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VC vision
前編 後編
第10回 ベンチャーマインドの求心力 後編 ビジョン、ミッション、パッション
伊藤忠テクノロジーベンチャーズは、
親会社である伊藤忠商事の資金が中心のファンド運営を改め、
投資家からの出資を積極的に促す戦略に打って出ている。
IT分野で高い評価をもつ営業支援、経営支援の実績を生かし、
幅広い分野に拡大したファンド展開を視野に入れる伊藤忠テクノロジーベンチャーズは、
今後どんな投資スタイルを確立させようとしているのか。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
投資先一覧パートナー
キャピタルゲインが最大の目的

【森本】 伊藤忠テクノロジーベンチャーズの投資についての体制と考え方をお伺いしたいと思います。まず、スタッフの陣容はどのようになっていますか。
【安達】 現在、私を含めて4名が常勤役員をしていますが、そのメンバーが投資責任者になります。次にサポート人員として5名がいます。この5名は近い将来、投資責任者になる人材です。以上9名の体制で運営しています。ほかに、3名のバックオフィスの事務担当がいます。
【森本】 皆さん、生え抜きの方ですか。
【安達】 この9名は、一人を除いてみな伊藤忠商事の出身です。経験から言うと16〜17年の者が主になります。そして、一人はCTCからの出向です。全員が、IT情報産業でビジネス経験を積んできた者でして、これが、特徴であり、強みだということです。
【森本】 商社系ベンチャーキャピタルとして、三井物産系とか三菱商事系などの大手商社と比較して、ネームバリューで劣るということはありませんか。
【安達】 住友商事が出資しているベンチャーキャピタルや、三井物産系、三菱商事系のベンチャーキャピタルとは、それぞれが同じベクトルを持った競合関係にあるのは確かですが、問題は、いかに投資先の企業価値を高めて成長軌道に乗せるかにあるわけです。ですから、住友商事系や、三井物産系にしても、一緒にやりましょうということであれば、問題なく一緒にやることになると思います。あくまでもキャピタルゲインを得ることが最大の目的ですから。そのための最良の方法であるのなら、それでかまわないわけです。我々は伊藤忠商事の情報部門からは独立していますから、決して伊藤忠グループとしての利益を守ろうという観点からは行動していません。むしろ、我々がベンチャーキャピタルを運営するに当たって、伊藤忠商事の管理下にはないということは、投資家や投資先の方々にも充分にわかっていただいていることでもあります。
【森本】 ベンチャー企業の経営者は、株主の名前にこだわるところがありますが、事業に不都合が生じるなどのケースはありませんでしたか。
【安達】 それは経験したことがないですね。ベンチャーキャピタルというのは、非安定株主で、上場すれば売却することになりますが、そういう非安定株主であっても、株主に伊藤忠という名前が入っていることに対しては、ベンチャー企業からは優位に感じてもらっていると思います。
【森本】 なるほど。ITに特化していることで他のベンチャーキャピタルとの棲み分けもできていると考えていいですね。
【安達】 特化型ファンド、ゼネラル型ファンドと言われますが、日本では銀行系も証券系も全部ゼネラル型なので、ゼネラル型のほうが多いと思うのですが、ゼネラル型ですべての分野をカバーするといっても、結果的にITが多くなっていると思います。また、ITはベンチャーが起業しやすいということもありますから、4割ぐらいはIT関連企業への投資になっていると思います。我々がITに特化しているといっても、他のベンチャーキャピタルとの競合部分は、実際は大きいのですが、しかし、我々のパートナーシップは高い専門性をもつので、現場では競合しているような実感はあまりありません。

地道なネットワークをたどっていく

【森本】 案件の掘り起こしについては、どういう形で進められていますか。
【安達】 設立当初は、伊藤忠グループからの紹介案件が多かったのですが、徐々に自主発掘の比率が高くなり、現在では9割が自主発掘です。発掘の手法については、これはもう、地道にネットワークを積み重ねていくことです。他のベンチャーキャピタルからの紹介、取引先の紹介、ITコンサルタントからの情報、それに監査法人などいろいろなルートからの紹介や情報を通じて開拓しています。だいたい、年間400社の社長とお会いしています。そのうち実際に投資する会社は10社程度です。
【森本】 選別に至るまでには、どういう基準で進められていらっしゃるのですか。
【安達】 先ほど、テクノロジーは10%程度の比重と申し上げましたが、最初の入り口は、やはりその技術が本物なのかどうかがポイントになります。技術の確かさ、市場に受け入れられるか、競合との関係はどうか、を判断するわけです。次に、市場の成長性、つまり、売れるかどうかというポイントですね。たとえば、いくら小さいニッチでも隙間があれば、成長していけます。とくにニッチマーケットに関しては、他社に先駆けていかに早く立ち上げるかにかかりますから、判断の的確さとスピードが重要です。それから社長の資質判断というプロセスに移ります。経営者判断は、もう何度も何度も会って時間をかけて見極めていくことになります。ベンチャーキャピタルとはいえ、投資額は何億円という金額に上りますから、相性も重視して慎重に進めていきます。
【森本】 経営者をみる際にどこをご覧になりますか。
【安達】 私は、ビジョン、ミッション、パッションの3つにポイントをおいています。まず、ビジョンがないことにはビジネスを進められません。次に、ミッション、つまり、そのビジョンをどうやって実現するかという目的意識ですね。そして、それを何が何でも実現しようというパッション。情熱、熱意がなければ、すべてのベンチャーは成功しません。
【森本】 当初かかげたビジョン、ミッションでも、どんなに情熱を傾けてもうまくいかないこともあります。
【安達】 そうなのです。どんな事業でも、必ず壁に当たります。そのときにどうするかという人間性、人間力が重要になってくるわけです。ここが経営者としての最大の資質となります。大切なのは、問題が起きた時にどういう判断をするか、どういう対応ができるかです。ここは非常に感覚的な、感性の部分でもあるのです。柔軟性があるか、ないかの違いが大きく作用します。「自分のつくったものがすべてだ」とこだわりが強いとうまくいかなくなってしまうことがよく起きます。立ち位置がぶれてしまうので、大きい意味でのビジョンを変えるのは避けなければなりません。そういう発想に柔軟性を発揮するのは、案外難しいのですが、それだけに重要ですし、成功の大きな要素にもなってきます。




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