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VC vision
前編 後編
第9回 パイオニアという名のベンチャー 後編 ポストベンチャーキャピタル
ジャフコの特徴は、ベンチャーキャピタル事業の組織的運営力にあるといっていいだろう。
そこには、個人の目利きとネットワークを武器にした独立系ベンチャーキャピタルとは
明確な一線を画した仕組みがある。
今、ジャフコは「プライベートエクイティの産業化」を標榜している。
これまでの実績と課題を踏まえ、今後どんなビジネス展開を具体的に目指しているのか。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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我々の原点は「素材」ありき

【森本】 投資をする対象がよくなかったら、なにも始まらないわけですからね。
【豊貴】 極論すると「成功する人には、誰が投資しても成功する。失敗する人には誰が投資しても失敗する」。投資家の独り善がりはさておき、これはかなりの確率で真実なのではないかと思います。こういうと身も蓋もないように聞こえますが、謙虚にそう思うことにしています。我々投資会社が、起業家や経営者を支援させていただくことで、その事業が、より早く大きく成長することが少なからずあることも事実ですが、「素材」の根本は変えられないということを、しっかり認識していないと、時に勘違いをしてしまいます。「素材」という表現は失礼かもしれませんが、その大きな要素は、やはり起業家、経営者だと思います。弱い経営者をいくら支援しても強くならない。起業家支援や産業育成といった課題においても重要な点だと思います。そういう意味で、我々の仕事の本質は、ある面「人探し」かもしれません。できるだけ多く、常に多くの「素材」に会ったところが、結果的には最良の「素材」を選択し、良いパフォーマンスや組織を永続させられる。成功する人を探し、成功する事業に投資をする。問題は、誰が成功するかを予見することが難しい。あたりまえのことですが、そう簡単なことではありません。だから、この仕事がおもしろいのかもしれません。「成功の母は多いが、失敗の父は少ない」のも我々の業界の特性なのでしょうか。投資先が上場したら、あれをやったのは自分だと言う人は大勢出てきますが、失敗したのは自分のせいだと言う人は、あまりいません。失敗したのは起業家、経営者のせいでしょうか。ハッキリしていることは、それを選択したのはベンチャーキャピタルだということです。
【森本】 最近のベンチャー企業は随分変わってきているようですね。
【豊貴】 起業環境が歴史的に変わってきつつあることを実感しています。従来いわれているようなベンチャーキャピタル投資では捕捉できない投資先が増えてきています。最近でいうとドリコムとかミクシィ。いわゆるベンチャーキャピタルは、どこも投資できていないんですね。
【森本】 ほう。
【豊貴】 ドリコムやミクシィには事業会社系の投資会社とかインキュベーションをやっているところだけが、未上場段階で投資をしていました。どうしてベンチャーキャピタルが投資できていなかったのか。この2社に対して、今後の成長性が疑問だとか、過大評価だと論評する人が我々の業界にもいます。しかしながら上場後の時価総額が一時は、それぞれ1,000億円、2,000億円を超えた会社です。投資対象としても充分に魅力的な会社であるにもかかわらず、収益化している会社に投資してもおもしろくないとか、投資家としてその会社をコントロールできない投資は意味がないとか、投資のスタイルにこだわりすぎて、経営者のスピード感についていけなかった側面もあるのではないかと思います。
【森本】 それは大きな問題ですね。
【豊貴】 ベンチャーキャピタルが投資していないこれらの会社に投資している、あるインターネット系事業会社の投資部門のメンバーは非常に若い方々で、半分は新卒で入社して3年目くらいの人達です。先日、その2社に投資をした事業会社の創業社長にお話をさせていただく機会がありました。非常に著名な方で、業界でも注目されている若手の経営者です。なぜドリコムやミクシィに投資ができたのですかとの問いかけに「投資させてくれと、何度もお願いしただけですよ」と答えられました。2社への投資が150億円を超える含み益をもたらしているはずです。その謙虚な姿勢に感銘を受けました。ベンチャーキャピタルは経験が必要だといわれているのですが、ときには経験が足枷となり、新しい企業に入っていけないこともあります。時代の変わり目とか、そこに生まれる事業を受入れる感性とかが必要だと痛感します。創業期の企業は、あっという間に変化しますから、気がついたときには遅すぎて投資のチャンスがないこともあります。



