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VC vision
前編 後編
第21回 大学ベンチャーの黎明  前編 知財というキャピタル
経済産業省が今年9月3日に発表した
「18年度大学発ベンチャーに関する基礎調査」によれば、
大学発ベンチャー企業数の累計は1590社に達し、
大学別のベンチャー企業数の累計では、
東京大学は101社を数え、3年連続で一位であった。
東京大学では、2004年に総長直属の産学連携本部を立ち上げ、
全学を連携したベンチャー支援体制を強化している。
今回は、東京大学エッジキャピタル代表取締役社長の郷治友孝氏に、
全国の大学発ベンチャーをリードする東京大学の
ベンチャービジネスに対する取り組みについてうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
投資先一覧役員
より早い段階の情報からビジネスを作っていく

【森本】 投資家側からは他にはどのような質問がありましたか。
【郷治】 当然、リターンは出るのか、というのはあります。それから、投資は何件考えているのかとか、キャピタリストはどのように揃えるのかなどです。しかし、これらの点は他のベンチャーキャピタルのファンドレイズの際にも当然聞かれることです。
【森本】 東大はファンドに出資をしていないのですか。
【郷治】 していません。国立大学法人法という法律がありまして、国立大学は投資事業有限責任組合に出資することはできないことになっています。
【森本】 では、東大は東京大学エッジキャピタルの事業に対してどのような位置づけになっているのですか。
【郷治】 東大としては、我々にお金は出さないけれども、知財に関する情報提供の協力体制を作ってくれています。たとえば、研究者の同意があれば発明情報が私たちに開示される仕組みができています。また、学生への起業家育成のためのプログラムに我々も参加することで、有望な学生と交流することも可能です。東大は、知的財産や人材に関するインフラ面、情報面での協力体制を十分に整えてくれています。
【森本】 会社自体は、東大が所有しているのではないのですか。
【郷治】 そういうわけではありません。当社は、有限責任中間法人東京大学産学連携支援基金という基金が100%出資して設立された会社で、ファンドの資金についても、投資家が出資しているので、東大が所有しているわけではありません。
【森本】 なるほど。ところで、東大には大学ファンドはないのですか。大学財団のような形のものは。
【郷治】 東京大学基金というものはありますが、これは我々が運用するベンチャーファンドとは別のもので、基本的にOBなどからの寄付を募集する性格のものです。
【森本】 さて、次のファンドについてですが、1号目と同じ内容で組成する考えですか。
【郷治】 いま、1号のファンドからの投資先は24社あるのですが、我々がほぼゼロから事業を立ち上げるお手伝いをしたといえる企業は4分の1くらいあります。これをもっと増やしていかなければいけないと考えています。その理由は、すでにできあがっている会社に投資をするよりは、新しく事業を作っていくほうが、社会的使命からいっても意義がありますし、リターンも大きく取れるということがあります。我々がまだ十分に立ち上がっていないベンチャー企業に参画して相当のシェアを得た場合のほうが、当然、上場した場合のリターンが大きくなりますから、より早い段階から起業家の方々と一緒にビジネスを作っていくような投資を強化したいと考えているわけです。現在、当社全体の投資活動を徐々にそうした方向にシフトしていて、多分、2007年の後半から2008年にかけては、我々が新規に立ち上げるベンチャー企業の数は増えてくると思います。

新しい企業を一から起こしていく

【森本】 もう少し具体的にお話しいただけますか。
【郷治】 たとえば、私が社外取締役として担当しているアドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社という、特殊なゲルを製造しているベンチャー企業があります。水を90%含んでも24倍に伸びるという物理構造を持つゲルを開発している会社で、このゲルはいろいろな分野で活用される可能性がある素材です。たとえばこれを塗料に使えば、引っかいても傷が付かない塗料ができます。自動車に使えば、傷が付かない自動車になるわけです。また、このゲルは基本的に糖でできているので体に無害ですから、医療用素材にも使えるでしょう。そのベンチャー企業の場合、我々が投資決定したときにはまだ設立されていませんでした。投資決定した翌月に登記してもらって事業をスタートさせたのですが、こういった起業前の段階から投資検討をしていくという案件をもっと増やしていきたいということです。つまり、事業計画作りから関わって、経営陣も呼んできて、資本政策も一緒に作って、新しい企業を一から起こしていくという活動ですね。
【森本】 その代わり時間はすごくかかりますね。
【郷治】 ええ、有望な技術を見つけてから最低でも1年は必要になることが多いでしょう。
【森本】 技術の開発時点から資金を投資することで支援していくわけですね。そして、ハンズオンしながら起業していくという形をとる。
【郷治】 そうです。
【森本】 事業会社との提携という形の展開はあるのですか。
【郷治】 事業会社からは、彼らの関心のある技術を持つベンチャーを紹介してほしいという依頼があります。そういう話は我々にとってもありがたいですね。ベンチャー企業の売上が立ちますから。また、既存の中小企業が何か新製品を開発したいという場合に、東大の研究開発成果を使ってもらうという展開もあります。たとえば、小型の風車を作っている株式会社ゼファーという会社があります。世界で一番コンパクトな効率のいい風車を作っているところですが、もともとは米国メーカーの風車の輸入販売業者でした。そこが、自ら製品開発をしたいということで東大工学部の教授との共同研究によって「エアドルフィン」という国産の小型風車を開発しまして、それを販売する段階で我々が資金を投入したということがあります。ですから、必ずしも東大の中だけでベンチャーを発掘するのではなくて、既存の企業が新製品や新サービスを出そうとする際に東大の技術と組み合わせて、我々が出資して支援するという手法もあります。
【森本】 1社の投資金額はどれくらいですか。
【郷治】 最初はそれほど大きな金額は必要ないですね。ただ、企業が成長してくると資金需要も高まってきますから、IPOまで付き合うとして、最終的にはトータルで4〜5億円くらいの規模になっていくと思います。もちろん、業種によって幅はありますが。
【森本】 いまファンドは何割ぐらいを投資しているのですか。
【郷治】 投資予定金額の半分位です。ファンドができてからまだ3年ですから。
【森本】 それでは、並行ファンドはやらないで、投資を終えるまで1号ファンドの運営を続けるわけですね。
【郷治】 はい、基本的にそうです。1号ファンドの投資期間は5年で組んでいまして、2009年6月までに基本的な投資を終える予定です。ただ、それまでに投資をしたベンチャー企業への追加投資については、その後でも行えます。ですから、今の時点で投資が半分まで終わっているのは、スケジュール的にはいいペースだと思います。

後編 「研究から生まれるシーズ」(11月21日発行)へ続く。


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