【森本】 それは、3号ファンドのイグジットとしてのお話ですね。
【井出】 そうです。
【芦田】 すんなりIPOまでいくのが、本当はいいのでしょうが、技術開発や製造過程を支援しているとIPOで送り出しておしまい、というわけにもいかないのですね。
【井出】 いま、IPO自体も難しくなってきています。売上、利益だけが上場の必要十分条件ではありません。内部統制の面での基準もかなり厳しくなっていますし、上場後の継続的な成長も求められます。いわゆる「単品商品」で上場した企業にとって、継続的な成長は非常に難しい問題です。そこで、ひとつのエグジットとして、事業パートナーである大手企業とのM&Aも視野に入ってきます。ただ、日本のベンチャー企業は、大手企業に飲まれることを事業の失敗のように捉えがちなので、単に子会社化するのではなくて名前を残す合弁会社形式にするとか、イグジットの仕方に工夫を要する苦労はあります。
【森本】 3号ファンドの運用期間は、何年で行う予定ですか。
【井出】 期間は10年、投資は5年で組んでいます。いま日本のベンチャーキャピタル業界では、ハンズオフの分散投資が一つの流れになっている中で、これだけ深く支援していくファンドはあまりないですから、注目してほしいと思います。それから、日本には、ベンチャーキャピタルという言葉しかありませんが、欧米ではステージに応じた呼び方があります。我々も日本で看板を打つ時にはベンチャーキャピタルとなりますが、位置づけとしては、デベロップメントキャピタルだと考えています。つまり、成長資金の投資というイメージのキャピタルです。
【森本】 御社が投資先としている技術開発にしろ、事業展開にしろ、そこそこできあがっている企業にとって、資金ニーズのある企業は多いものなのでしょうか。
【芦田】 ベンチャーの経営者が資金に困っていることは事実です。開発は続けていかないといけないにもかかわらず、開発した技術が製品化されていないことのほうが多いですから、アーリー段階で提供を受けた資金は確実に減っています。そういう資金ニーズのある技術系のベンチャー企業は非常に多くあります。
【井出】 日本には優れた技術を持ち、かつ財務面も非常にしっかりとして経営されているオーナー系製造企業が多くありますが、これらのなかで事業承継や第二創業の問題に直面している企業が増えてきています。今までは、こういう企業はファンドを必要としていなかったわけですが、これらの企業の事業承継、第二創業の問題は、我々のファンドが手をとりあって解決するべきテーマだと思います。そしてそこは、レイトステージの製造業が多く、我々が最も強みを発揮しうる企業群でもあります。
【芦田】 いずれにしても、新しい取り組みのファンドになりますから、3号ファンドの結果を早く形にしていきたいですね。これから投資してほしいという人がいたら、我々のところに来てくれれば、きちんと大手企業に売り込んで資金も人も入れた支援で事業化します。スクリーニングは厳しいですが、我々の審査で残る技術や人は非常に優秀で有望だということです。ベンチャーのサクセスストーリーを作っていくのが、我々の仕事だと思っています。
【森本】 なるほど、ファンドをめぐる状況も大きくかわりつつあるのですね。ベンチャーキャピタルの世界を考えたときに、他にも変わりつつある点はありますか。
【井出】 日本のベンチャーキャピタル業界にこれだけ資金が集まり、2,000人といわれるベンチャーキャピタリストがいながら、産業としてのベンチャーキャピタルはまだまだ未成熟な業界だと感じています。ベンチャーキャピタルという名前も用語も多くは米語をベースとしていていますが、日本と米国ではファンダメンタルはまったく異なっています。にもかかわらず、ともするとシリコンバレー型のモデルを成功例として追ってしまうことが見受けられます。外資系のバイアウトファンドでも、日本の産業界と軋轢を生むところもあれば、日本人のメンタリティに配慮してうまく共存しているところもあります。日本の土壌にあったベンチャーキャピタルのモデルの構築が必要です。当社でもそうした努力を続けていきたいと考えています。
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