【森本】 御社のコーポレートベンチャーでは、スピード化のほかにも重視していることはありますか。
【樺澤】 当社の取り組みのポイントとしては、スピード化のほかに、ポートフォリオで投資活動を管理していることがあります。それは、失敗する案件も織り込みずみで、トータルとして、何か新しい技術開発に結びつくものを作っていこうということです。最初から製品化に結びつく技術に絞ってしまうと、本当に必要な技術を取りこぼしてしまう可能性も出てきますので。レイトステージの企業だけでなくアーリーの段階からも関わって、幅広く新技術の取り込みを行っています。投資効果としても、収益が出なかった案件もあれば、事業化、製品化によって高い収益を出した例もあります。最終的にトータルで元が取れていればよいという形で投資展開しています。10年間継続していますから、一応、成果は出ていると考えていいと思います。
【森本】 なるほど。
【樺澤】 それから、もう一つのポイントとして、シリコンバレーのコミュニティの中に入った活動を重視しているところです。それは、案件がこちらに持ち込まれてきたときには、実はもう遅くて、その前に情報をつかんでいないと良い投資に結びつかないことを身をもって知ったからです。ですから、アイデアや技術がまだ固まっていない段階でも、松下電器でこういう技術はいかがですか、という相談をしてもらいたいと考えています。そのためには、シリコンバレーのベンチャーコミュニティのインサイダーとなることが、欠かせない大切なポイントになります。
【森本】 シリコンバレーでの米国人のベンチャーキャピタリストを雇ったのもコミュニティの参加が理由になりますか。
【樺澤】 そうです。実績を持たない日本人がいきなり入っていっても、シリコンバレーのコミュニティには受け入れてもらえませんので、コミュニティにコネクションを持っている人を雇いました。現地で採用している4名は、もともとベンチャーキャピタリストやインキュベーションをやっていた経歴の持ち主です。
【森本】 今のお話をお聞きしていると、シリコンバレーでベンチャーキャピタリストの採用を行ったことがひとつポイントになっているように思いますが、そうした人材はどのようにして獲得されたのですか。
【樺澤】 最初は一人のベンチャーキャピタリストでスタートしていますが、その人物は優秀なベンチャーキャピタリストで、ヘッドハンティングを使って採用しています。中国系の米国人で、8年くらいベンチャーキャピタルのキャリアを積んだ人です。たまたま次のジャンプを考えていた時期だったらしくて、タイミングよく来てもらうことができました。シリコンバレーのオフィスを開設した当時は、そのベンチャーキャピタリストと私の2人を中心に、ジュニアパートナーレベルの者を3人加えたメンバー構成でスタートしています。現在は、10年を経て、それなりにプレゼンスも出てきていますから、4人のスタッフすべてがパートナーとして活動できる人材を、日本にいる我々が遠隔操作でコントロールするスタイルになっています。 |