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VC vision
前編 後編
第20回 日本型ベンチャーの奔流  前編 ものづくりという資源
株式会社インスパイアは、元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞氏が創立した
経営コンサルタント会社である。
幅広い角度から企業経営をサポートし、
その創業期からベンチャーキャピタル事業にも着手し、
ファンド運営を手がけてきた。
同社グループでベンチャーキャピタル業務を担う
株式会社インスパイア・インベストメントの芦田邦弘代表取締役会長と、
ベンチャーキャピタルユニット・チーフファンドディレクターの
井出敬也氏にお話をうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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国際競争力の向上を目指すファンド組成

【森本】 インスパイアは、さまざまな分野、角度から企業経営のコンサルティングを展開していますが、そうした活動の中でベンチャーキャピタル業務をスタートさせた契機はどのようなところにあったのでしょう。
【芦田】 現在2つのベンチャーキャピタルファンドと流通業、製造業など実業型公開会社の活性化ファンドを立ち上げていますが、創業者の成毛眞は、インスパイアの設立時から、すでにベンチャーキャピタル業務のプランを持っていました。2000年にインスパイアを設立する際、成毛から私に特別顧問になってほしいという話をいただいたのですが、その時、中小企業の国際競争力の向上を目指すベンチャーキャピタルファンド組成の計画の話もされていました。当時、私は住友商事の副社長でしたが、ITを使って企業競争力の強化を図るサプライチェーン・マネジメントを住友商事で導入するプランを進めていました。住友商事では各部門の代表からなる約60人のメンバーを投入してサプライチェーン・マネジメントを実施して、現在では、このサプライチェーン・マネジメントの仕組みは、7,000億円くらいの商流規模に成長していると思います。成毛にそうした取り組みの話をしますと、サプライチェーン・マネジメントのシステムを中小企業の競争力向上にも役立てられるのではないかと提案してきました。それは私も同様の考えを持っていましたので、すぐに賛同したことが、一つ目のファンドである実業型公開企業活性化ファンド組成(ジャパン・ストラテジック・IT1号ファンド)の契機になっています。
【森本】 このファンドは、7年前の2000年にスタートしていますね。
【芦田】 住友商事からは5億円を出資しました。NECからも5億円の出資をいただき、東京電力からは最初10億円の出資の申し出がありましたが、5億円で結構ですということで、5億円出資いただきました。そのほかにも、多くの事業会社から資金を集めて運用をスタートしています。最終的に約60億円が集まりました。
【森本】 そのファンドは、インスパイア本社による運用だったのですか。
【井出】 はい。1号ファンドは、インスパイア本社と現在のNIF SMBCベンチャーズが共同GPとして組成・運営したファンドです。正式には、「ジャパン・ストラテジック・IT1号ファンド 」という名称で、製造業、流通業などオールドエコノミーに分類される企業に対し、IT等を導入し、事業の活性化を図るファンドでした。2号ファンドの「インスパイア・アドバンスド・テクノロジー・ファンド」はインスパイア・テクノロジー・リソース・マネジメントというインスパイアの子会社によるものです。3号ファンドの「インスパイア・テクノロジー・イノベーション・ファンド」(イノベーション創出支援ファンド)は、やはり、インスパイアの子会社であるインスパイア・インベストメントが運営しているファンドです。


