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VC vision
前編 後編
第16回 ゴッド・セイブ・ザ・ベンチャー  後編 クロスボーダーな投資
ここ数年の日本のバイオベンチャーへの投資は低迷が続いている。
約2年超にわたり創薬ベンチャーのIPOは途絶え、
一時、盛況を博したベンチャーキャピタルの投資熱も冷え気味だ。
こうした問題に直面する日本のバイオ産業は、どうすれば活性していくのか。
今回は、レクメド・ベンチャーキャピタルの牛田雅之代表取締役社長に、
いま厳しい環境にあるバイオベンチャーの課題と今後の展望をうかがった。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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近い将来クロスボーダーのファイナンスを

【森本】 それでは外国人投資家は検討すらしませんね。
【牛田】 それが現状です。優先株でいくとしても、日本のバイオベンチャーが実際に投資してもらえるかどうかは分からないという状況で、経費をかけて弁護士を雇って英語のタームシートや契約書を作るといった経費負担を受け入れるかどうかですね。外国人投資家が入ると経営に対するモニタリングが格段に厳しくなる点などを含めて、日本の経営者が外国人投資家を受け入れるには、クリアにしなければならないさまざまな問題があります。しかし、現状の投資環境は、そうはいっても外国人投資家を排除してはいられない状況ですから、我々も、外国人投資家へ出資依頼を検討し始めています。必要なら英訳した資料を作る体制もあります。近い将来には、何らかの形で、クロスボーダーのファイナンスを行うことになるだろうと思います。
【森本】 外国資本が入りやすくなるには、どういう条件が必要なのでしょう。
【牛田】 今バイオ業界が抱えている問題は、EXITのシナリオが書けないということです。IPOをする際も東証、大証、名証の各証券取引所の基準が非常に大きくブレて海外投資家に分かりにくくなっています。また、M&Aにしても、米国にいって適切なプレゼンができる経営者となると非常に限られてきます。バイオに経営のプロがいないと言えばそれまでなのですけれども。ただ、我々がチャンスだと思っていることは、海外の製薬会社とライセンスを結んだ経験を持つ人材が国内の製薬会社からたくさん出てきていることです。こうした人たちを取り込めば、外国の投資家を入れていく展開もしやすくなるだろうと思います。ですから、インフラの整備ということで言えば、ネガティブな要素ばかりではありません。
【森本】 米国の投資家にすれば、10億円、20億円の投資金額は、それほど大きい額ではありませんからね。
【牛田】 さらにバイオ業界で幸いな点は、米国でも日本でも製薬会社が、みんな自分でファンドを持っていることなのです。日本では、武田薬品工業、アステラス、田辺製薬などがファンドを持っています。だから、我々が、逆にノバーティスやファイザーといった欧米の製薬会社のファンドに日本の案件を持っていくということも考えられるのです。さっきも言ったように、ベンチャーの経営者が、外国というと尻込みする傾向にあるので、そこがネックなのです。
【森本】 確かに、日本と米国の投資環境には大きな違いがありますからね。
【牛田】 この間、日経新聞に米国のVC協会のニュースが出ていたのですが、第一四半期のベンチャーキャピタル投資額が71億ドルで、そのうちバイオが15億ドルということでした。日本のベンチャーキャピタルがバイオに投資する額は、最近では年間で100億円程度じゃないでしょうか。米国は四半期で2,000億円です。この差は大きいです。

資金以外の環境は非常に良くなっている

【森本】 どのような業界の投資でも、日本は米国の20分の1ですね。
【牛田】 バイオは80分の1ですからね。もう一つ驚いたことがあるのですが、米国のナスダックでは、バイオのIPOは、2001年から2003年の間に完全に止まって、公開企業がほぼゼロだったのです。それでも、米国のベンチャーキャピタルは毎年きっちり40億ドル〜50億ドルのバイオ投資をしています。しかし、日本のベンチャーキャピタルは、いま、IPOが止まっているからと投資をぐっと抑えているのですね。日本と米国では、まったく逆の動き方をしているわけです。
【森本】 高いときに買ったものが安いときに売れて、安いときに買ったものが高いとき売れないということになりますね。
【牛田】 まさにそれを象徴する話が、ダウンラウンドの際に日本では単純に前回より株価が下がっているからダメです、と言うベンチャーキャピタルが多いことです。
【森本】 リスクが低下しているのに、買わないわけですね。
【牛田】 でも、今は買い時ですよねと話すベンチャーキャピタリストも少人数ながら出てきていますので、少しずつですが、変わっていくとは思います。
【森本】 日本のバイオの環境は、今後どう動いていくと考えていますか。
【牛田】 客観的な環境は良くなってきているとは思っています。一つは、役所が変わり始めてきています。たとえば新薬の承認にしても、欧米で承認されて使われている薬が日本でまだ承認されていない薬はたくさんあって、これは、関係団体も相当クレームをつけていますから、厚生労働省も人的な審査体制の強化や審査プロセスの簡素化を進めています。これは、プラス要因だと思います。それから、定年退職やリストラを含めて製薬会社の人材が相当数流出してきています。この経験のある人材をうまく活用できれば、バイオ業界の活性化につなげられると思います。問題は、我々ベンチャーキャピタルによる資金の出し手のところだけです。このセクターがどうリスクを取れるのか、そして、逆張りする勇気を持てるのか、だと思います。だから、資金以外の環境は非常に良くなっていると考えています。
【森本】 バイオベンチャーの事業自体は好調なのですよね。
【牛田】 アナリストの人も言うのですが、やはり、成功例を一般投資家に見せることが何よりも肝心ということですね。うまくいくと、今年の終わりごろには、ちゃんとしたバイオベンチャーが何社かIPOするという話も出ていますから、そこで一般投資家が、またバイオに注目してマーケットに戻ってきてくれれば、株も割安ですから、来年以降、今度こそ本当のブームが来ると思います。



インタビューを終えて

バイオベンチャーの投資環境は、話に聞いていた以上に厳しい。こうした状況の背景の一つには、バイオ技術の開発費が、他の産業・分野とは比較にならないほど巨額な費用を要することがある。それに対して、ベンチャーキャピタルは十分に応えきれていない。しかも、バイオバブルの崩壊とともに、ベンチャーキャピタルは一斉にバイオ投資から引いてしまっているという。リスクを避けていては、世界に負けないバイオ産業を育成することはできない。であるならば、バイオ投資に戦略環がともなった情熱を注ぐベンチャーキャピタルが、数多く出現することが求められる。レクメド・ベンチャーキャピタルは、その可能性を体現するベンチャーキャピタルの代表格といっていい。苦しい局面にあるのは事実だが、その活躍を大いに期待したい。(森本紀行)

次号第17話(7月4日発行)は、独立行政法人中小企業基盤整備機構の理事 後藤芳一さんとファンド事業部ファンド企画課 課長代理 石井芳明さんが登場いたします。


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