起業家・ベンチャーキャピタル・投資家を繋ぐコミュニティ・マガジン

VC vision
前編 後編
第5回 ベンチャーに針路をとれ 前編 成長支援という資源
3年前のりそな銀行の発足とともに誕生した りそなキャピタル株式会社。
その半年後、役員を一新。経営理念の刷新を行い、
成長支援をメルクマールに独自の営業展開で
投資会社の開拓を進める りそなキャピタル株式会社。
この経営維新を断行した同社社長、高橋洋秀氏が語る、
新しい銀行系ベンチャーキャピタルの進むべき道とは。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
投資先一覧パートナー
成長支援を切り口にしたファンド

【森本】 そうした組織体制で運用するファンドにはどんなポリシーがあるのでしょうか。
【高橋】 弊社のファンドは、基本的に目的別につくっております。たとえば、ジャフコさんでしたら、お金をベースにして投資するという形ですが、うちは、投資がベースになったファンドを立ち上げています。現在ファンドは14本ありますが、全部、特定の目的があってつくられた非常に特徴のあるファンドです。
【森本】 具体的にはどのようなファンドがありますか。
【高橋】 まず、USEN様とりそな銀行と弊社の3社でつくったファンドですが、これは、USEN様の強い分野の企業に特化して投資しています。また、デジタルガレージ様とりそな銀行と弊社の3社で出資したファンドは、デジタルガレージ様が得意なIT関係の企業に特化して投資しています。そのほかにも、埼玉りそな銀行や、近畿大阪銀行などと組んだ、地域に特化したファンドもあります。比較的狭い範囲で特化した業種や地域にあわせてファンドを構成しているのが弊社の特徴といえます。
【森本】 ところで現在準備なさっているファンドはこれまでとは違った形のものになるとお聞きしていますが。
【高橋】 はい。りそなグループで初めて外部の出資を募ってファンドを立ち上げます。中小企業基盤整備機構を活用して、機構から10億円を出資していただき、弊社が10億円、りそな銀行からも10億円を出資して30億円のファンドをつくります。これは、機構のもつ支援機能と、弊社やりそなグループが従来からもつ成長支援機能を有機的に結合させて、強力なベンチャー支援体制をつくろうという狙いがあります。ですから、特定の地域や業種にこだわることのない、成長支援を切り口にしたファンドになります。6月の頭くらいにはスタートできる予定です。
【森本】 外部出資者の募り方にはどのような方法をとっているのですか。
【高橋】 投資家に広く募集をかけて、資金を集めてファンドを立ち上げる手法は取ってはいません。ファンドの特定の目的に合った最適な方を一人か二人入っていただきファンドをつくっていくというのが私どものスタンスになります。
【森本】 今回の新しいファンドで、成長支援に着目したポイントはどんなところにありますか。
【高橋】 まず、私が銀行員時代にベンチャー支援事務局をつくった時に、企業の評価には力を入れても支援は全然できていなかったという反省があります。お金を出すことも重要ですが、結局は、お互いがパートナーとして一緒に成長していかないと、全然共感を得られないわけです。投資先からも単に儲けるために投資しているのでしょ、と言われるだけになってしまいます。
【森本】 ベンチャーキャピタルという狭い業界の中で、あそこは儲けることしか考えていないという情報が広がることは避けたいことですね。
【高橋】 はい。成長支援するからこそ収益が上がるのだということを徹底したわけです。それが今回のファンドに込めた一番のコンセプトになります。
【森本】 なるほど。
【高橋】 また、経営者の目からすると、成長支援は、投資企業が大きくなって収益の源泉になると同時に、弊社の投資リスクを減らす二重の意味のメリットがあります。投資企業と弊社の双方がハッピーになれるWIN−WINの関係もつくれるわけです。

末永くお付き合いいただけるベンチャーキャピタル

【森本】 りそなキャピタルは、銀行から出向してこられる方が多いのですか。
【高橋】 今、出向社員は増加ベースにはありません。弊社が直接採用した社員が15%くらいを占めています。私が着任した2年半前は、100%が銀行の出向社員でした。これは要するに、ベンチャーキャピタル事業に銀行員以外の多様な目線が必要だということです。銀行員としての経験を積んでくると、やはり融資の目線になってしまい、成長支援に意識が向かっていかないわけです。私が欲しい人材は、メーカーであったり、消費者であったり、いろいろな立場の目線でものが見られる人なのです。
【森本】 どのような経歴の人が多いのですか。
【高橋】 それは、ひとくくりにはできないですね。元証券会社の人もいれば、メーカー、コンサルタントの出身者もいます。M&Aの部署も、経験者優先ではなく、あらゆる職種の人を対象に採用しています。M&Aは経験がなくても、ベテランが教えれば、半年もあれば、中途半端に経験しているよりも力を発揮してくれます。ただ、センスは必要ですね。それと、とにかくM&Aがやりたい、という意欲が高いことも重要です。
【森本】 話をファンドに戻しますが、ファンドの出資は、りそなキャピタルとりそな銀行の二人三脚の形態が基本のようですが、グループ全体で、どこのステージはりそなキャピタルで、ここからは銀行で、というような戦略的位置づけはあるのでしょうか。
【高橋】 はい、あります。グループの法人戦略の中では、弊社は、アーリーステージの部分を担当することになっています。やはり、銀行の融資という間接金融ではリスクを取れないゾーンを弊社が担当して、成長支援である程度企業が大きくなったら、あとは銀行を紹介して、間接金融の対象にしてもらうという流れがあります。成長企業をグループとして取り込んでいく戦略の先兵として、ベンチャーキャピタル展開が位置づけられているという形です。
【森本】 公開後にも企業成長はあるわけですから、公開したら手を引くというベンチャーキャピタルだと、本当の意味での成長支援にならないともいえますね。
【高橋】 ええ、ですから、公開したあとも投資企業への訪問は続けています。公開後の企業の買いニーズは非常に高いわけで、弊社の例でいうと、10社投資したら、3社倒産し3社が公開し、4社がリビングテッドという比率です。そこには、売りニーズも買いニーズも出てきます。それをマッチングするだけで案件化ができるわけです。公開したあとにお会いしに伺うときには、必ずM&A部隊も同行するようにしています。だから、弊社は、末永くお付き合いいただけるベンチャーキャピタルといえます。バイアウトの会社も昨年の3月につくりましたので、エクイティ部門ではワンストップでソリューションを提供できるようになりました。

後編 「ネットワークという資源」(7月19日発行)へ続く。





HC Asset Management Co.,Ltd