【森本】 従来ですと、ベンチャーキャピタル投資は業界が小さくて、あまり注目されていませんでしたが、最近は大手の銀行や証券会社が、こぞって参入しています。
【豊貴】 歴史的に見ても大企業への融資はますます減る傾向です。、、こうした状況を受け、大手銀行や証券会社は新興企業のエクイティの源流を押さえておこうと、プライベートエクイティにも激しく参入してきています。元々日本は間接金融が強いマーケットですし、デットとエクイティの境目が曖昧だったり、ベンチャー企業の起業家も意外と「ブランド志向」だったりしますので、メガバンクや大手の証券会社は当然のことながら手ごわい存在です。プライベートエクイティは、ベンチャーキャピタルやバイアウトファンドなど専業者だけの世界ではなくなってきています。
【森本】 プライベートエクイティが産業化していくことで、ベンチャーキャピタルの競争も激しいものになってきそうですね。
【豊貴】 事実、厳しいものになってきています。日本のベンチャーキャピタルの年間投資額は約2,500億円と言われていますが、米国は2兆円を超えています。投資残高では日本が8,000億円で、米国は20兆円くらいという数字が出ています。しかし、日本のベンチャーキャピタルのマーケットはこんなに小さいのかというと、実は統計に出てこない金融機関の自己投資等が、かなりあるのです。加えてバイアウト系のファンドや、最近では大規模の不動産系のファンドもベンチャー投資に参入し始めています。投資手法や考え方が違うから、そもそも彼らは競争相手にならないという意見もあります。果たしてそうなのでしょうか。来年の金融商品取引法の施行により、既存のファンド業者の淘汰が起こり、よりダイナミックなプレイヤーが参入してくるかもしれません。1982年以来、使いつづけてきた投資事業組合というヴィークルも、他の金融商品に比べて、法的にあるいは税務的にも、いまだ完全なものとは言えません。今後抜本的な見直しが必要になるかもしれません。このように我々の業界を取巻く枠組みが劇的に変わり、投資環境も構造的な変化を遂げようとしています。大袈裟にいうと、まさにパラダイムシフトが起きている気がします。我々も、日々ものすごいスピードで進化しなければ生き残っていけないし、そうすることができれば寝ている時間ももったいないと感じるぐらい、さらにおもしろい仕事ができる歴史的な瞬間にいるのだと実感しています。

インタビューを終えて

これまで管轄省庁がなかったベンチャーキャピタル業界にとって、来年の金融商品取引法の施行は、業界の近代化を進める新時代の幕開けだ。プライベートエクイティ分野全体も、銀行などの間接金融の活発な新規参入で群雄割拠の様相を見せはじめ、ベンチャーキャピタルを取り巻く環境は大きな変動の渦の中にある。こうした状況を前に、ジャフコは、「プライベートエクイティの産業化」を標榜し、インキュベーションからバイアウトまでの投資を網羅した組織力の一層の充実と、投資収益機会を確実にとらえる仕組みを、きめ細かにつくることで、今後の活路を見出していく考えだ。ベンチャーキャピタルのパイオニアとして一日の長をもつジャフコが、資金、プレーヤーが急激に増大しつつあるプライベートエクイティ分野を舞台に一層の飛躍を遂げられるか否かは、ベンチャーキャピタル業界の今後の動向を占う意味でも、重要な指針になるはずである。(森本紀行)

次号第10話(12月6日発行)は、伊藤忠テクノロジーベンチャーズの安達俊久さんが登場いたします。


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