【森本】 中小企業基盤整備機構が、投資家が投資しやすくする環境をつくる役割も果たすわけですね。
【後藤】 そうです。我々の持つ大きな目標には、やはりベンチャーキャピタル業界のプレゼンスを向上させるということがあります。市場や競争のグローバル化が進み、イノベーションが求められるなかで、ベンチャーキャピタルが積極的にリスクマネーの供給をすることの、社会的重要性が一層高まっています。その意味では、ベンチャーキャピタル側が自らを律するのが前提ですが、一方で、その正当な発言が適切に反映されることによって、健全な市場や制度が用意されて熟していくように、キャピタル側の発言権を高めていくことが大事だと思っています。
【森本】 それは、ベンチャーキャピタルの産業化を進めていこうということですか。
【後藤】 ええ、ベンチャーキャピタル業界の人たちと話をしていると、志が大事だという表現が出てきます。そのとおりだと思いますが、この志にも、大きく分けて二つの意味があると思います。それは、新しい事業を起こす人を支援しよう、それによってベンチャーキャピタルとしてのビジネスを成功させようとい情熱やチャレンジ精神、いわば個人や企業レベルでの志ですね。それともうひとつは、さらに大きく、社会を変えていくための志です。社会を変えるには、構造自体をかえること、それには、団体戦ができないと変わらないわけです。一人のカリスマが生まれても、それは限られたものでしかありません。ですから、二物が求められると思います。個人としての情熱と、組織を動かしていける構想や器です。しかし、こういう人はそんなに多くはいないと思います。金融政策、産業政策、また、起業のための環境、あるいは、職業観そのものを変革していくには、ベンチャーキャピタルの社会的重要性を主張していくことが、とても大事になります。事業は個々それぞれが、それぞれの考えで展開するにしても、全体を合わせて一つのパワーにしていくこと。「志」というからには、そうした大きさも必要ではないでしょうか。ベンチャーキャピタル業界に求められているのは、まさにそれだと思います。
【森本】 そのために必要なことは、どのようなことでしょうか。
【後藤】 具体的な問題として、業界団体として日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)がありますが、もっと強い組織になっていいのではないかと思います。ベンチャーキャピタル業界は、監査のあり方、コンプライアンスのあり方、法令の制定の仕方など、いろいろな問題について社会に発言していくことが必要です。これは、決して業界のエゴではなくて、実際に出資先企業にどういうニーズがあるかを一番知っているのはベンチャーキャピタルですから、それを社会に反映させて正しい方向に導くことは重要なことです。現場はこうだからこういう環境をつくってくれと行政に働きかけることは、他の業界ではみんなやっていることです。そのためには、ベンチャーキャピタル業界が、さらに強く組織化されて声を合わせて主張することが必要条件です。その辺はまだ課題だと思います。 |