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VC vision
前編 後編
第20回 日本型ベンチャーの奔流 後編 ハンズインという支援
製造業のテクノロジー支援に特化したファンドを展開する
株式会社インスパイア・インベストメント。
その運営の特徴は、「ハンズイン」。ハンズオンをさらに一歩踏み込み、
ベンチャー企業の営業活動や研究開発活動などの支援で深く企業経営に関わり、
ベンチャー企業の内部から育成・成長に取り組んでいる。
後編では、充実した支援体制で差別化を掲げる
同社のベンチャーキャピタル事業についてお聞きする。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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ソフトウェアも製造業である

【森本】 製造業における製品の機能が向上すると同時に技術も複雑化してきているわけですね。
【芦田】 そうです。自動車のカーナビも、将来的には、いま走っている風景にあわせた音楽が流れてくるとか、タイヤが減っていますと教えてくれたりという機能を持ったものが登場してくると思います。もっと進めば、自動的にここにいけばタイヤ交換できる店があるという具体的な情報を提供することだって可能になっていくでしょう。人にぶつからない車というのも出始めていますが、そういう高機能技術でもセンサーが故障してブレーキがかからないトラブルが起きたら大変なことになるわけです。製品検査の内容や質も複雑化と高度化が進展してきているわけです。いまは、ソフトウェアとハードウェアの両面を組み合わせた技術がどんどん開発されています。
【井出】 我々は、ソフトウェアも製造業だ、といっているのですが、ソフトウェアを作るプロセスも、製造業のそれと共通している部分が多くあります。一つのアイデアがあって、それを磨き上げていく過程はまったく同じです。技術を精査する時、そういうトレンドを理解していないと、確かな技術評価を下すことができなくなってしまうと思います。また、製造系、技術系ベンチャーの傾向ですが、最初からいいものを作ろうとするのですが、ウインドウズが市場を握ってきた過程を例にすると、必ずしもパーフェクトなものを提供してきたわけではなく、そこにはバージョンアップとかソフトウェアとのバンドリングなどをマーケティング戦略の中に位置づけていたわけです。こういった点も、製造系のものづくりに応用していくべきだと思います。
【森本】 インスパイア・インベストメントでは、どういうスタッフ体制でベンチャーキャピタル事業に取り組んでいるのですか。
【井出】 私を含めて4人で現場を担当していますが、私が商社出身で、あとマーケティングをやっていた者、技術系のシンクタンクにいた者、あと新卒が一人て、現在、見習い中です。ファンド担当のメンバーに金融系出身者がいないのは特徴かもしれません。
【森本】 新卒を採用されているのですか。
【芦田】 最近のインターンの応募では、ベンチャーキャピタルをやりたいという学生は非常に多く訪ねて来ます。今年は、インスパイア全体として3名採用しましたが、そのうち1名をベンチャーキャピタル部門に配属しました。
【井出】 お金をお預かりしている手前、一人前になるまで、経費はインスパイア本体のアカウントです。
【森本】 御社のファンドでは、大手企業へのトレードセールがイグジットの主要なパターンと捉えていいのですか。
【井出】 必ずしもそうではありませんが、ベンチャーキャピタルから出資を受けたい企業ですから、事業計画書には数年後のIPOがゴールと書かれています。しかし、事業モデルや企業規模、投資と回収の効率を考えると、資金の出し手と受け手の双方が必ずしもIPOを目指さなくてもよい案件が、実は多くあります。ものづくり企業の経営者も、とくにIPOしたいという意識も高くはなくて、むしろ、技術自体を世に出したいという思いのほうが強かったりします。また、我々が投資対象とするようなコアな技術や事業が確立されている企業であれば、保有する技術や事業を自社内に取り込みたいと考える大手企業も実際には多いのです。ですからイグジットとしては、株式譲渡による大手企業と我々の投資先との資本提携、業務提携をアレンジする形をイメージしています。それが最善のケースである場合が多くありますし、世間の上場環境に影響されず、事業強化を目標に支援を継続できるメリットがあります。
【芦田】 当社の投資活動からすると、IPOへの期待値は、もちろん高いのですが、だからといってIPOだけがエグジットとは限りません。

