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VC vision
前編 後編
第14回 ベンチャースピリッツ・シンフォニー  後編 ニーズを深化させる
松下電器のコーポレートベンチャーは、
技術開発部門に特化したベンチャー投資が特徴である。
とくにホームネットワークを巡る技術開発の領域は、日進月歩で激しく推移しているという。
競争に勝ち抜くには、世界中のベンチャー案件を精査して、
松下電器の新製品開発に役立つ技術をいち早く見つけ出し、
取り込んでいくことが求められる。
松下電器産のコーポレートベンチャーの展開を詳細に見ていく。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
松下電器コーポレートベンチャーの位置づけ
ベンチャーの世界はおもしろいと思う社員を増やす

【森本】 松下電器のコーポレートベンチャーは、どのような技術に投資しているのでしょうか。
【樺澤】 当社は、インターネットが普及する中で、デジタル家電をネットワークでつないでいこうという大きなテーマを持っています。コンセプト的には、ほぼできあがっていますが、では実際にどのようにするのかという現実的な問題がまだたくさんあるのです。テレビは、すでにオンライン上につながり始めていますが、では、冷蔵庫はどうするのか、電子レンジはどうかということもひとつです。そうすると、コンセプトを検証することが必要になってきます。仮に具体案や試作品ができてきたときに、本来あるべきネットワークの仕様や、使い勝手、技術的課題は何かという問題が出てくるわけです。一方、使い方次第では家庭内の情報が外から見えてしまうといったセキュリティの問題が新たに派生してくるなど、従来考えていなかった分野にまで踏み込んで技術的要素の必要性を見ていかなければなりません。当初は、ホームネットワークの実現に役に立つ技術開発に絞って見ていましたが、いまは、さらに幅を広げて、ワイヤレス、シームレス、さらにはIPテレビなど、ネットワークの通信技術からアプリケーションへと投資対象技術が広がり、また、移ってきています。
【森本】 実際に投資する基準はどこに設定されていますか。
【樺澤】 まず、我々の場合は、主幹投資家がするような詳細な精査はしていません。それは、主幹投資家との共同出資が基本になっているからです。通常、ベンチャーキャピタルの審査には、マネジメント、マネー、マーケットという3つのMがありますが、我々の場合は、「松下」のMを加えて4つのMと言っています。この「松下」の部分を見ることが我々の最も重要な業務です。松下電器と一緒に成功できる技術かどうかシナジーの有効性を評価することが我々の仕事になるわけです。もちろん、最初の3つのMを見ないわけではないですが、この部分はベンチャーキャピタリストが我々以上に厳しい目で見ている箇所になりますから、むしろ、松下電器と一緒に何ができるかの評価に力を注ぐことになります。

インフラを提供する会社になりたい

【森本】 その松下の「M」とは具体的にいうとどのようなものになるのですか。
【樺澤】 それは、ベンチャーと共同開発をする、または、先方からライセンスを受けて当社で新しい製品をつくるための技術を生み出していくということですね。実際の例でいいますと、たとえば家庭内の電話線を使ってLANを実現する技術のライセンスを得て、当社と共同で製品化しています。当社にとって「家(ホーム)」は、ビジネスのプラットフォームになります。そこで快適な生活をするためにはどういうものが必要かという視点で見れば、松下電器に今までないもので新しく導入できる世界の新技術の可能性を探っていくことができます。そして、それこそが我々に求められていることなのです。
【森本】 ベンチャーとの関係で留意している点はどのようなことですか。
【樺澤】 持ち込まれた完成技術を事業部とつなぐこともしますが、基本は、R&Dとして技術そのものを受けて、責任を持ってその案件に投資していくのが、我々のコーポレートベンチャリングの特徴です。技術のライセンスを当社で持ち、さらにその技術について精通している者が当社の技術開発部門の中にいることが基本です。製品化が進んでいるときに、出資先が倒産した場合、技術を引き継いでいける体制にないと、大きな損失が出るリスクがあるわけです。
【森本】 米国とその他の国では、投資先の比率はどうなっているのですか。
【樺澤】 投資の総額でいうと、7:1で米国が多いですね。1がその他の国です。米国ではチップカンパニーといって、台湾などのファブと呼ばれる半導体工場を使って製造までやる企業がほとんどで、100億円、200億円のレベルの資金が必要になります。投資額もそれだけ大きくなるわけです。対して、イギリス等では自分の技術を松下電器で請け負ってくれないか、といったライスセンスモデルの交渉が多くあって、必要な資金も10億円、20億円レベルで済みます。これが、投資比率が7:1になる理由のひとつになっています。案件の数だけが理由ではないだろうと思います。まだ、個人的な仮説で、一概にいえませんが、ケースを分けて捉えないといけない点でもあります。
【森本】 そういう松下グループとして求めている技術のコンタクトはどのように展開しているのですか。
【樺澤】 それは、とてもありがたいことなのですが、シリコンバレーでパナソニックの名でこの取り組みをスタートさせたときから、持込みの案件がずいぶんありまして、ドットコム・バブルの頃には、年間700件以上の案件を検討していました。
【森本】 どんな告知活動をしたのですか。
【樺澤】 一応、お披露目みたいなことはしましたが、案件はスタッフとして採用したベンチャーキャピタリストのネットワークを通じたものが中心です。そのときに学んだことは、自分たちがほしい業術分野はこれだ、ということを明確に提示しておかないと、何でもかんでもが持ち込まれてきてしまうということでした。当時は、こちらのニーズにないものも含めて700件でしたから。


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