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VC vision
前編 後編
第25回 日本発ベンチャーの可能性 前編 グローバルなファンド展開
米国の大手バイアウトファンドとして知られる
カーライル・グループが日本に進出したのは、2000年のことである。
大規模なグローバルファンド展開を続ける同社は、
いかなる国際戦略の下、ベンチャーキャピタル事業を実施しているのか。
ファンドのコンセプトならびに、同社の独特の投資戦略について、
日本法人であるカーライル・ジャパン・エルエルシーの
吉崎浩一郎氏にお話をうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
主な投資先事例
ベンチャー投資を戦略的に行うべきだ

【森本】 米国資本であるカーライルは2000年に日本に進出しているわけですが、その時期に日本に進出した狙いと、その当時から現在に至るまでの活動内容についてお聞きしたいと思います。
【吉崎】 カーライルは、基本的にバイアウト投資を主業務にしています。米国では1980年代後半に新興のバイアウトファンドとして設立され、90年代にかけて、新興バイアウトファンドとしては、かなりの成長を遂げて、現在では、KKR、ブラックストーンとともに大手バイアウトファンドのひとつに数えられています。また、カーライルは、1990年代後半に、米国でバイアウト以外の投資活動を活発化させ、ちょうどITバブルが起きた時期にインターネット分野でのベンチャー投資に本格的に乗り出していきました。そして2000年前後に、本格的なグローバル展開をスタートさせます。日本を含めた世界各地でベンチャーファンドを設立して、ベンチャーキャピタルに実績のあるメンバーを集めたチームを世界各地に作っていったことが、カーライル・グループが日本へも進出していく契機になります。
【森本】 2000年はITバブル崩壊、そして、2001年は9.11テロという二つの大きな出来事がありました。
【吉崎】 ええ、投資熱が一挙に冷え込んでしまいました。そのため、2003年には、日本でのベンチャーファンド設立の計画もいったん中止され、ベンチャー投資チーム自体も解散しています。したがって、2003年以降は、カーライル・ジャパンとしては、バイアウト投資に注力していました。ただ、カーライル・グループのトップの考え方には、やはり、バイアウトだけではなくて、ベンチャー投資を戦略的にやっていくべきだというものがあって、もう一度やってみようと、またベンチャーキャピタルのチームを作る動きが出てきます。ここでの議論は、もともとカーライル・グループがある程度の規模の企業を対象にしたバイアウト投資をコア・コンピタンスとしてきた中で、いきなりテクノロジーや新興バリューのベンチャー投資を行うのはギャップがあるということです。そこで、バイアウトとベンチャーキャピタルの中間的な分野での投資を狙いどころにしようという戦略が出てきました。
【森本】 そのとき出てきたアイデアが、グロース・キャピタルというコンセプトですね。
【吉崎】 はい。グロース・キャピタルとは、スタートアップのポジションにある企業ではなくて、ある程度売上げが立っていて利益も出ている企業、あるいは、ポテンシャルの高い企業で、もう一段高いステージに成長したいと考えている企業を対象にした投資という定義づけをしています。これは、米国でレイトステージと一般にいわれているものですが、アジアにおいてレイトステージというと、特にベンチャー企業である程度成長を遂げてきている企業を指すイメージがあります。当社では、そうしたベンチャー企業のほかに、売上げが50億円、100億円という規模を持つ大企業の子会社やオーナー企業も投資対象にします。これらの企業はレイトステージといういい方はしないと思いますので、何か別な名称が必要ということで、グロース・キャピタルという言葉を用いることにしました。

