【森本】 ITXの設立の経緯をその時代背景も含めてお話しいただけますか。
【塩谷】 生い立ちをいいますと、ITXは総合商社である日商岩井の情報産業本部が2000年に分離・独立する形で設立した会社です。日商岩井が情報産業本部を立ち上げたのは1984年のことです。元をたどれば、もっと早くから事業展開をしているのですが、事業本部としてのスタートはこの1984年になります。商社の一部門ですから、当然、営業部隊が主流となる組織構成になっていまして、電子機器、家電関連機器、通信機器の輸出・販売を主な事業内容としていました。1980年代半ばといいますと、電電公社の民営化が進められた時代になります。
【森本】 我が国で1985年にNTTができる1年前には、米国でも通信の自由化によって、同国の通信業を独占的に支配していたAT&Tの分割が実施されました。
【塩谷】 はい。1980年代後半は、内外の通信業界において、新規企業が参入してくる自由競争が始まった時代と言えます。その自由化にともなって、国内ではDDI、日本テレコム、日本高速通信などの通信事業への参入がありました。そういうビジネスチャンスに対して、他の商社同様に、日商岩井の通信事業部門も、この分野での投資を始めていったわけです。その後に、携帯電話の普及が進むようになり、現在のau、ソフトバンクなどの携帯電話会社の前身となる企業群に投資をしていきまして、通信分野においての投資範囲も広がっていきました。一方、自分たちで新しく立ち上げた事業としては、大きなものとしては、富士通との共同事業であったニフティがあります。商社的なトレードを主としつつも、その傍らで、自らの事業創出もやっていこうとしたものです。投資した事業のいくつかが上場を目指す展開に進んでいき、事業収益だけでなくキャピタルゲインも強く意識するようになりました。
【森本】 なるほど。
【塩谷】 1990年代後半になってきますと、インターネットの普及とネットバブルでIT関連の案件も増えてきたわけですが、そこで、課題が出てくることになります。大組織ですから、ITの世界とは、投資決定までのスピード感がどうしても合わない。さらに、投資の決裁者である当時の日商岩井の役員は、鉄や石油、食糧を仕入れたり売ったりしてきた経験者で占められていて、まったく違うインターネット分野には馴染みがないわけです。ですから、的確な投資判断もできないという事態に直面しました。もともと、なぜ商社が投資を行うかといえば、そこに新しいビジネスの商権をつくることにあるのですが、それがないと投資はできない、ということになってしまいます。インターネットにはそれが形として見えてこないものですから、インターネットに精通していない役員たちには、当たり前のように「インターネット関連の投資は難しい」ということになってしまったわけです。それで、このまま商社ビジネスの一環としてやっていくのは難しいということで、本部を丸ごと独立させることになったのが2000年というわけです。当時、情報産業本部では、すでにいくつかの子会社を含む数多くの投資先をもっていましたが、それも含めた形で独立をしています。 |