【森本】 投資案件の選別と審査の基準はどのようなものですか。
【鈴木】 基本的なガイドラインとして、ポートフォリオマトリックスというものを作成しています。一方の軸に業界の成長性を3つにランク分けし、もう一方の軸に企業の優位性を3つにランク分けしています。それを掛け合わせると9つのセルができるわけですが、そこに担当者が各自の判断でランク付けをした企業名を記入していきます。それを審査調査部が検証して、最終的に協議会においてすり合わせをしてから投資金額を決定しています。
【森本】 業種ごとに専任の担当者をおいたりするということもありますか。
【三木】 現在は、それは行っていません。ただし、得意な分野はある程度出てくるでしょうし、専門性がないと担当できない分野もあります。バイオや半導体などはその分野が得意な人が担当していくということはあります。そのためにも、若い人や経験のない人には研修をして各分野に通じるように育成をしています。また、特殊な分野に関しては、アドバイザリー契約をして、外部からの技術評価を受けるようにしています。各分野に通じたキャピタリストの養成、育成は重要な課題です。
【山田】 銀行系のベンチャーキャピタルでは、担当に業種の設定をしないほうがいいと思います。銀行の一番の強みは、すべての業種と幅広く取引ができることですから。しかし、専門的な掘り下げを行わない分、案件に対して中途半端にわかった気になることが一番危険なので、注意しなければいけません。
【森本】 投資の決定に際しては経営者の考え方や質を見極めることが非常に重要になってきます。
【山田】 そのためにも、投資するまでできるだけ長くお付き合いさせていただくことを心がけています。いきなり提出されてきた事業計画書を2カ月で判断することは非常に無理がありますが、先様と半年間お付き合いしたあとに出てきたものであれば、スピーディかつ精緻に判断できますからね。
【森本】 おひとりで一年間に何件くらい回られるのですか。
【山田】 先日たまたま名刺の数を数えたのですが、約2年半で、だいたい1,000枚くらいありました。つまり、それだけの数の方々とお会いしているということになりますね。
【森本】 かなりの数ですね。このような多数の案件の中で、投資先として決定するのにどのような点を重視されていますか。
【三木】 売上がまだない段階で企業がきっちり事業計画書をつくってきても、実際は、あまり判断材料にはならないですね。ビジネスモデルは、途中で変わるケースのほうが多いですからね。最終的にはやはり「人」ですね。よほど素晴らしいビジネスモデルであるならば別ですが、そういうものはこれまでに数えるほどしか出合ったことがありません。R&D系の企業であっても最後はやはり人、経営者の人間力で決まります。
【森本】 これまで投資を決断した企業の経営者に共通点している資質というものはありますか。
【三木】 一つだけいえるのは、自分のポリシーといいますか、芯をしっかりと持っているかどうか、ということですね。これだけは譲れない、というものを持っているということですね。それに、ビジネス環境の変化に臨機応変に対応できる柔軟さを合わせもっていることも重要ですね。
【森本】 順調に公開までこぎつける社長というものは皆無ということですね。
【三木】 経営者というものは、倒産の危機にあったり、ビジネスモデルの変更を余儀なくされたりというターニングポイントとなる時期を必ずどこかで経験するものです。こうした変節を乗り越えて公開にこぎつけた社長からは、芯の強さや変化への対応力といったものが自然と伝わってきます。 |