【森本】「ハンズイン」という言葉が、御社の最大の特色だと思いますが、ハンズオンとどう違うのでしょう。一般にベンチャーキャピタルのハンズオンでも、理念に掲げるほどに機能できているわけでありませんが。
【芦田】 先ほどからも申しあげているように、ベンチャー企業が不得意な販売を全面的に支援できるネットワークを持っているということです。それからもう一つ、大手事業会社にとって、社員数が10名程度の小規模なベンチャー企業と技術や製品と契約をするのは不安があります。我々が間に入ることで、そうした不安を払拭させて信用を与えることが可能になります。そして最後に、人員の補強ですね。ベンチャー企業は、やはり、経営体制が脆弱です。そこをしっかりフォローすることも我々が重視するところです。
【井出】 ハンズオンの定義はいろいろあるのですが、たとえば、銀行系のベンチャーキャピタルが本行の融資がスムーズにできるようにキャピタルとして仲介することもハンズオンの一つだと思いますし、証券系が将来のIPOを睨んで証券会社との橋渡しをするのもそうでしょう。役員を派遣することを、ハンズオンと定義されているベンチャーキャピタルもあると思います。ただ、我々は独立系のファンドとして、できる限り実効的な面、つまりPL(損益計算書)やBS(貸借対照表)を改善することにハンズオンの重点を置いています。そして、それを行うにはただ、手を置く、「オン」では足らなくて、企業の懐まで手を差し延べる「イン」というより強いスタイルでなくては実行できないというのが基本的な考え方です。また、事業会社のリソースでハンズオン、ハンズインの育成をしようとする時に、研究開発が中心になっているアーリーステージの段階では、事業の実質的な面で事業会社が関与できる範囲が非常に狭いのです。とりあえず「開発がんばってください」と応援するくらいしかできないことが多い。そこで、3号ファンドでは、ファンドの出資企業のリソースを有効に活用できるよう、技術そのものよりも、その技術を使って製造、量産段階にいたった企業にもフォーカスすることで、さらに実効的な支援のモデルができあがってきました。たとえば、先ほどから話に出てきている技術や製品の販売支援や資材調達の最適化、ユーザーを意識したアプリケーション開発の推進、企業全体の経営支援といった点が上げられます。こういったミドルからレイターステージのほうが、支援としてやるべきことが具体化されてきます。それらの一つ一つをハンズインのテーマとして、ベンチャー企業の内部にまで目配りしながらすすめる積極的な関わりが、我々の支援スタイルの特徴だと考えています。そういう意味で、我々のファンドの出資者である大手事業会社のリソースを有効に使おうとすれば、ある程度、製造段階にいたった企業のほうが、大手企業の新技術ニーズに即した技術支援を進めやすくなるといえると思います。
【森本】 アーリーステージを含めた2号ファンドまでと異なり、3号ファンドで製造過程にまで事業を進めている企業へ対象をシフトさせた直接の契機は何でしたか。
【芦田】 それは、日本は「ものづくり」で生きていかなければならないことが大きいからです。「ものづくり」にも、製品製造から、特殊な材料や新素材を作るもの、また、ITを使って新しいことをする場合もありますから、バイオも含めて分野は幅広く広がっていきます。その意味で、ベンチャー企業も、先んじた動きを止めずに事業を継続することが大事になります。当然、技術開発も続けていかなければなりません。
【森本】 しかし、それがベンチャーにとっては非常に厳しいことです。
【芦田】 そうなのです。販売力が弱いことから、資金が続かなくなる悩みも抱えています。現在の日本のベンチャーには、その継続させるための支援が、最も重要になっていると思います。
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