起業家・ベンチャーキャピタル・投資家を繋ぐコミュニティ・マガジン

VC vision
前編 後編
第20回 日本型ベンチャーの奔流 後編 ハンズインという支援
製造業のテクノロジー支援に特化したファンドを展開する
株式会社インスパイア・インベストメント。
その運営の特徴は、「ハンズイン」。ハンズオンをさらに一歩踏み込み、
ベンチャー企業の営業活動や研究開発活動などの支援で深く企業経営に関わり、
ベンチャー企業の内部から育成・成長に取り組んでいる。
後編では、充実した支援体制で差別化を掲げる
同社のベンチャーキャピタル事業についてお聞きする。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
投資先一覧パートナー
1件1件の投資にそれぞれのストーリーがある

【森本】 技術への投資を判断する場合、高度な知識が必要になってきますが。
【井出】 投資対象である技術については、もちろん、分かるものと分からないものがありますが、基本は、我々が評価できるものだけを扱うということです。一見ものづくりとしてはすばらしいものでも、我々がその価値を判断できないものは、原則として投資はしません。
【芦田】 投資にあたっては、デューデリジェンスができて、マーケットがあるのか、具体的に契約してくれる企業があるのか、ということを調べたうえで決定します。製造する側は「売れる」と主張するものですが、買い手となるユーザーの意識のほうがずっと大切ですので。
【井出】 いままでファンドで投資してきた企業を振り返ると、ポートフォリオとしては結構飛び地になっています。大きなテーマとしては、環境、エネルギー、液晶分野、新素材といったものがありますが、投資分野にはかなりバラつきがあります。しかし、1件1件の投資には、そこに投資のストーリーがあって、我々なりの裏づけをしっかり持っていることがポイントだと思います。
【森本】 自分たちが分かる技術に絞り込んでいくということは重要なポイントですね。
【芦田】 もちろん、その分野に精通する外部の方々の意見も聞きますが、最終的には、我々がその技術の意義性や市場性を理解して把握するということが大事だと思います。
【井出】 結局、ハンズオン、ハンズイン型のファンドでは、投資するまでの期間も大事ですが、投資してからの付き合いのほうがはるかに深くて長くなるわけです。スムーズに投資先の方々と歩調を合わせてやっていくには、投資前において、投資先と我々との間の理解や共感を作り上げることが大切になります。
【森本】 案件の発掘はどのような手法をとっていますか。
【井出】 自分たちの足を使って探し出してくることが中心ですね。新聞や雑誌に載ったものも参考にしています。ベンチャーキャピタルから紹介される案件もありますが、約8割は自力で発掘した案件です。

ベンチャーキャピタル業界の機能分化


【森本】 ベンチャーキャピタルや投資家の方にファンドを説明する際には、どういうお話をされていますか。
【井出】 まずは、当社の投資スタイルである「ハンズイン」の説明から始めますが、より特徴を際立たせるために、他のベンチャーキャピタルとの機能面での違いもアピールします。というのも世の中にお金が余っている中で、ベンチャーキャピタル業界は、緩やかではありますが、実は機能分化が進んでいます。金融系を中心にして分散型投資のポートフォリオを作っていくところと、証券系のように将来のIPOに際しての引受会社への足がかりを狙っていくところや、我々のような領域特化型のファンドを運営するところなどです。そうした中で、たとえば金融系のベンチャーキャピタルの方とお話をする場合では、当社のファンドの特徴を説明した後、ハンズインの支援は当社で引き受けますから融資面でのご支援をお願いします、といった直截的な話をします。また、技術にあまり明るくないベンチャーキャピタルには、より投資検討しやすいように、こちらで保有している技術情報や、事業のリスクの話をしながら、共同投資の提案をします。それぞれのベンチャーキャピタルの特徴やコンセプトに応じて、補完的な関係が作れるようにお話をさせていただいております。
【芦田】 投資家の皆さんには、我々が厳密に精査することを説明します。そして、我々が売れると判断した案件は、ほぼ間違いなく成長していきます、ということをアピールしています。
【井出】 2号ファンドからの流れですが、我々の特化型ファンドで厳しいデューデリジェンスを行って投資するスタイルが認知されるにつれ、当社で投資したベンチャー企業に投資したいというベンチャーキャピタルも増えてきました。
【芦田】 前編でお話しました、50社におよぶ大手事業会社のトップを集めたネットワークを活用したデューデリジェンスに非常に高い信頼性があるわけです。あと、「ハンズイン」の育成スタイルも高い評価を受けています。
【森本】 近年の製造業の技術開発において、トレンドはあるのですか。
【井出】 製造業といっても、機械技術には限りません。製造業でもITを使用する技術開発も活発化していて、ここに注目しています。ただ、我々が投資するIT技術は、ウェブサービスの領域ではなくて、通信、検査機、センサーなどのハードウェア部門の技術開発が中心になっています。
【芦田】 いまは、家電でも自動車でもプリント基板に非常に多くのパーツが備わって一つの製品になっています。IC基板上にだいたい数百から数千にも及ぶパーツが付いているわけです。たとえば、自動車でそのうちの一つでもバグがあったら、それはもう欠陥品になります。ですから、今は全量検査の時代になっています。1,000種ものパーツが付いている基板を一つ一つ検査するのは膨大な時間と労力がいるので、やはりITの技術が必要になってきます。ITを使った検査機のニーズは非常に高くなっています。だから、IT技術のヘルプがないとなかなかものづくりもできない時代だといえると思います。



HC Asset Management Co.,Ltd