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VC vision
前編 後編
第4回 愛と勇気とベンチャーと 後編 ベンチャーを科学する
ベンチャーキャピタルは確実に収益を上げることができる
ビジネスモデルであると語る
フューチャーベンチャーキャピタル株式会社代表取締役社長の川分陽二氏。
パートナー個人のノウハウに強く依存するがゆえに、
非合理的にならざるをえないベンチャービジネスにこそ
科学的分析が必要なのである。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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ベンチャーとポートフォリオ投資

【森本】フューチャーベンチャーキャピタルは、創業8年目で、24本のファンドを立ち上げていらっしゃいますが、ハンズオンで投資を行う点も特色ですね。
【川分】我々は、基本的にはアーリーステージで投資するタイプのベンチャーキャピタルです。しかし、現在の数字を見ると、今上場しているのはレイター投資が多くなっています。アーリーが中心であるのは間違いないのですが、ファンドをポートフォリオに沿って分散投資していきますので、当然レイター投資の案件も組み入れていきます。レイター投資の収益率は低いですが、早くにリターンが出ます。ですから、ファンドの途中経過を見るとレイターしかやっていないように見えてしまいます。でも、アーリー投資でリードを展開する企業が後に上場して大きいリターンを実現するというパターンになりますので、ファンド終了時の結果を見れば、我々はアーリー投資が中心のベンチャーキャピタルだということがおわかりいただけると思います。
【森本】川分さんはいまどのようなポジションで動いていらっしゃるのですか。
【川分】現在、私は直接の担当からは離れていまして、チーフインベストメントオフィサー的なポジションにいます。弊社は、1社について2人で担当するペア体制をとっておりまして、若手が直接担当をし、シニアがアドバイザーの立場に立ちます。私は投資決定者として、自分では担当を持たない形になっているのです。
【森本】スタッフはどのような人を採用しているのですか。
【川分】スタッフ採用での弊社の特色は、新卒採用を積極的に行っていることです。それは、日本のベンチャーキャピタルは層が非常に薄くて、プロフェッショナルと呼べる人は皆無といっていいほど少ないため、中途採用を行ってもプロフェッショナルは獲得できる保証はありません。かえって生半可な知識があって、それが仕事に支障をきたすこともあります。それならば、新卒を採用して一から育てていったほうがずっといい結果が出ると考えています。ただ、新卒だけで全部まかなえるかというと、実際問題としてそこは難しい面もあって、銀行や証券などの金融経験者の中途採用者も若干名採用するようにしています。しかし、ベンチャーキャピタル向きの人材は、やはり少ないですね。
【森本】投資案件の掘り起こしは、どんな方法論で展開していらっしゃいますか。
【川分】基本的には、紹介案件に投資しようというスタンスです。紹介を受けましたら、まず最初に社長にお会いして、そこから審査に入るという形でやります。ですから、ベンチャー企業をリストアップして、資金調達の必要はないかというお伺いの電話をするオペレーティングは一切やっておりません。紹介を受けるということは、我々を求めているということですから、いきなり本題に入れるわけです。無駄の多い電話営業的な掘り起こし作業は必要ないということです。
【森本】その紹介案件自体は、どのようなルートで入ってくるのですか。
【川分】大事なのは、紹介してくれる人たちのネットワークを築くことですね。銀行であったり、コンサルタント会社であったり、自治体であったり、投資先であったり。あとは、セミナーとのタイアップというケースもあります。


合理的に説明できない案件にも投資する

【森本】投資先の判断基準はどのようになさってますか。
【川分】ベンチャー経営者の考え方が一番のポイントです。経営者の人間性、やる気、熱意が大事なのです。要するに、その人が真剣に仕事に取り組んでいるかどうかというところです。
【森本】それが本物かどうかを見極めるのが難しいところだと思いますが。
【川分】おっしゃる通りです。皆さん資金調達が第一義ですから、我々の前ではどうしてもいい顔をせざるをえませんからね。基本的には必ず3回以上お会いして、経営者の人となりを把握するようにします。また、審査にも3カ月以上の期間をとることを原則としています。でも、もうひとつの選択基準は業種、業態ですね。イノベーション、差別化、マーケットの大きさ、成長業種であるかどうかを見るようにしています。
【森本】かなり厳密な基準を設けていらっしゃいますね。
【川分】審査さえ間違わなければ、まず問題はありません。あとは確率の世界ですから。ベンチャーキャピタルのビジネスモデル自体は利益が出るようにできているものですから、審査をしっかりやれば、ある程度のリターンは確実なものになります。
【森本】その仕組みについてもう少し詳しくお話しいただけますか。
【川分】ファンドを立ち上げる際には、ポートフォリオを組みます。15、16社くらいの企業に振り分ければ、分散効果がありますから。その際に、ハイリスクではあるけれどもリターンが大きいと見込める案件を必ず1、2社入れておくわけです。
【森本】失敗する可能性はあるかもしれないけれども、うまくいけば、その1社でペイできてしまう可能性もありますからね。
【川分】ベンチャーキャピタルのファンドは、このルールさえ守れば、普通にやっていても元本確保はまず大丈夫で、1.5から2倍くらいはいけます。それをさらに魅力的にするのがハイリスク・ハイリターンの案件で、うまくいけば、一気に3倍、5倍というリターンを稼ぐファンドになる可能性が生まれます。
【森本】私もベンチャーキャピタル投資には科学的な分析が必要であると常々思っているのですが、こうした考えを持った方は意外に少ないのです。たとえば、好き嫌いとか、いい会社に投資するとかで、なかには、千三つという恐ろしいことを言う人もいますからね。
【川分】打率にすると大体3割から4割を目指しています。
【森本】なるほど。その3割、4割という打率を高くするためには、川分さんがおっしゃる経営者の見極めというのが必要だと思います。でも、それだけでも充分とはいえないですね。
【川分】そうです。ただ、矛盾することを言うようですが、ベンチャーキャピタルは、最終的には合理的に説明できない部分が残ると思うのです。それはやむをえないものだと思います。がんじがらめに合理的であろうとすると、投資はできなくなってしまいます。投資をしなければ、絶対にリターンはないわけですからね。ですから、リスクに対しても投資はしていくべきなんだろうと思います。ただ、リスクが読めない案件、たとえばこちらが質問しても答えてくれない経営者には投資すべきではないですね。
【森本】合理的に説明できない案件にも投資をする場合があるというわけですか。
【川分】はい。ただ、うまく行ったときはいいのですが、失敗した時に、「なぜこんなところに投資したんだ」と言われるわけです。しかし、これがある意味ではハイリターンを生む部分になるわけです。合理的に説明できない投資先の多くは失敗するのですが、なかには100倍のリターンを生む場合もあるわけです。そこはポートフォリオの組み方の難しさでもあり、おもしろいところでもあります。




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