【森本】 投資先の業種、分野でとくに得意としているものはありますか。
【郷治】 投資先の割合では、バイオベンチャーが多いですね。4割以上を占めていて、ハードウェア・デバイス、ソフトウェアが続きます。投資した時点でのその企業の成長ステージについては、設立1年未満の企業が25%で、1〜5年未満が最も多くて6割近くを占めます。全体にアーリーステージの投資が中心です。
【森本】 アーリーでの投資の際に、最も注意している点はどのようなところですか。
【郷治】 特に創業段階のベンチャーに投資を行う場合には、経営者の方と全人格的なお付き合いをすることになるケースが多いです。ですから、信頼関係を作りながら、なおかつ、緊張関係を保たなくてはなりません。緊張関係という意味では、たとえば株価の設定であれば、ベンチャー経営者とは緊張間のある関係でなくては適正な価格設定ができなくなります。また、投資したベンチャー企業が事業計画を達成できないような場合には、株主として経営者の交代を要請する場合もあるわけですから、そういう意味でも規律ある緊張関係が必要となります。しかし、信頼関係という点に話を戻しますと、起業家も我々も、シーズから一緒に事業を立ち上げていくという目標を共有しているわけですから、事業がうまく立ち上がらない苦しいときこそ起業家を精一杯支える仲間としての意識を持つことが必要です。これは二律背反ではありますが、バランスをうまくとっていかなければなりません。
【森本】 投資先の価値向上のための東京大学エッジキャピタルの強みは何ですか。
【郷治】 他のベンチャーキャピタルとどれだけ違うかはわかりませんが、監査法人を入れたり、証券会社を付けたりといった支援は当然やります。また、ベンチャー企業は一般に社会的認知度が高くありませんから、営業の際に、我々が顧客を紹介する場合もあります。このほかにも投資先のベンチャーが新製品を作る際に、東大の中の技術で使えるものはどんどん紹介していきます。それから、取締役としてベンチャー企業の中に入った際には、日々の経営アドバイスも実施していきますし、事業計画の練り直しが必要なら、我々も一緒に考えて意見を提示していきます。
【森本】 イグジットの仕方は、IPOだけですか。
【郷治】 今までIPOしかなかったわけですが、今後もおそらくIPOがメインだろうと思います。ただ、投資先の中にはM&Aを目指している企業もあります。これまでは、新興市場のハードルが低かったのでIPOも狙いやすかったのですが、最近は上場審査基準が厳しくなってきていますから、M&Aにも力を入れていく必要があると思っています。
【森本】 投資家には事業会社がありますが、そういうところが事業を買い取りたいという話はあり得るのですか。
【郷治】 あり得ると思います。まだ具体例はありませんが、そうした動きも考えていく必要はあると思います。
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