デベロップメントキャピタル

【森本】 それは、3号ファンドのイグジットとしてのお話ですね。
【井出】 そうです。
【芦田】 すんなりIPOまでいくのが、本当はいいのでしょうが、技術開発や製造過程を支援しているとIPOで送り出しておしまい、というわけにもいかないのですね。
【井出】 いま、IPO自体も難しくなってきています。売上、利益だけが上場の必要十分条件ではありません。内部統制の面での基準もかなり厳しくなっていますし、上場後の継続的な成長も求められます。いわゆる「単品商品」で上場した企業にとって、継続的な成長は非常に難しい問題です。そこで、ひとつのエグジットとして、事業パートナーである大手企業とのM&Aも視野に入ってきます。ただ、日本のベンチャー企業は、大手企業に飲まれることを事業の失敗のように捉えがちなので、単に子会社化するのではなくて名前を残す合弁会社形式にするとか、イグジットの仕方に工夫を要する苦労はあります。
【森本】 3号ファンドの運用期間は、何年で行う予定ですか。
【井出】 期間は10年、投資は5年で組んでいます。いま日本のベンチャーキャピタル業界では、ハンズオフの分散投資が一つの流れになっている中で、これだけ深く支援していくファンドはあまりないですから、注目してほしいと思います。それから、日本には、ベンチャーキャピタルという言葉しかありませんが、欧米ではステージに応じた呼び方があります。我々も日本で看板を打つ時にはベンチャーキャピタルとなりますが、位置づけとしては、デベロップメントキャピタルだと考えています。つまり、成長資金の投資というイメージのキャピタルです。
【森本】 御社が投資先としている技術開発にしろ、事業展開にしろ、そこそこできあがっている企業にとって、資金ニーズのある企業は多いものなのでしょうか。
【芦田】 ベンチャーの経営者が資金に困っていることは事実です。開発は続けていかないといけないにもかかわらず、開発した技術が製品化されていないことのほうが多いですから、アーリー段階で提供を受けた資金は確実に減っています。そういう資金ニーズのある技術系のベンチャー企業は非常に多くあります。
【井出】 日本には優れた技術を持ち、かつ財務面も非常にしっかりとして経営されているオーナー系製造企業が多くありますが、これらのなかで事業承継や第二創業の問題に直面している企業が増えてきています。今までは、こういう企業はファンドを必要としていなかったわけですが、これらの企業の事業承継、第二創業の問題は、我々のファンドが手をとりあって解決するべきテーマだと思います。そしてそこは、レイトステージの製造業が多く、我々が最も強みを発揮しうる企業群でもあります。
【芦田】 いずれにしても、新しい取り組みのファンドになりますから、3号ファンドの結果を早く形にしていきたいですね。これから投資してほしいという人がいたら、我々のところに来てくれれば、きちんと大手企業に売り込んで資金も人も入れた支援で事業化します。スクリーニングは厳しいですが、我々の審査で残る技術や人は非常に優秀で有望だということです。ベンチャーのサクセスストーリーを作っていくのが、我々の仕事だと思っています。
【森本】 なるほど、ファンドをめぐる状況も大きくかわりつつあるのですね。ベンチャーキャピタルの世界を考えたときに、他にも変わりつつある点はありますか。
【井出】 日本のベンチャーキャピタル業界にこれだけ資金が集まり、2,000人といわれるベンチャーキャピタリストがいながら、産業としてのベンチャーキャピタルはまだまだ未成熟な業界だと感じています。ベンチャーキャピタルという名前も用語も多くは米語をベースとしていていますが、日本と米国ではファンダメンタルはまったく異なっています。にもかかわらず、ともするとシリコンバレー型のモデルを成功例として追ってしまうことが見受けられます。外資系のバイアウトファンドでも、日本の産業界と軋轢を生むところもあれば、日本人のメンタリティに配慮してうまく共存しているところもあります。日本の土壌にあったベンチャーキャピタルのモデルの構築が必要です。当社でもそうした努力を続けていきたいと考えています。



インタビューを終えて

株式会社インスパイア・インベストメントは、製造業の技術開発を投資対象に特化したファンドを設立し、「ものづくり日本」の支援に主要な目的を置いている。戦後の経済成長を支えてきたのは、鉄鋼、造船、機械、電機、自動車などの製造業部門であり、この分野での技術力は、現在においても高い国際競争力を誇る。そうした日本の製造業での新しい技術開発への支援は、新産業の創出活動とあわせて取り組んでいかなければならない必要な活動だと思う。その中でも、大手企業に収斂されがちな製造業界において、ベンチャー企業の技術開発へのサポート体制は、ある意味日本で大きく遅れをとっている分野かもしれない。日本の製造業界が新たな国際競争力を創出し、国際経済の中でしっかりとその存在感を保ち続けるために、製造業ベンチャーへの視野を提供する同社のファンド展開は、ベンチャーキャピタル業界の新しい取り組みとして着目できると思う。(森本紀行)

次号第21話(11月7日発行)は、東京大学エッジキャピタルの郷治友孝さんが登場いたします。


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