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VC vision
前編 後編
第29回 いでよ、アントレプレナー! 前編 ベンチャーを育成するインフラとして
日本で民間のベンチャーキャピタルの事業がスタートしたのは1972年。
日本のベンチャーキャピタル業界は、これまでにどのような成果を生み、
また、現在どのような課題を負っているのだろうか。
今回は、ベンチャーキャピタルの業界組織である
日本ベンチャーキャピタル協会の鴇田和彦会長に、
日本ベンチャーキャピタル協会が目指す目標と、
その活動内容についてうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)

有力なベンチャー企業の創出、育成に注力

【森本】 まずは、日本ベンチャーキャピタル協会の設立の経緯からお話いただけますか。
【鴇田】 日本で民間のベンチャーキャピタルの事業がスタートしたのは1972年のことでした。それ以降、日本のベンチャーキャピタル業界は、着実に投資残高を増加させてきて、30年を経過した2002年には業界全体の投資残高が1兆円の大台に乗りました。1兆円という金額は、業界としての一つのステータスになる数字で、ベンチャーキャピタル業界も日本経済の一翼を担うポジションを占めるようになったことを示すものです。ちょうどこの2002年を前後した頃から、業界としての共通の問題や課題を解決する業界組織が必要だという意識がベンチャーキャピタル業界内に生まれてきていました。そうした声を背景にして、2002年に70社(名)のベンチャーキャピタルとベンチャーキャピタルの活動の進展に協力いただける企業・団体・個人が参加して誕生したのが、日本ベンチャーキャピタル協会です。
【森本】 協会設立にあたってまず目指したことはどのようなことですか。
【鴇田】 ベンチャーキャピタル企業を成長させることはもちろんですが、それ以上に、ベンチャー企業を育成することを重視しました。日本のベンチャーキャピタル業界が1兆円市場になったといっても、欧米諸国のベンチャーキャピタル市場は30兆円の規模にあるわけで、行政、法制度、会計制度をより有効なものへ改革して、業界のより一層の発展を期し、ベンチャー投資を飛躍させていこうという趣旨で活動しています。また同時に、優秀なベンチャーキャピタリストを育成することも重要な任務として取り組んでいます。全体として日本のベンチャーキャピタルのクオリティアップ、グレードアップを図って、有力なベンチャー企業の創出、育成に力を注いでいます。現在、当協会の会員数は100社強に上っています。
【森本】 日本ベンチャーキャピタル協会は業界の中でどのようなポジションに位置づけられているのですか。
【鴇田】 近年では、金融商品取引法などの新しい法規制や、会計制度の変更など、経済社会に新しい動きが各種出てきていますから、業界として一つにまとまって対応する必要性が高くなってきています。協会としての役割は、設立してから年を追うごとに増してきています。
【森本】 協会の体制についてお聞かせください。
【鴇田】 まず、法務に関する取り組みを行う法務委員会、会計制度について取り組む会計委員会、業界の統計データのデータベース化を進めている調査・研究委員会、他、税務委員会、広報委員会という形で、機能を分化させています。各種の課題をスムーズに取り組める体制へと整備も進めています。当協会も、ようやく業界内に定着して、そして、組織の拡大期へと移行する基盤ができてきたのが現在だと考えています。

