【森本】 松下電器には数多くの事業、事業部があるわけですが、これらがどういう技術を求めているのか、また、どういう技術なら各事業に生かせるかということを技術部門では、どのように把握しているのですか。
【樺澤】 そこは仕組みがありまして、当社では、それぞれの部門の技術責任者と松下電器グループのCTOの連携がうまく取れています。具体的には、定例会議があったり、ホットラインがあって、CTOは、常に松下グループ全体を鳥瞰できるようになっています。技術部門では、そうした情報を集約してデータベースとして管理しています。
【森本】 具体的なビジネスの俎上にまだ乗っていない潜在的ニーズというものもあると思いますが、そうした情報までも吸い上げる仕組みがあるのですか。
【樺澤】 それは、今申し上げた仕組みほど組織化されてはいませんが、やはり、それぞれの部門の技術責任者と直接コンタクトを取りますので、そういう場での情報のやり取りはあります。
【森本】 各現場からリクエストを受けてから技術を探し回るのは、労力がいると思うのですが、その点はどう対処されているのでしょう。
【樺澤】 そこは、コミュニティやベンチャーキャピタルとのコンタクトがありますので、こちらからこういう技術はないかと、そのニーズを投げかければ、いくつかの案件が戻ってきます。
【森本】 技術ベンチャリング推進チームは、全社のナビゲータ役も担っているということになるわけですね。
【樺澤】 そうですね。しかし、われわれだけがナビゲータ役を担っているわけではなくて、他の部署の人間でも、データベースの共有情報から、いろいろな企画を考えている人がいます。また、今、ベンチャーではこういう動きがある、こういうトライが行われているという情報は我々が全社に発信していくことも担っています。ベンチャーを対象にした新技術の発掘に、我々の業務の主要ポイントがあるということです。
【森本】 松下電器のコーポレートベンチャーの特徴を上げるとするとどんな点がありますか。
【樺澤】 R&Dの技術の検証力でいえば、当社はベンチャーの技術をより精巧にチェックできる体制にあるわけです。技術の完成度をより高いものにするアドバイスをできる点が、我々の利点になっています。ベンチャーとの共同作業をする中で、一度共同で事業を進めたベンチャーから、もう一度何かしましょうという形のサイクルが生まれてくれば、コーポレートベンチャーとしては最高の姿だと思います。松下電器産業へ案件を持っていけば、技術をここまで検証してくれるぞ、とか、一緒にやるメリットが大きいぞ、という信頼関係が作れれば、それは相当な強みになると思います。
【森本】 それは、ベンチャーを育成するという点で、ベンチャーキャピタルに似ている点でもありますね。
【樺澤】 はい。まさにベンチャーキャピタルと同じスタイルであると思います。我々は、投資をしなければ、技術検証をやらないというわけではないですから。お互いがやるとなれば、コミットしていく形になるし、逆に、投資してから話を始めるというケースもあります。
【森本】 ベンチャーキャピタルから学んだと考えるのはどのような点ですか。
【樺澤】 それは、コミュニティに関してのことですね。われわれもまだ、コミュニティに参加しきれているとはいえませんが、一隅に参加させてもらえているのは非常に大きいですね。こんな話がありますよ、とささやいてくれるような人が、徐々にですが出てきましたから。それから、もうひとつは、ベンチャーキャピタルのマネジメントの体制ですね。ベンチャー企業のステージごとに人材を入れ替えてリードをする手法は、非常に勉強になった点です。彼らは、そういうステージごとのプロフェショナルな人材を持っていて、タイムリーに投入していくわけです。こういうやり方はシリコンバレーでベンチャー投資をする中で初めて知ったマネジメント法でした。
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