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VC vision
前編 後編
第16回 ゴッド・セイブ・ザ・ベンチャー  前編 可能性への投資
バイオ産業の技術開発は、先進各国とも国を挙げた取り組みが行われ、
国際競争も激しさを増している。
この新しい産業であるバイオを対象に、
とくに創薬バイオに軸足をおいたファンドを国内でいち早く立ち上げ、
日本のバイオベンチャーキャピタルの草分け的存在である
レクメド・ベンチャーキャピタルの牛田雅之代表取締役社長に、
バイオベンチャーを対象としたファンド事業の取り組みと、
その戦略について話をうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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難病に役立つ薬・技術を開発するベンチャーを

【森本】 エンジェルの方々には、どのようにお話をされて出資を募ったのですか。
【牛田】 個人投資家の方々は、医者や技術者など、さまざまな職業の人たちですから、それぞれ対応は異なりました。バイオに強い関心のある方もいれば、どちらかというとエンジェル税制に興味のある方もいました。しかし、個人投資家の方には、総じてバイオ産業の育成についてご理解とご賛同をいただいていると思います。
【森本】 牛田さんが、エンジェルに一番訴えたことは何ですか。
【牛田】 やはり、今の日本では、難病や致命的な疾患に悩む患者さんに役立つ薬・技術を開発するベンチャーを育てなければいけないのだ、ということですね。今のままでは米国に追いつけないだけでなく、下手をすると韓国、シンガポールなどのアジア諸国にも追い抜かれてしまいます。それなのに、大手ベンチャーキャピタルからはなかなか資金を出していただけないのです、といったことを切々と訴えています。
【森本】 とくに個人投資家に狙いを定めて出資を募ったのですか。
【牛田】 いえいえ、それはもう広く、法人、個人、金融系、一般事業系など、いろいろなセクターに声をおかけしました。まったくの初対面で、レクメドの「レ」の字も知らない人たちで、バイオのことも存じない方がほとんどでした。何度もお会いしてお話しをしてご納得いただきました。
【森本】 3号ファンドについては、具体的なプランは進んでいるのですか。
【牛田】 まだ発表できる段階ではありませんが、いろいろなところとお話を進めています。しかし、今のバイオの環境は、資金をたやすく集められる状況にはなく、正直、苦戦しています。
【森本】 バイオをめぐる投資環境は、実際どのような状況なのですか。
【牛田】 苦戦している理由の一つには、事実上2年以上も創薬ベンチャーのIPOが出ていないことです。IPOが止まったため、ベンチャーキャピタルも出口が見出せないので、現在は投資を控える状態で、バイオ投資に関しては、急ブレーキを踏んでいるのに近い状況です。また、2003年から2005年までは、各ベンチャーキャピタルがものすごい勢いでバイオに投資したため、ポートフォリオのバランス上バイオが肥大してしまっているということも急ブレーキの要因になっています。そういう中でバイオファンドに出資してくださいといっても、なかなか1号、2号のようにはいかなくなっています。ですから、バイオといっても、今までとは違うコンセプトを導入することが必要になっています。どういう味付けをすれば、投資家の皆さんが興味を持つのか、そんなところを議論している最中ですね。

明確なコンセプトがバイオファンドの新傾向

【森本】 製薬会社は積極的に出資することはないのですか。
【牛田】 1号ファンドでは、製薬会社が1社入っていますが、ただ、ほとんどの製薬会社は、投資でのキャピタルゲインを目的としていません。むしろ、そのようなことはご法度という考えが強くあります。また、ファンドに投資するとなると、投資先のチョイスやフォローはベンチャーキャピタルに任されることになりますが、製薬会社としては、気に入ったベンチャーがあれば自分たちで個別に出資や提携したほうが、有利にことを進められるという考えが強くあります。ですから、いい会社があったら情報だけくださいという会社が多いですね。我々としては、製薬会社は投資家というよりも、ベンチャーを買収なり提携してもらってEXITする対象として見る側面が強いですね。
【森本】 それは外国メーカーに対しても同じですか。
【牛田】 海外の製薬会社がファンドの出資者に入って、我々ゼネラルパートナーがそれほどハッピーでいられるかは疑問のところですね。かなり厳しく関与してくるでしょうからね。
【森本】 先ほどの新しいファンドの「味付け」のところですが、どんなことが考えられますか。
【牛田】 今考えているのは、切り口の工夫ですね。一口にバイオといっても、その範囲は非常に広いものです。我々は環境バイオとか食物バイオをやるつもりはありませんが、たとえば、バイオ医薬分野のなかでもテクノロジー系、デバイス系を対象にしたり、創薬一本の直球勝負でいったり、あるいは、ガンや感染症など疾患分野を絞るなど、切り口を特化する取り組みです。ついこの間も、感染症の薬だけに特化する事業で、ずいぶん資金を集めたバイオベンチャーがいました。コンセプトを明確にして打ち出すことが、一つの傾向になってくると思います。
【森本】 バイオベンチャーがIPOをできていない背景にはどういうものがあるのですか。
【牛田】 結局、IPOをすると、一般投資家がインターネットで株を買うわけです。2002-2003年ころは日本でもバイオブームが起きて、バイオの技術が過剰に評価されたということがあると思います。我々の評価では本来、時価総額が300億円程度と見られる会社でも、1,000億円にまで上昇するなど、毎日株価は上昇していました。そうすると証券会社が次にIPOする会社を実力よりも高い評価で公開させるようになっていきます。さらにベンチャーキャピタルもその流れに乗ってくることになって、バイオバブルの状況になりました。最後は、誰がジョーカーを引くかというところまで上昇して、それが弾けたということです。予想外に早い展開で進んでいきました。2004年夏以降のことですが、バブルが弾けた途端に、投資資金が急速に引き上げられて、現在まで続いているという状態です。

後編 「クロスボーダーな投資」(6月20日発行)へ続く。


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