ベンチャーキャピタリストの育成と検定

【森本】 各委員会の活動内容をもう少し詳しくお聞きかせ願いますか。
【鴇田】 金融商品取引法の改正などの際に、金融庁がパブリックコメントを募集するのですが、各ベンチャーキャピタル企業の法務担当者を集めて、業界として過度な制約を受けない形の要望を法務委員会でまとめます。こうした業界の意見を収集して行政への提起を行うのが法務委員会の業務です。会計委員会では、有限責任組合法をベースにした時価会計と一般的な金融商品会計の二本立てになっていますが、これを統一する働きかけを行ったり、また、海外からの投資をスムーズにさせる税制度の改正を働きかける活動を展開しています。調査・研究委員会は、先ほど申しました統計のデータベース化と、ベンチャーキャピタリストの育成事業を中心に担っています。また、ベンチャーキャピタリスト検定制度を設けて検定試験も実施しています。検定試験には毎年200名前後の受験者がいます。
【森本】 ベンチャーキャピタリストの育成と検定は、それぞれ具体的どのような内容で実施されているのですか。
【鴇田】 ベンチャーキャピタリストの育成では、8コマのジャンルに分けた講座をそれぞれ著名なキャピタリストや大学教授を講師に招いて開催しています。検定は、その研修のまとめとして年に1回実施しているものです。キャピタリストのクオリティと実力のアップを図ることが目的です。受講者はほとんどがキャピタリストの人たちです。日本のベンチャーキャピタル業界は、米国とは違って、銀行、証券、損保などの親会社から子会社のベンチャーキャピタル会社に出向してくるパターンが多くあります。そういう人たちに基礎知識やノウハウを伝授して、業界としてのレベルアップのサポートをしていくことが必要です。それから、また、種類株などの新しい投資手法についての講座を開催して、時々のタイムリーなテーマの研修も行っています。
【森本】 研修には年間で何名くらい参加されていますか。
【鴇田】 年間だと70〜80名くらいです。
【森本】 毎年それだけの人数が受講されているということは、キャピタリストの人数は、業界全体で増えてきているということですね。
【鴇田】 ストックとしては相当数に増えてきていると思います。当協会の研修受講者を見れば、他業界に退出する人は少ないですから、キャピタリストの人数は年々増大しているはずです。それから、研修はベンチャーキャピタルの社長クラスの人も受講しています。ベンチャーキャピタル業界の場合、社長でも業界の生え抜きとは限らない場合もあるので、経営者が受講するケースもあるわけです。一定の知識を一日も早く習得してもらい、現場の世界に生かせるように当協会の主要事業の一つとして進めています。

グローバルなベンチャーキャピタルの共通認識を

【森本】 こうした活動以外にも積極的な取り組みを数々行っているようですが。
【鴇田】 事業関連とは別になりますが、広報委員会があります。ここは、当協会の活動内容や、業界全体の動向を会員や立法・行政サイド、協調関係にある他団体に伝達することを業務にしています。それから、経営者懇談会という形で、ベンチャーキャピタル企業の社長同士で忌憚のない意見交換のできる場を設けています。ベンチャーキャピタル企業の経営者の質を高めることも我々の課題になりますから、経営者に今のベンチャーキャピタルを取り巻く環境を理解してもらい、これをどう乗り越えていくかを共通認識にしていくことも大事だと考えています。今は、ベンチャーキャピタルは「冬の時代」ともいわれていますから、こうした課題を克服するために当協会の役割も大きくあると認識しています。
【森本】 鴇田さんは会長に就任されてちょうど1年経ちますが、この間どのような取り組みに力を入れてきましたか。
【鴇田】 私は3代目の会長になります。初代は堀井愼一さんというエヌ・アイ・エフベンチャーズ(現エヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズ)の社長を務めていた方で、2年半ほど会長職を務めました。2代目は日本アジア投資の社長の立岡登與次さんが2年会長を務めました。そして、私が会長になってちょうど1年経過したところです。基本的には、「継続は力」ですから、これまでの事業をさらに強化させることを考えてきました。これまでの当協会の基盤をベースに会員数の拡大に努めています。
【森本】 前会長の立岡さんは海外のベンチャーキャピタル協会との接点を設けることに力を入れてらっしゃいました。
【鴇田】 はい。私も、上海や韓国のベンチャーキャピタル協会、ヨーロッパのベンチャーキャピタル協会との接点を広げて、グローバルなベンチャーキャピタルの共通認識を確立させると同時に、海外の新興市場の研究を進めています。また、立岡さんは金融審議会の専門委員として活躍されていましたが、私も引き継いで、金融庁の金融審議会や経済産業省の産業構造審議会では、それぞれ専門委員、臨時委員として、ベンチャーキャピタル業界の問題意識を提言してきています。これらを始めとして私が参加してきた政府の審議会、ワーキングチーム等の会合は、7テーマに及んでいます。これらの会合で議論された内容を、できるだけ業界全体に伝達して、業界の各社が行政の諸課題を共有して、その議論を生かした経営ができるようにする活動を展開しています。これまでの当協会の事業を継承して、より拡大的な展開を進めていくことが大切だと認識しています。




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