ベンチャーキャピタルからグロース・キャピタルへ

【森本】 カーライル・グループでベンチャー投資を再開したのはいつごろからですか。
【吉崎】 2005年から、カーライル全体でベンチャーキャピタルチームを再編し、グロース・キャピタルの経験者を補強していきました。そして、2006年からは、アジア地域でもグロース・キャピタル活動を正式に始動させました。
【森本】 グロース・キャピタルの展開は、米国でもアジアでも同様のスタイルになっているのですか。
【吉崎】 ええ、米国では、シリコンバレー型のアーリーステージの企業にも投資はしていますが、ある程度成長して、売上げが100億円、200億円という企業にも投資しています。投資スタイルは、マジョリティをとって、その企業に追加投資をして、企業をさらに成長させていくものです。増資をして企業成長を促すという投資になります。バイアウトとベンチャーキャピタルの中間を対象に投資することがカーライル・グループの特徴のひとつになっています。
【森本】 グロース・キャピタルの考え方は、2000年までのベンチャーキャピタルがうまくいかなかったために出てきたアイデアなのですか。
【吉崎】 第1期と第2期に分けるとすると、第1期でのラーニングがやはりあります。大手のグローバルファンドを見た場合、バイアウトとベンチャーキャピタルの両方を成功させている事例もあります。カーライルがベンチャー投資をやっていこうとすることは当然ともいえますが、しかし、最初に必ずしもうまくはいっていない部分もあるわけです。この経験を踏まえたうえで、現在の発想が出てきているのは確かです。
【森本】 第1期と第2期ではファンドの性格も違ってきているわけですね。
【吉崎】 ええ、違っています。アジアの場合でいいますと、第1期のファンドは、「カーライル・アジア・ベンチャーパートナーズ」でしたが、第2期は「カーライル・アジア・グロースパートナーズ」といいます。名前も違いますし、投資対象も明確に違っています。第1期では、テクノロジーベンチャーのアーリーステージに投資していました。2000年から2005年くらいまでは、アジアではインドのIT企業や中国のeコマースの会社などへ投資しています。第2期では、投資対象が中堅以上のレイトステージになっているということですね。
【森本】 出資者に変化はあったのですか。
【吉崎】 個別に言えば、違いはありますが、機関投資家が主体であることに変りはありません。

ローカルで活動してローカルで投資をする

【森本】 カーライル・ジャパン・エルエルシーは、日本法人として独立しているのですか。
【吉崎】 はい。ただ、我々のグロース・キャピタルチームは、アジアのチームの一環として存在しています。「カーライル・アジア・グロースパートナーズ」は、日本、韓国、中国、インドの4カ国で展開していて、それぞれの現地にベンチャーキャピタルの経験者がスタッフとして常駐して投資活動をしています。ファンド総額は、6億8,000万ドル(約750億円)の規模です。組成されたのは2006年です。現在までの2年弱で、かなり投資も進んでいます。このファンドで、投資1件あたり、下は1,000万ドルから上は5,000万ドル、日本円で10億円から50億円程度の投資を実施しています。
【森本】 欧州、米国などの地域にはまた別のファンド展開があるわけですね。
【吉崎】 そうです。カーライル・グループの場合、グローバルなプラットフォームでありつつ、ローカライゼーションを掲げていますので、現地で完結する体制をとっています。日本には日本人スタッフしかいません。ローカルで活動してローカルで投資をする形です。ですから、ファンドもローカルで作っていきます。バイアウトファンドについては、日本専用のファンドを作っていますし、米国ではベンチャーファンドもあります。最近では、中東でもファンドを組成しています。
【森本】 アジアのファンドは出資者もアジアの人たちなのですか。
【吉崎】 出資者に関しては、必ずしもそうではありません。投資家はカーライル・グループとして募っているので、ファンドレイズチームがまた別にあります。彼らが年間365日、世界中の投資家に接見して出資を募っています。ですから、我々投資のプロフェッショナルは投資家の日々の動向は追いかけていません。この投資と投資家対応が分業されている点は、カーライル・グループが最も進んでいる点で、カーライル・グループの特徴でもあると思います。
【森本】 ファンドの規模はどこで決定されるのですか。
【吉崎】 最終的には、カーライル・グループの創業者3人により決定されます。アロケーションのようなものが決まっているわけではなくて、ニーズと実績に基づいて、その地域での投資規模が決まってくるという感じです。
【森本】 ファンドは現在一つだけですか。
【吉崎】 はい。「カーライル・アジア・グロースパートナーズV」だけです。我々は複数のファンドを同時並行的に運営できませんので、投資がある程度終わったところで、次のファンドの組成をする形になります。
【森本】 アジア全体の中で、日本での投資は何割ぐらいを占めているのですか。
【吉崎】 初めからシェア配分を決めているわけではありませんので、結果ベースになりますが、現在の投資ペースでは、だいたい3分の1が中国、3分の1がインドで、残りの3分の1を日本と韓国で半分ずつ分けあうという配分になっています。




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