンチャーキャピタルの進むべき道とは。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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銀行のフロントポジションへと転換

【森本】 まず、りそなキャピタルの設立の時期と、その当時の周囲の状況やベンチャーキャピタル業界における位置づけなどについてお聞きできればと思います。
【高橋】 設立自体は、1988年3月ですが、3年前の2003年に親会社の銀行統合をきっかけにあさひ銀事業投資株式会社と大和銀企業投資株式会社が統合してできた会社が基本になります。2年半前には、経営陣の入れ替えと経営方針の改革が行われています。りそなグループでりそなキャピタルの社長の公募がありまして、その時に、社長だけでなく、取締役、執行役員も含めて、りそなキャピタルのほとんどの役員が交代いたしました。そのときに、私も応募をいたしまして、競争率は相当高かったようなのですが、私が社長に選出されたというわけです。
【森本】 統合以前と以後ではどのように変わりましたか。
【高橋】 りそなグループのひとつとしての役割を明確にした上で、本格的なベンチャーキャピタル展開をめざす体制に整備しました。1997、1998年くらいまでは、上場というと、20年、30年の歴史をもち、売上も100億円、利益も10億円、20億円といった安定した中堅企業が行うものでした。しかし、1998年のマザーズやナスダックジャパンの設立、ジャスダックの改革で、株式の公開基準が大幅に下げられたことで、新興市場の役割自体が変わり、発展途上のベンチャーの株式公開が容易になるなど環境が大きく変化しました。
【森本】 現在では、創業から2、3年、早い企業では1年で株式公開することも珍しくなくなっています。
【高橋】 今までのように銀行業務の一環とするベンチャーキャピタル事業の展開では、新しい起業支援が不可能になってきていたのです。ベンチャー企業が増えてくる状況にあるのに、そこがエアポケットになってしまうのですね。そのエアポケットを、戦略的にりそなキャピタルが埋めていこうという狙いをもっています。りそなキャピタルがベンチャーに対して先に投資を行って、その企業が大きくなれば銀行に紹介していく流れをつくる、銀行の補完的ポジションからフロントポジションへと転換させたことが大きな変化といえます。
【森本】 高橋社長はどのようなお考えから、りそなキャピタルの社長職に手を挙げられたのですか。
【高橋】 まだあさひ銀行時代ですが、銀行員のときにベンチャー支援をやっていた時期があります。ちょうど第3次ベンチャーブームの頃で、80年代の後半ですかね。藤村さんのカンキョーですとか、アキヤなどが元気なときです。そこで従来の業種とは違う分野の新規企業の成長を目の当たりにしてきたわけです。その際、こうした新しい成長分野で銀行としてできることは何だろうと考えたのです。銀行もベンチャーを取り込んでいかないと、既成業種ばかりでは成長性のないポートフォリオになってしまうわけですから。そこで、「ベンチャー支援事務局」を銀行内に立ち上げて、新しい企業の目利きをしてあさひ銀行グループの融資や投資に結び付けることをやりました。つまり、グループ内にベンチャーキャピタルを含めた仕組みをつくったわけです。

弊社の収益源は投資先の成長にある

【森本】 事業の結果はいかがでしたか。
【高橋】 正直いいますと、うまくいきませんでした。どうしてうまくいかなかったのかといいますと、技術評価に力点を置きすぎたということです。商品の革新性とか、技術の先端性にばかり目がいってしまっていたのです。しかし、テクノロジーが低くても社会ニーズに合っているとか、売れるものが、やはりあるわけです。でも、当時は、そういうことがわからなくて。とにかく、「いいものは売れる」ということで審査をして、融資や投資先を決めていました。第3次ベンチャーブームが下火になると、ベンチャー支援事務局も、火が消えたようになって、結局解散してしまったのです。弊社の社長に応募したことも敗者復活戦という意味合いがあります。
【森本】 高橋さんが社長になられて、具体的にやろうとしていることはどのようなことですか。
【高橋】 従来の銀行系のベンチャーキャピタルは、金は出すが口は出さないというスタンスです。要するに、小口分散で、何でもかんでも少しずつお金を出して、あとはがんばってくださいというものです。弊社も、ずっとそのスタイルでした。私が、社長に就任して、まず、変えたのが経営理念です。そのポイントは、「弊社の収益源は投資先の成長にある」というもの。投資したら、しっかりと成長支援をして、今までのように投資しっぱなしはやめましょう、と。そして、投資先の成長支援を行うには、どういう組織体制が必要かを考えて、ありとあらゆることを変えていきました。
【森本】 どのような組織改革に着手したのですか。
【高橋】 まず、最初に考えましたのは、お客様のエクイティのニーズに対して、ワンストップでソリューション提供ができる会社になりたいということでした。そこで、それまでのベンチャー投資に加えて、M&A、MBO投資の3本柱の体制を整えました。この3つをベンチャーキャピタル事業のなかで取り入れているのは、おそらく弊社だけではないかと思います。
【森本】 M&AやMBOといえば大企業のことと捉えられがちですが。
【高橋】 現在は中堅や中小企業でも一般的になってきていますね。企業を買うことや、自分の企業を売ることに抵抗がなくなってきています。弊社のM&A事業は、大きな収益部門になっています。次に成長支援を行うには、どのような成長支援をすればいいのかという問題があります。そこで、ハンズオン投資部を立ち上げました。ここは、投資企業のハンズオンの実施に特化した部で、営業支援機能をもたせている点も特徴です。
【森本】 銀行系のベンチャーキャピタルの強みは、銀行グループが抱えている顧客基盤を成長支援に使えるところにあります。
【高橋】 おっしゃるとおりです。私たちが投資した企業を銀行の顧客基盤と有機的に結び付けて、投資企業の売上向上に役立たせる体制をつくりました。





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