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VC vision
前編 後編
第9回 パイオニアという名のベンチャー 前編 ベンチャーキャピタルの産業化
日本のベンチャーキャピタルの草分けとして33年の歴史をもつ 株式会社ジャフコは、
フルラインでプライベートエクイティの投資・運用活動を展開する
業界最大手のベンチャーキャピタルである。
ベンチャーキャピタル業界が、来年の金融商品取引法施行や
これまで間接金融を中心としてきた金融機関のベンチャーキャピタルへの参入など、
大きな転換期を迎えるなか、
ジャフコは、いまどのような新しいビジネス展開を模索し、チャレンジしようとしているのか。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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ベンチャーキャピタルと呼ばれることに違和感を感じる

【森本】組織的な対応が求められているということですね。
【豊貴】そうです。ジャフコの場合は、もともとパートナーシップではなく法人として投資活動をスタートしており、さらにジャフコ自体を上場させ不特定多数の株主を抱えていることや、多様な出資者を抱えているなど、海外のモデルや、一般的に語られているベンチャーキャピタルとは根本的に違うところがたくさんあります。そういう意味ではジャフコがベンチャーキャピタルと呼ばれること自体、純粋にベンチャーキャピタルを標榜されているところに申し訳ない気もしていますし、現在のジャフコの目指す方向性を考えると、そう呼ばれることに違和感も覚えます。
【森本】海外におけるプライベートエクイティファンドとも大きく立ち位置や成り立ちが異なっていますね。
【豊貴】はい。しかも、ジャフコの場合は出資者も広範囲にわたっていて、特定の機関投資家だけではなく、事業会社や個人に広くまたがっています。また、我々は全ての出資者に対して持続的に安定したパフォーマンスを出していくこと、それをジャフコがゴーイングコンサーンであり続ける限り続けていくことが事業の目的なのです。パートナーシップ型のベンチャーキャピタルが、特定の個人に依存し、その人が非常に元気なときに最大のパフォーマンスを出しますというスタイルでアピールして、投資家がそれを見極めて資金を出していく形態とは根本的に違うわけです。米国でも、そのようなかたちで際立ったパフォーマンスを上げているところは、ほんの一握りです。それ以外は新たなファンド設立すら厳しい状況のベンチャーキャピタルが大半なのが現実です。しかもパフォーマンスの良いベンチャーキャピタルのファンドに出資ができるのは既存の出資者に限られ、日本を代表する機関投資家もアクセスできないのが現状ではないでしょうか。
【森本】パートナーシップとかハンズオンを前面に出しているベンチャーキャピタルとは運用の仕方が、かなり違うわけですね。
【豊貴】ええ、多くの出資者から多額の運用資金をおあずかりする以上、我々の投資スタイルはハイリスクハイリターンです、常にホームランを狙っています、当たらなければごめんなさい、と言うわけにはいきません。パフォーマンスが悪くてファンドも集まらなくなったから廃業しますという無責任なことも当然できません。特定のパートナーがいなくなったから投資を止めるわけにもいきません。あらゆる投資機会を捉え、常に持続的安定的なパフォーマンスを出していくための投資戦略が求められます。海外でもベンチャーキャピタルに比べてパフォーマンスの安定しているバイアウトファンドやセカンダリーファンドに資金が集まるのも、そのような出資者ニーズが背景にあるのかもしれません。

未上場株式投資運用会社

【森本】事実、プライベートエクイティ業界自体が、大きくなりつつあります。
【豊貴】私どもは、それを「プライベートエクイティの産業化」と勝手に呼んでいます。「貯蓄から投資へ」という国策にも合致し、ここにもリスクキャピタルが大量に流入してきています。メガバンクや証券会社、内外の買収ファンドや事業会社も含めて実に多くのプレーヤーが参入してきています。ジャフコもその中にあっては小規模の専業者としての戦略をとる必要があります。スピードと局地戦での強さが要求されます。一方で、投資対象としては有望なベンチャーの起業が急増しているのを実感しています。「小さな政府」「官から民」という流れのなかで、規制緩和が進み、ITサービスや金融・不動産を含めたサービス業などに有力なベンチャーが多数出てきています。また新会社法によって、起業環境もかなり整備され、成長戦略のM&Aもやりやすくなりました。そうしたなかで、急激に増加した我々のようなファンド運用会社の選別・淘汰も激しくなっていくだろうと思います。
【森本】そのなかでも、金融商品取引法の施行は大きな出来事だというわけですね。
【豊貴】ええ、来年の夏ごろからいよいよ金融商品取引法が施行されるわけですが、我々の業界は、完全にこの規制のなかで業務を行うことになります。ベンチャーファンドであろうと、買収ファンドであろうと、あるいは、海外のファンドであっても、日本でお金を集める場合には何らかの規制を受けることになります。ここまできた以上、この業法の施行はプライベートエクイティが拡大し、産業化していくための一里塚であると前向きに捉え、むしろそれを当社の業務遂行のアドバンテージにしていこうと考えています。
【森本】産業化は、ずいぶん前から言われていたことですが、その考えは依然として新しい概念だと思いますから、ベンチャーキャピタルに限定されない、新しい産業ができればいいと思います。
【豊貴】先ほどから申し上げていますように、ジャフコ自体がベンチャーキャピタルの範疇でくくれない会社です。インキュベーションからバイアウトまで手がけているわけです。ファンドとしては、大きく分けるとベンチャーファンドとバイアウトファンドの2本立てで投資を行っており、これらあらゆる投資の運用を通して、出資者ともいろいろなレベルでのお付き合いをさせていただいています。たとえば、いま、ファンドを組成していく際に、本格的に年金資金が入ってき始めていますが、年金基金の担当者は、ベンチャーキャピタルといっても知らない方が多いのです。あるいはジャフコという会社も知らないとかですね。
【森本】ベンチャーキャピタルという言葉自体が、多用なとらえられ方をしていますからね。
【豊貴】そこで、今は出資者にジャフコを「未上場株式投資運用会社」ですと説明しています。ベンチャーキャピタルですと紹介すると、投資スタイルやイメージするリスクやファンドのパフォーマンスに対する誤解を招くからです。この「未上場株式投資運用会社」のほうがジャフコの実態を表していますし、我々の強みを表現できているのではないかと思います。そして最強の「未上場株式投資運用会社」となるべく、ひたむきに愚直に業務を進めている最中です。


後編 「ポストベンチャーキャピタル」(11月15日発行)へ続く。


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