あらゆる手を差し伸べていこう

【森本】 1号ファンドは、成毛氏の中小企業の国際競争力を高めたいという思いから発したとのことですが、2号、3号ファンドはどんな位置づけのファンドなのですか。
【芦田】 2号ファンドは、先端特許技術の事業化支援・育成をコンセプトにしたファンドです。最近は中国やインドなどからも優れた技術が出てきていますが、日本の先端テクノロジー水準は国際的に高い位置にありますから、これらを積極的に支援していくことを目的にしていました。2001年のスタートだったと思います。我々のように幅広いコンサルティング業務をしていると、いろいろなメーカーから数多くの新技術情報が入ってきます。そうした技術開発の支援体制を整備しなければいけないということで、立ち上げたファンドです。3号ファンドは、2006年10月に組成したもので、これから投資を本格化していくファンドですが、製造業や国内の技術開発型企業への投資を目指しています。現在までに帝人、NTTドコモ、キヤノンマーケティングジャパン、住友商事などの事業会社などに加え、芙蓉総合リース、東京リース、藍澤証券、新生銀行、りそなキャピタル、あいおい損害保険などの金融系企業、そして中小企業基盤整備機構が出資しています。現在約26億円集まっていますが、最終的には30億円くらいのファンドにしていこうと考えています。
【井出】 2号ファンドの「インスパイア・アドバンスド・テクノロジーファンド」は、ベンチャー企業が持っている最先端の技術に特化して投資することを目指した技術オリエンテッドな投資スタイルでした。よって投資対象に、企業そのものだけでなく、知財にも投資するスタンスを持たせた点が特徴です。設立当時としては、かなり最先端のコンセプトを持ったファンドだったと思います。ただ、優れた技術やユニークな技術はたくさんあるのですが、それが利益を生む過程には、製品化や競合状況を初めとしたいろいろなリスク、社会的変化があって、いい技術だからといって必ずしも高い収益に結びつくものでもありません。そういうことを丁寧に精査していくためには、一つの仕組みが必要になってきます。たとえば、3号ファンドの「インスパイア・テクノロジーイノベーションファンド」ですと、1号ファンドでの企業再生、活性化の経験と、2号ファンドでの技術投資の経験を踏まえたコンセプトを確立しています。経験を重ねながら、投資チャンスをより適格に判断できる仕組みづくりを進めることが大切です。
【森本】 そのコンセプトとは、どんなものですか。
【芦田】 我々のファンドは、どちらかというとハンズオンではなく、「ハンズイン」で懐の中まで入って、ベンチャーの起業や成長のために、あらゆる手を差し延べていこうというのがそのコンセプトです。ベンチャー企業にとって一番問題になることは、販売力がないことです。いい企画や技術を持っていても、たとえば、トヨタに売りにいったとしても、どのセクションにその担当がいるのかが分からないわけです。我々なら、トヨタですと会長、社長、役員レベルの方々とのお付き合いがあります。「トヨタに役立つ技術だから、ぜひ技術担当者を紹介してほしい」といえば、すぐ紹介してくれます。だから、我々には技術販売に大きなアドバンテージがあるのです。
【森本】 確かにベンチャーの人たちには、そういうアクセスが少ないのが現実です。
【芦田】 そこで、我々がルートを作って販売の話をまとめていくわけです。お会いした技術担当者から技術についてのデューデリジェンスもしていただきますから、ユーザーがその場で直接その技術を判断する機会も持てるので、案件の成立も非常にスピーディーに進められます。これも我々の強みだと思います。

1号、2号の経験を生かした3号ファンド

【森本】 インスパイアでは、大手事業会社のトップとのネットワークが密接に形成されているということですね。
【芦田】 私は、50社を超える大手事業会社の会長や社長の方々と、大変親しくお付き合いさせていただいております。そして、これらの社長を集めて、毎月1回のペースで情報交換会を開催しています。毎回12名くらいが参加する集まりですが、そこで、各回ごとに3人の社長にスピーチをお願いして、そのお話をもとにいろいろな情報交換をしています。そうした会談の中では、我々が検討しているベンチャー案件についての意見を求めたりすることもあります。その技術に興味を示す事業会社があった時には、その場で担当者を紹介してもらったりするわけです。社長じきじきの紹介になりますから、話も非常に早く進めることができます。このネットワークが、我々が他のベンチャー・キャピタルよりもベンチャー企業を早く育てられる理由にもなっているわけです。
【森本】 大手事業会社にとって魅力的なベンチャー技術は多いものなのですか。
【芦田】 そうですね。100件の案件があれば、そのうちビジネス化できるのは2件くらいですね。しかも、大手企業の技術力からすれば、ベンチャーの技術レベルには、すぐに追いつくことができます。ですから、ベンチャー企業は継続的に技術開発を実施して、常に最先端の開発を進める努力が必要です。我々としても、その支援や資金援助はしっかり行わなければなりません。他のベンチャーキャピタルのファンドに比べると、だいぶ手がかかるのですが、「我々が支援に入れば成功する」というところまで入り込むのが、我々のコンセプトです。これが、ハンズインと呼ぶ所以です。
【森本】 「ハンズイン」の中身をもう少し詳しくお聞かせください。
【芦田】 1号ファンドで中堅企業の競争力の向上、2号ファンドでは先端技術の支援という問題意識から組成しました。3号ファンドは、1号、2号の経験を生かして、もっと有効なベンチャー支援・育成の方法があるのではないか、ということでハンズインというコンセプトを導入しています。これは、ベンチャー企業経営に、より強いコンタクトで関わることでベンチャーを育成しようというもので、他のベンチャーキャピタルとの差別化になっている点でもあります。



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