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VC vision
前編 後編
第9回 パイオニアという名のベンチャー 後編 ポストベンチャーキャピタル
ジャフコの特徴は、ベンチャーキャピタル事業の組織的運営力にあるといっていいだろう。
そこには、個人の目利きとネットワークを武器にした独立系ベンチャーキャピタルとは
明確な一線を画した仕組みがある。
今、ジャフコは「プライベートエクイティの産業化」を標榜している。
これまでの実績と課題を踏まえ、今後どんなビジネス展開を具体的に目指しているのか。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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循環するビジネス「バリューチェーン」

【森本】 ジャフコは上場されていますが、確たる収益基盤があってこそ可能なことだと思います。欧米流のプライベートエクイティファンドを例に取りますと、成功報酬が非常に高く、うまくいくとすごい収益があがります。御社の収益モデルはどのようになっているのでしょうか。
【豊貴】 パートナーシップのファンドが、運営する人件費を中心としたコストをファンドの管理報酬で賄い、成功報酬をいただくという構造はジャフコも一緒です。異なるところはジャフコの自己資金を相当な規模で自らが運用するファンドに出資し、直接的にキャピタルゲインや上場時の現物分配株を得るところです。ただ、ファンド運用会社としては、人数の割に運用しているファンド総額が、まだ少ないと認識しています。米国のベンチャーキャピタルファンドもかなり大型化してきていて、パートナー一人当たりの運用額も大きくなっています。実はパートナーシップの形は取っていますが、かなり組織化されてきています。
【森本】 ピュアなベンチャーキャピタルでも、キャピタリスト以外のメンバーも入れて50人、100人という規模になってきていますからね。
【豊貴】 ジャフコはアジア、アメリカの投資拠点まで含めて300人弱の役職員がいて、現在運用中のファンド総額は約4,600億円です。そのうち外部出資の割合が3分の2ぐらいで、残りはジャフコの出資分です。ファンド運用会社としては、充分なサイズとは言えません。ここ数年、ファンドの募集、投資・運用能力の向上をはかり、その機能を強化してきています。
【森本】 ベンチャーキャピタルと呼ばれているところで、ファンド運用という業態を強く意識されているところは、不思議なぐらい少ないですね。
【豊貴】 産業育成や起業家支援、ビッグサクセス的な側面だけが強調され過ぎ、ベンチャーキャピタルにとって、お金の出し手、つまり顧客である出資者そっちのけで、投資スタイルの議論や「あるべき論」が先行する傾向が少なからずあるような気がします。ある機関投資家から聞いた話ですが、ハンズオン投資を売りにしている業界では名の知れたベンチャーキャピタルが、役員派遣をしている投資先の追加投資のためにキャピタルコールをした。ところが、その投資先が、それから一カ月も経たないうちに倒産してしまった。何も言ってこないので呼び出して説明を求めたところ、倒産の理由を悪びれずに、とうとうと話したそうです。顧客であるはずの出資者をないがしろにした極端な事例ですが、笑えない本当の話です。リスクキャピタルを出資者から調達し、それを企業に投資し、価値を高めて売却し、出資者に分配をする。そしてまた出資をしてもらう、というあたりまえのことですが、本来循環させなくてはならない仕事のはずです。私どもは、それを「バリューチェーン」と呼んで、その循環を強く太く可能な限り早くすべく、日夜取り組んでいます。循環し続けるためには、出資者に対する持続的、安定的なパフォーマンスの提供と、運用会社としての利益が必要なことは言うまでもありません。それを常に絶やさず継続していくことが、業の本質ではないかと思っています。
【森本】 その投資・運用をどのように展開しているのですか。
【豊貴】 アジアとアメリカは地域をある程度限定し、IT関連に特化した投資をしています。ファンドはそれぞれ別々に運用しています。外部の出資も受入れていますが、基本的には日本で募集したファンドの資金の一部を出資しています。いわゆるファンドオブファンズの形態をとっていますが、管理報酬や成功報酬の二重取りは当然のことながらしていません。国内は100名を超える投資スタッフがいて、インキュベーションからバイアウトまでフルラインで投資機会をカバーする体制をとっています。ベンチャー投資とバイアウト投資は、現状別々のファンドを設立し運用しています。特定の業種に限定せず、ステージも分散したバランス型のポートフォリオを目指しています。機関投資家の方々が継続して出資していただけるように、数百億円規模のファンドを継続的に運用していますので、ホームラン狙いだけのポートフォリオを組むわけにはいきません。Googleのように初値が2兆円といった本当のビッグサクセスがあれば別ですが。日本の新規上場市場では、最近でこそ初値が1,000億円を超える新規上場がようやく出てきましたが、仮に、その20%を保有していたとしても、それだけでファンドのパフォーマンスが何倍にもなるわけではありません。ホームランだけでなく打率も上げていくことで、パフォーマンスを安定させ、いわゆるJカーブも軽減することもできます。上場確度の高いミドル、レーターステージの会社にも投資するのはそのためです。バイオやITのアーリーステージやスタートアップ企業に投資するのは、変化率を狙うからです。そのためには、あらゆる投資収益機会を貪欲に追い求める必要があります。年間に1万社超の新規開拓を行ない、500社強の投資検討をし、200社を超える企業に投資をしています。もちろん、投資先上場企業やいろいろなネットワークから有望な企業の紹介もいただきますが、それだけではディールフローが安定しません。常に多くの投資対象先を追い求める体制をつくりあげていないと、いつかはそれが枯渇します。属人ベースのネットワークに頼るだけでは限界があり、むらが生じます。常にベストの投資対象に投資しているとは言い切れないはずです。最近では、東京23区も担当責任体制を敷いて徹底的にカバーしています。決してかっこいいやり方じゃないかもしれませんが、そう簡単に真似されないのではないかと思います。

組織力を強化していく

【森本】 プライベートエクイティ業務のすべてを網羅する体制づくりですね。今までいろいろなベンチャーキャピタルに話を聞いてきましたが、どうやって儲けるのかという仕組みを聞いたことはあまりありませんでした。ハンズオンで私がやりますとかいうレベルの話ばかりで。ジャフコの場合は、それをちゃんと構築されているわけですね。
【豊貴】 まだまだ不充分だと認識しています。属人に過度に依存せず組織的な強さを高めていくことが、パフォーマンスの安定につながると考えています。そのためには、組織を構成している一人一人の規律を限りなく高めていくことが求められます。出資者の期待にこたえる、投資候補先の企業とギリギリの交渉をする、投資先と厳しく向かいあい信頼しつづけるなど、役職員全員が「体をはった」状態でありつづけないと成立たない仕事なのではないでしょうか。しかもそれを営々と続けていく。それは報酬制度や個々人のモチベーションに頼るだけでは実現できないものなのかもしれません。そのくらいの高い規律が求められる厳しい商売だと実感しています。最近は、組織力を高め差別化をより明確にするために、投資先の価値向上をはかる専門の組織も立ち上げています。組織として、投資先の価値向上のために提供できることと、できないことを明確にし、属人の限定的なネットワークに依存せず、それを組織的に提供していく。その機能を有力な事業会社にも担っていただくべく、出資者になってもらっているケースもあります。利益相反という観点から事業会社を出資者にすることの批判があることも承知していますが、意図的にそうしています。パフォーマンスの向上とベクトルを本当に合わせられる機会が多いと感じているからです。ただ、我々の仕事で一番大事なことは、やはり「素材」の選択だと思います。「利は元にあり」というのがやはり原点だと思います。




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