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VC vision
前編 後編
第21回 大学ベンチャーの黎明  後編 研究から生まれるシーズ
東京大学には文系と理系を合わせて約5,000人の研究者がいる。
この研究者のすべての研究内容を網羅的に把握して、
その中から事業化に結びつける特許、
技術を見つけ出すことは容易ではないはずだ。
後編では、東京大学が持つ知的財産を有効に活用して、
新たな事業を起こしていく東京大学エッジキャピタルの
ビジネスモデルについて詳しくうかがう。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
投資先一覧役員
スケールアップしていけることが大事

【森本】 知財は学内にあるとして、ベンチャーへの経営支援をするうえで、投入する人材のパイプを持つ人は求めないのですか。
【郷治】 確かに、経営陣を組成するためのネットワークは、なかなか組織化しづらい問題です。我々の知っている人脈の中から探す場合もありますし、シーズを持っている研究者の知り合いの事業経験者から採用することもあります。場合によっては、外部委託で人材紹介会社への依頼も行います。起業経験があるとか、ビジネスマインドのある方でないとできませんからね。
【森本】 案件の発掘の仕方が他のベンチャーキャピタルとは異なるわけですが、発掘の仕方で、何か特別な方法はありますか。
【郷治】 まずは、先ほどお話した、発明届出書からの発掘ですね。それから、各学部の説明会などに参加してベンチャービジネスについてのお話をする際に相談を受ける場合もあります。また、新聞などに掲載される東大の研究開発に関する記事をきっかけにして、研究室にお邪魔してお話を伺ったり、学会や研究発表会に参加しておもしろい研究を見つけてアプローチしたりすることもあります。また、学生を当社のインターンとして雇用して学内のいろいろな研究を調べてもらい、事業化提案までさせる「サーチプロジェクト」というプログラムも行っています。もちろん、個人的なネットワークから発掘する案件もあります。そのほかに、投資家、投資先、ベンチャーキャピタルからの紹介を受ける場合もあります。
【森本】 投資決定するまでは、どういう手順で進むのですか。
【郷治】 それはまちまちですが、とりあえずはお会いして話を聞くことが基本です。各案件の検討プロセスの進め方は、その時の印象で大分変わってきます。実際、今我々のところに来ている案件の3分の1は、まだ会社ができる前の案件です。ですから、雲をつかむような話が多いのです。その中から、おもしろいものについて具体化するプランを考えていきます。
【森本】 どのようなものが「おもしろいもの」なのですか。
【郷治】 ビジネスコンセプトがユニークなものであるということですね。また、ユニークであるだけではダメで、やはり、それを使ってビジネスをスケールアップしていけることが大事です。新規性と広がりですね。ただ、客観的な基準があればいいですけれど、そういうものはないので、なかなか表現するのは難しいです。まずは、この二つが最初のハードルです。あとは、面談を重ねて、事業計画を一緒に作るという話になっていきます。
【森本】 今までに、投資を実施したベンチャーが24社ということですが、IPOしている企業はありますか。
【郷治】 2社あります。今年中にもう1社、IPOを期待している会社があります。来年以降は、我々のファンドの中でシェアが大きい案件がIPOへと進んでくる予定です。

信頼関係を作りながら緊張関係を保つ

【森本】 投資先の業種、分野でとくに得意としているものはありますか。
【郷治】 投資先の割合では、バイオベンチャーが多いですね。4割以上を占めていて、ハードウェア・デバイス、ソフトウェアが続きます。投資した時点でのその企業の成長ステージについては、設立1年未満の企業が25%で、1〜5年未満が最も多くて6割近くを占めます。全体にアーリーステージの投資が中心です。
【森本】 アーリーでの投資の際に、最も注意している点はどのようなところですか。
【郷治】 特に創業段階のベンチャーに投資を行う場合には、経営者の方と全人格的なお付き合いをすることになるケースが多いです。ですから、信頼関係を作りながら、なおかつ、緊張関係を保たなくてはなりません。緊張関係という意味では、たとえば株価の設定であれば、ベンチャー経営者とは緊張間のある関係でなくては適正な価格設定ができなくなります。また、投資したベンチャー企業が事業計画を達成できないような場合には、株主として経営者の交代を要請する場合もあるわけですから、そういう意味でも規律ある緊張関係が必要となります。しかし、信頼関係という点に話を戻しますと、起業家も我々も、シーズから一緒に事業を立ち上げていくという目標を共有しているわけですから、事業がうまく立ち上がらない苦しいときこそ起業家を精一杯支える仲間としての意識を持つことが必要です。これは二律背反ではありますが、バランスをうまくとっていかなければなりません。
【森本】 投資先の価値向上のための東京大学エッジキャピタルの強みは何ですか。
【郷治】 他のベンチャーキャピタルとどれだけ違うかはわかりませんが、監査法人を入れたり、証券会社を付けたりといった支援は当然やります。また、ベンチャー企業は一般に社会的認知度が高くありませんから、営業の際に、我々が顧客を紹介する場合もあります。このほかにも投資先のベンチャーが新製品を作る際に、東大の中の技術で使えるものはどんどん紹介していきます。それから、取締役としてベンチャー企業の中に入った際には、日々の経営アドバイスも実施していきますし、事業計画の練り直しが必要なら、我々も一緒に考えて意見を提示していきます。
【森本】 イグジットの仕方は、IPOだけですか。
【郷治】 今までIPOしかなかったわけですが、今後もおそらくIPOがメインだろうと思います。ただ、投資先の中にはM&Aを目指している企業もあります。これまでは、新興市場のハードルが低かったのでIPOも狙いやすかったのですが、最近は上場審査基準が厳しくなってきていますから、M&Aにも力を入れていく必要があると思っています。
【森本】 投資家には事業会社がありますが、そういうところが事業を買い取りたいという話はあり得るのですか。
【郷治】 あり得ると思います。まだ具体例はありませんが、そうした動きも考えていく必要はあると思います。



インタビューを終えて

ここ数年の間に、大学発ベンチャーは非常に活発化し、一種ブームのような様相にある。そうした中で、どれだけ多くの質の高い大学発ベンチャーを創出できるかによって、大学の真価が問われることにもなる。東京大学も2004年の国立大学の法人化を契機に、積極的に産学連携を進めるようになったという。東京大学エッジキャピタルを軸にした東京大学の知財に特化したベンチャー支援体制は、全学的な取り組みとして整備され、大学内の知財を効率的に活用できるシステムになっている。これは、他の大学にはない大きな特色といっていいだろう。東京大学の取り組みは、大学発ベンチャーのひとつのモデルを示したものであると言える。(森本紀行)

次号第22話(12月5日発行)は、グロースパートナーズの萩原義行さん、河野浩人さんが登場いたします。


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