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VC vision
前編 後編
第17回 いつも心にベンチャーを  後編 リスクテイクという支援
中小企業基盤整備機構が展開するファンド事業は、
そのファンドが、国の定める中小企業政策に沿った内容であることが
最優先テーマとして掲げられる。
中小企業の成長、産学連携、地域振興に役立つことが重視され、
それぞれのファンド理念に合わせ、
4種類のファンドメニューが用意されている。
ファンド事業部ファンド企画課・課長代理の石井芳明氏に、
ファンド事業のプロセスを中心にお話をいただく。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
独立行政法人中小企業基盤整備機構 出資先ファンド一覧  出資先ファンドの公開企業一覧
中小企業の成長、産学連携、地域振興

【森本】 中小企業基盤整備機構のファンドの出資活動は、どのようなプロセスで進められているのですか。
【石井】 ファンド事業は、ベンチャーキャピタルが組成するファンドで、政策的意義があるものにLPとして出資するスタイルで運営しています。ファンドは、投資事業有限責任組合の仕組みを使ったものになります。期間は原則10年間、出資比率はファンド総額の5割までとなっています。出資上限額を今まで10億円と制限していたのですが、業界の要望を受けて、今年の4月から撤廃しています。ファンド出資までのプロセスですが、基本的には、持ち込まれた案件については、すべてお会いしてお話をうかがうことになっています。手順としては、まず最初に、事前相談を受け、制度要件に合致すれば提案書を受け付けます。その後、1次ヒアリング、現地調査、外部有識者を集めた評価委員会での検討と続きます。そして、当機構の役員による2次ヒアリングを経て出資決定する段取りになります。こうした審査の後、契約に関するリーガルチェックを行って実際の出資となります。
【森本】 それでは、それぞれの段階を具体的にご説明いただけますか。
【石井】 現在、中小企業基盤整備機構には、アーリーステージの企業を支援する「ベンチャーファンド」、中小企業の新事業展開を支援する「がんばれ!中小企業ファンド」、事業の再構築を支援する「中小企業再生ファンド」、地域の中小企業の活性化を促進する「地域中小企業応援ファンド」の合計4つのメニューがあり、その選択から始まります。
【森本】 ベンチャーキャピタルの人たちにとっては、これらのファンドメニューの違いや、使うにあたっての基準を知りたいと思います。
【石井】 そうですね。ですから、事前相談という形でお話をさせていただき、制度の条件を満たしているかどうかチェックすると同時に、どのファンドメニューが適切かを確認します。そうした相談を経て、具体的な提案書の作成をお願いすることになります。提案書は、通常の民間のLPが、出資審査する際に見るものと同様の様式になっています。ただ、一点異なるのは、政策的意義の確認です。つまり、中小企業の成長や新事業展開、産学連携、地域振興などの促進に役立つファンドかどうかを注意深く見ることになります。1次ヒアリングでは事務担当が、提案書とベンチャーキャピタル独自のプレゼン資料で説明を伺います。現地調査は機構の職員と監査法人とが一緒にベンチャーキャピタルを訪問して、経営状況、キャピタリストの陣容などを見るものです。

新しいベンチャーキャピタルにも門戸を開く

【森本】 外部有識者による評価委員会は、どのような方々で構成されているのですか。
【石井】 大学教授、弁護士、公認会計士、ベンチャー企業・中小企業の代表などをメンバーにして、客観的な意見を聴取しています。これらの審査を経て総合的に判断した出資候補のファンドに対して、役員による2次ヒアリングを実施し出資を決定します。提案書を受け付けてから最終決定・契約締結までの期間は、通常2カ月から3カ月を要しています。
【森本】 審査の基準としてはどのようなところがポイントになるのですか。
【石井】 まず、形式要件を満たすかどうかを事前相談で判断します。その後、ファンドの提案者であるベンチャーキャピタル自体のチェックを行います。我々が重要視するポイントは、政策意義に合致したファンドの運営ができるかどうかになります。経営理念、組織体制、財務上の安定性、投資対象がどんな企業か、そして、投資後に企業の価値を創造していく実力があるかなどをチェックしていきます。それから、過去のファンドでどれくらいのIRRを実現しているかというトラックレコードもチェックします。ただし、注意しなければならないことは、我々の事業目的の一つに、ベンチャーキャピタル業界発展のための独立系ベンチャーキャピタル育成というものがあるということです。このため、財政基盤やトラックレコードにこだわりすぎないように留意しています。実績がないからダメというのでは、設立間もない独立系ベンチャーキャピタルへ投資ができなくなってしまうので、その代わりになるプラス要因をできるだけ探って評価するようにしています。たとえば、キャピタリスト個人としての業界内外での経験値、ベンチャーへの投資育成に対する熱意と方法論、あるいは、キャピタリストが持つネットワークのクオリティなどを見ることで、新しいベンチャーキャピタルにも門戸を開くようにしています。
【森本】 ファンドの内容についてはどのようなチェックを行うのですか。
【石井】 ファンドについては、事業計画をベースに検討します。まず、ファンドのテーマ、投資対象、投資先の育成方法などを確認します。我々と民間のLPとの違いは、ファンドが日本の経済成長、中小企業の成長に役立つかどうかの視点をもって検討することです。次に、ファンドの運営体制、運営方針のチェックを行います。ここでは、投資先の発掘、投資先に対する目利きと審査、投資決定、ハンズオン、エグジットの各プロセスの方法論が明確かどうかを見ることになります。その他には、通常のファンドと同様、管理報酬、成功報酬の率を見たり、想定リターンをどう判断しているかを見ます。また、他のLPが集まる見込みがあるのか、具体的ディールフローがどの程度あるのかといった点も審査していきます。最後に確認するのが、利益相反の点です。ファンドが公正で妥当なものかどうかを判断します。他のファンドとの並行投資の問題、GPやLPの関係企業への恣意的な投資の問題、GPやLPと投資先の線引きの問題などがチェックポイントになります。それから、当たり前のことですが、コンプライアンス、報告システムもチェック箇所になります。



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