【森本】 中小企業基盤整備機構は公的機関であるわけですが、ファンドに投資した資金のリターン、あるいは損失が出た場合にどう処理されているのですか。
【石井】 我々の政策の目標は中小企業の成長の促進にあるわけですから、リターンは第一目的ではありません。しかし、資金が毀損して原資がなくなっていくことは避けなければなりません。今我々のファンド事業では全部で110本、総額2,000億円超のファンド群に出資をしています。その中でポートフォリオとしてバランスを取るように注意しています。しかし、ファンドによっては非常にリスキーなものにあえて出資する場合もあります。政策的必要性の高い地域ファンドや大学発ベンチャーに特化したファンドなどは、リスクを十分意識したうえで、育成策としての出資を心がけています。
【森本】 中小企業基盤整備機構は民間とは違って、そうしたリスクにもチャレンジできる立場にあるということですね。
【石井】 そうです。中小企業政策の実施機関として、政策的重要度に応じた判断をしているということです。現在、ファンド事業全体の評価についても取り組みはじめていますが、その際の評価項目としては、投資先企業の成長や雇用拡大、投資先企業の満足度、アーリーステージ支援、産学連携促進、地域振興などの政策意図が実現しているか、などがあります。また、ファンドの組成が独立系ベンチャーキャピタルの育成につながっているか、民間資金の呼び水になっているか、エクイティファイナンスのレピュテーション向上につながっているかなども見ています。
【森本】 中小企業基盤整備機構が組成するファンドに、何か新しい取り組みはありますか。
【石井】 最近我々が出資した新しいタイプのファンドとしては、カーブドアウトファンドがあります。いい技術だけれども本業に関連しないために眠っている技術とか、その企業の中にさらに伸ばす経営資源がないために眠っている技術というものが大企業の中にはたくさんあります。これを企業の外に切り出して独立したベンチャーとして育てるファンドが組成されました。これはインパクトのある新しい取り組みと思います。もう一つ、エクイティとデットの中間で中小企業に資金提供するファンドが出てきました。エクイティファイナンスを馴染みづらく考える中小企業が多いので、より使いやすいファンドをつくろうと考えたものです。これは、匿名組合出資の手法を使ったファンドなのですが、新しいテーマの一例になると思います。そのほかにもインキュベーターと提携したファンドやグローバルファンドなど、いろいろ新しい取り組みにもチャレンジしています。
【森本】 まだ、手をつけていないけど、これからやりたいというテーマはありますか。
【石井】 考えられるものは大体取り組んできていますが、独立系のベンチャーキャピタルの登竜門となっていくようなファンド出資をさらに強くしたいと思っています。ベンチャーキャピタル業界やエクイティファイナンスの厚みが増すような展開を進めていきたいですね。
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