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VC vision
前編 後編
第14回 ベンチャースピリッツ・シンフォニー  後編 ニーズを深化させる
松下電器のコーポレートベンチャーは、
技術開発部門に特化したベンチャー投資が特徴である。
とくにホームネットワークを巡る技術開発の領域は、日進月歩で激しく推移しているという。
競争に勝ち抜くには、世界中のベンチャー案件を精査して、
松下電器の新製品開発に役立つ技術をいち早く見つけ出し、
取り込んでいくことが求められる。
松下電器産のコーポレートベンチャーの展開を詳細に見ていく。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
松下電器コーポレートベンチャーの位置づけ
マッチングファンドでたがいのノウハウを活かす

【森本】 ベンチャーキャピタルファンドにも参加しているのですか。
【樺澤】 当社の場合は、原則として、それはありません。もちろん、大手ベンチャーキャピタルとコンタクトはとっていましたが、案件は当社のベンチャーキャピタリストを通じて個別に審査した案件が主です。あと、「ベンチャーソース」というダウ・ジョーンズがやっているデータベースが、年に何回かテクノロジーアウトルックというイベントを開催しています。そこで見ておもしろいな、と思った企業に声をかけていきました。そのときに、普通のベンチャーキャピタルは、どれぐらい起業の成功が見込めるか、という視点で見るわけですが、我々の場合は、当社と組めば収益が高くなるという提案をしに行くので、売り込み方法が他のベンチャーキャピタルとは違うとは思います。スタート時は、我々にはベンチャーキャピタルとしてのセールス力もブランド力もなかったわけですが、それでもパナソニックというネームバリューはすごく大きいのだな、というのは感じました。
【森本】 シリコンバレーでは、ベンチャーへの投資ビジネスが主な事業ですか。
【樺澤】 当初の業務は、ベンチャーキャピタルとしてのオペレーションだけでしたが、次に出てきたのが、いま日本でも整備が進んでいる産学連携でしたね。スタンフォード、バークレーなどと組んで大学との共同研究もベンチャーとは別に取り組んでいきました。
【森本】 大学との共同研究にはどのような事業があるのですか。
【樺澤】 産学連携は、コンセプトメーキングが中心になります。連携の手法は、大学のほうから研究資金の提供を求められるのですが、資金提供だけでは成果を期待できませんので、当社のシニアの技術者が研究室に入って、学生を指導したり、ディスカッションをしながら進めることになります。
【森本】 研究テーマはどのようなものを設定しているのですか。
【樺澤】 たとえば、ユーザーインターフェースの部分ですね。学生の発想をうまく取り入れながら研究を進めています。
【森本】 今後の展開で松下電器が新たに狙うべき分野をどのようにお考えですか。
【樺澤】 当社は、21世紀ビジョンとして、ユビキタスネットワーク社会の実現、地球環境との共存、の2つを掲げています。これらを実現できる技術分野への投資で松下電器としての枠を広げていくことになると思います。R&Dで取り組むべき課題もありベンチャーとの共同でやるべきことがあると思っています。

ベンチャー文化の社会化が進むアジア、中国

【森本】 松下電器には数多くの事業、事業部があるわけですが、これらがどういう技術を求めているのか、また、どういう技術なら各事業に生かせるかということを技術部門では、どのように把握しているのですか。
【樺澤】 そこは仕組みがありまして、当社では、それぞれの部門の技術責任者と松下電器グループのCTOの連携がうまく取れています。具体的には、定例会議があったり、ホットラインがあって、CTOは、常に松下グループ全体を鳥瞰できるようになっています。技術部門では、そうした情報を集約してデータベースとして管理しています。
【森本】 具体的なビジネスの俎上にまだ乗っていない潜在的ニーズというものもあると思いますが、そうした情報までも吸い上げる仕組みがあるのですか。
【樺澤】 それは、今申し上げた仕組みほど組織化されてはいませんが、やはり、それぞれの部門の技術責任者と直接コンタクトを取りますので、そういう場での情報のやり取りはあります。
【森本】 各現場からリクエストを受けてから技術を探し回るのは、労力がいると思うのですが、その点はどう対処されているのでしょう。
【樺澤】 そこは、コミュニティやベンチャーキャピタルとのコンタクトがありますので、こちらからこういう技術はないかと、そのニーズを投げかければ、いくつかの案件が戻ってきます。
【森本】 技術ベンチャリング推進チームは、全社のナビゲータ役も担っているということになるわけですね。
【樺澤】 そうですね。しかし、われわれだけがナビゲータ役を担っているわけではなくて、他の部署の人間でも、データベースの共有情報から、いろいろな企画を考えている人がいます。また、今、ベンチャーではこういう動きがある、こういうトライが行われているという情報は我々が全社に発信していくことも担っています。ベンチャーを対象にした新技術の発掘に、我々の業務の主要ポイントがあるということです。
【森本】 松下電器のコーポレートベンチャーの特徴を上げるとするとどんな点がありますか。
【樺澤】 R&Dの技術の検証力でいえば、当社はベンチャーの技術をより精巧にチェックできる体制にあるわけです。技術の完成度をより高いものにするアドバイスをできる点が、我々の利点になっています。ベンチャーとの共同作業をする中で、一度共同で事業を進めたベンチャーから、もう一度何かしましょうという形のサイクルが生まれてくれば、コーポレートベンチャーとしては最高の姿だと思います。松下電器産業へ案件を持っていけば、技術をここまで検証してくれるぞ、とか、一緒にやるメリットが大きいぞ、という信頼関係が作れれば、それは相当な強みになると思います。
【森本】 それは、ベンチャーを育成するという点で、ベンチャーキャピタルに似ている点でもありますね。
【樺澤】 はい。まさにベンチャーキャピタルと同じスタイルであると思います。我々は、投資をしなければ、技術検証をやらないというわけではないですから。お互いがやるとなれば、コミットしていく形になるし、逆に、投資してから話を始めるというケースもあります。
【森本】 ベンチャーキャピタルから学んだと考えるのはどのような点ですか。
【樺澤】 それは、コミュニティに関してのことですね。われわれもまだ、コミュニティに参加しきれているとはいえませんが、一隅に参加させてもらえているのは非常に大きいですね。こんな話がありますよ、とささやいてくれるような人が、徐々にですが出てきましたから。それから、もうひとつは、ベンチャーキャピタルのマネジメントの体制ですね。ベンチャー企業のステージごとに人材を入れ替えてリードをする手法は、非常に勉強になった点です。彼らは、そういうステージごとのプロフェショナルな人材を持っていて、タイムリーに投入していくわけです。こういうやり方はシリコンバレーでベンチャー投資をする中で初めて知ったマネジメント法でした。



インタビューを終えて

松下電器のベンチャー投資は、シリコンバレーを拠点に世界中に目を向けて展開されている。そして、ベンチャー企業との協業による、新技術の発見とそれを松下グループの事業として開花させることで、たがいにシナジーを生みだすところに大きな特徴がある。大手企業のコーポレートベンチャーは、こうした海外ベンチャーに視野を広げながら、技術開発に特化するスタイルが主流となって構築されていくのではないだろうか。松下電器の取り組みは、我が国のコーポレートベンチャーのあり方のひとつを明快に示してくれる代表的事例であるといえるだろう。(森本紀行)

次号第15話(5月2日発行)は、GMO VenturePartners 株式会社 取締役の村松竜さんが登場いたします。


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