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VC vision
前編 後編
第17回 いつも心にベンチャーを  前編 機会創出という支援
独立行政法人の中小企業基盤整備機構は、
ベンチャー企業やベンチャーキャピタルの支援、
育成を組織目標に活動する公的機関である。
支援内容もファイナンシャルにとどまらず、技術支援、人的支援など多岐にわたる。
今回は、独立行政法人中小企業基盤整備機構・理事の後藤芳一氏に、
同機構の活動内容の詳細をお話しいただく。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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全体を合わせて一つのパワーにする志向性

【森本】 中小企業基盤整備機構が、投資家が投資しやすくする環境をつくる役割も果たすわけですね。
【後藤】 そうです。我々の持つ大きな目標には、やはりベンチャーキャピタル業界のプレゼンスを向上させるということがあります。市場や競争のグローバル化が進み、イノベーションが求められるなかで、ベンチャーキャピタルが積極的にリスクマネーの供給をすることの、社会的重要性が一層高まっています。その意味では、ベンチャーキャピタル側が自らを律するのが前提ですが、一方で、その正当な発言が適切に反映されることによって、健全な市場や制度が用意されて熟していくように、キャピタル側の発言権を高めていくことが大事だと思っています。
【森本】 それは、ベンチャーキャピタルの産業化を進めていこうということですか。
【後藤】 ええ、ベンチャーキャピタル業界の人たちと話をしていると、志が大事だという表現が出てきます。そのとおりだと思いますが、この志にも、大きく分けて二つの意味があると思います。それは、新しい事業を起こす人を支援しよう、それによってベンチャーキャピタルとしてのビジネスを成功させようとい情熱やチャレンジ精神、いわば個人や企業レベルでの志ですね。それともうひとつは、さらに大きく、社会を変えていくための志です。社会を変えるには、構造自体をかえること、それには、団体戦ができないと変わらないわけです。一人のカリスマが生まれても、それは限られたものでしかありません。ですから、二物が求められると思います。個人としての情熱と、組織を動かしていける構想や器です。しかし、こういう人はそんなに多くはいないと思います。金融政策、産業政策、また、起業のための環境、あるいは、職業観そのものを変革していくには、ベンチャーキャピタルの社会的重要性を主張していくことが、とても大事になります。事業は個々それぞれが、それぞれの考えで展開するにしても、全体を合わせて一つのパワーにしていくこと。「志」というからには、そうした大きさも必要ではないでしょうか。ベンチャーキャピタル業界に求められているのは、まさにそれだと思います。
【森本】 そのために必要なことは、どのようなことでしょうか。
【後藤】 具体的な問題として、業界団体として日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)がありますが、もっと強い組織になっていいのではないかと思います。ベンチャーキャピタル業界は、監査のあり方、コンプライアンスのあり方、法令の制定の仕方など、いろいろな問題について社会に発言していくことが必要です。これは、決して業界のエゴではなくて、実際に出資先企業にどういうニーズがあるかを一番知っているのはベンチャーキャピタルですから、それを社会に反映させて正しい方向に導くことは重要なことです。現場はこうだからこういう環境をつくってくれと行政に働きかけることは、他の業界ではみんなやっていることです。そのためには、ベンチャーキャピタル業界が、さらに強く組織化されて声を合わせて主張することが必要条件です。その辺はまだ課題だと思います。

リスクを引き受ける積極的な投資政策

【森本】 中小企業基盤整備機構としては、ベンチャーキャピタルの人たちと具体的にどのような付き合い方をされているのですか。
【後藤】 最近は、我々のファンド事業をご活用いただいたことを契機に、この業界のあり方や機構のファンド事業の運営について、意見交換のためにお寄りくださる方々もあり、ありがたく思っております。一方、我々のファンド事業の運用については、審査が厳しいと誤解されている方もおられます。たしかに、ベンチャーファンドが制度化された当初は、どうしても、慎重な運用にならざるを得なかったかと思います。そうした頃の情報が、まだ残っているのかも知れません。その後、我々の制度は、対象を広げるとともに、運用も年々柔軟に変えてきたという歴史があります。そのために、初めのころにおつきあいくださった方々は、厳しめの運用のままでご理解いただいているのかも知れません。お目にかかれば、ご説明のしようもありますが、その前に抑制が働くと、その機会さえなくなるわけで、その辺のメッセージをもっと強くお届けする必要があると思っています。
【森本】 具体的には、どのように柔軟になってきているのですか。
【後藤】 たとえば、これまで、一つのベンチャーファンドに我々が投資できる金額は、10億円が上限でした。しかし、今年の4月2日からその上限を撤廃しました。また、従来はファンドへの出資比率を5割までに制限していましたが、この6月に公表した地域ファンドのチャレンジ型では、自治体からの出資という条件はありますが、6割までを可能にしています。
【森本】 中小企業基盤整備機構には、組織としての大きな目的にイノベーションと雇用促進の二つがあるということですが、その辺の組織目的が広く認知されれば、ベンチャーキャピタルの側ももっと積極的にアプローチしてくるでしょうね。
【後藤】 そうですね。儲けるだけが目的でしたら、それこそもっと手っ取り早いカテゴリーのファンドもあるかと思いますが、我々の目的は新しい産業をつくるとか、望ましい市場にするということで、ベンチャーのように息の長いところをみているわけです。そういう問題意識を持つベンチャーキャピタルの方と一緒に、目標を実現していきたく思います。それから、ファンドの成績評価の複線化も進めていきたいと思っています。ファンドは、どうしても成績で計らねばなりませんが、その際、利回りだけでなく、経済社会への広がりについても評価する方法を導入するということです。IRR以外にもプラスの評価ができる何らかのインデックスを設計することも課題だと思います。
【森本】 それは、一社のベンチャーキャピタルや業界団体が独自に設定するよりも、国の機関である中小企業基盤整備機構が中小企業庁などと連絡を取りながら行うことで、客観的な指標になっていくということですね。
【後藤】 今年1月には、評価の会を設けて、ベンチャーファンドを中心に、中小企業基盤整備機構のファンド事業について、再確認しているところです。目的と意義、価値は何かを確認すること、その評価を行うには、何を指標とするかという枠組をつくる作業を進めています。そうした取り組みを通じて、我々の事業はもとより、ベンチャーキャピタル業界の発展につながればと思っています。

後編 「リスクテイクという支援」(7月18日発行)へ続く。


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