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VC vision
前編 後編
第6回 ベンチャーの奥深き森 後編 多様な投資、多彩な支援
プライベートエクイティの多用な投資手法は、
ベンチャーキャピタルに多彩な支援をもたらすことになる。
そして、メーカー出身者のキャピタリストを多く擁する
日興アントファクトリーは、理論的、抽象的なリーディングではなく、
各業界に通暁したリーディングを可能にする。
これこそが、真に企業を育てるものなのである。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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よりベンチャーキャピタルを追求していきたい

【森本】 日興アントファクトリーとしての得意分野はどのあたりになりますか。
【谷本】 リード1号で投資をしている業種を分類しますと、通信・半導体・ソフトウエアのハイテク系が4分の1、コンテンツ・モバイルを含むインターネット関連が4分の1。バイオ、医療、ヘルスケアが4分の1。その他、サービス、運輸、人材ビジネス関係、不動産関係が4分の1になります。
【森本】 伸びているのはどのような分野ですか。
【谷本】 最近は、コンテンツやモバイルが非常に増えていますね。中国の案件でもコンテンツ関係は多くなっています。あと、その他に分類されるサービスや人材関係も非常におもしろくなってきています。私自身は、半導体と通信関連部品が多いのですが、この分野も、コンテンツやネットで何ができるか、というところを切り離しては前に進まないので、積極的に支援していかないといけないわけです。
【森本】 投資する企業への関わり方、育成法では、どのようなお考えをお持ちですか。
【谷本】 弊社は、投資会社としていろいろな形の投資を行っています。たとえば、アント1号というファンドをつくって、そこにプライベートエクイティがあり、セカンダリー投資があり、そのなかの一つとしてベンチャーキャピタルが構成されているというイメージがあります。つまりベンチャーキャピタルは一つのヘッジファンドのようなものとしてとらえることができます。
【森本】 非常にユニークなとらえ方ですね。
【谷本】 ただし、アントファクトリーは、プライベートエクイティでスタートした会社ではありますが、プライベートエクイティとベンチャーキャピタルが共存しているのであり、部門としてはベンチャーキャピタルの真髄を追求していきたいですね。弊社はプライベートエクイティ部門もあれば、ベンチャーキャピタル部門もある。投資案件の性格に合わせた、多様な投資スキームが構築可能です。
【森本】 プライベートエクイティの場合、担当者が経営者になっているところもありますからね。
【谷本】 そういうなかで、ベンチャーキャピタルとしては下手にハンズオンをしない、という方針です。本当に必要と思われる経営ポイントだけを経営者に伝えていくことが大事だと思います。また弊社は、他ではほとんどやらない技術的なアドバイスをしっかりとできる強みもありますから。

企業がもつ強みがあるからこそ投資をする

【森本】 案件へ最終的に投資を決定するポイントはどんなところですか。
【谷本】 やはり、経営者ですね。ケミストリー(相性)という言葉を使っているのですけれど、経営者と担当者とのウマが合うか合わないかということです。嫌だなと思う人とは仕事できないじゃないですか。長期間付き合う場合もあるわけですから。本当にこの人だったら、という経営者でないと投資もできないし支援もできないということです。あとは、ビジネスモデルですね。まず、納得のいく仕組みでなければだめですね。何がポイントなのかが的確に伝わってこないと何を説明されてもどうにもできないですからね。会社の内容は15分程度で伝えきれなければなりません。
【森本】 相手の企業価値を高める施策をどのようにとられていますか。
【谷本】 重要な案件では、取締役として入ったりしますし、定期的な訪問とチェックは欠かせません。それに、社長の邪魔をしないということも隠されたポイントですね。
【森本】 深入りしすぎることで、結果、間違った方向へ行ってしまうこともありますからね。
【谷本】 そういうときにも、社長にやる気をなくさせないように、傷つけないような形で、正しい方向にもっていかなければないわけです。たとえば、営業が取ってきた仕事を社長が即決をしてしまう。よく調べるとそれはデメリットが大きすぎるということがあとからわかり、こちらがだめ出しをすると社長のメンツは丸つぶれになります。こういうことが起きないように、あらかじめ、こういう場合にはこういうことをしないようにと伝えておくとか、先手を打って情報を提供しておくことをしておかないといけないと思います。
【森本】 週一回の投資委員会ではそこまで話されているのですか。
【谷本】 はい。全体像を俯瞰する尾崎を交えて、この企業はこうならないように布石を打とう、などということを議論しています。投資判断と同じことですが、この企業がもつ強みがあるからこそ投資をするわけなので、そこから外れていくことは修正しなければならないわけです。
【森本】 日々事業をされている経営者の方には、そのぶれに気づかないこともありますからね。
【谷本】 おかしな方向に行く前に客観的な立場からカジ取りすることが必要です。こうした支援を行いながら、顧客企業を紹介したり、定款改定のお手伝いをしたり、契約書不在の契約を発見した場合には、その重大さをしっかりと説明します。そういう細々した支援が入ってくるわけです。スタート時の段階から成長に合わせた詳細なデータチェックを行いながらアドバイスをするようにしています。たとえば、勘定科目の明細を出してもらって、不明瞭な数字がないかを見るようにもしています。
【森本】 それは向こうも真剣になりますね。
【谷本】 あとは通帳のコピーも拝見しています。経理に任せきってしまって社長は一度も通帳を見ないという場合も稀にありますから。こうしたチェックを入れておくと不正の抑止効果にもなります。それに、おたがいに胸襟を開いた関係を築くことができるようになりますからね。


インタビューを終えて

ベンチャーキャピタルはプライベートエクイティ投資のなかの一手法である、という認識は、まだ日本ではそれほど浸透していない。プライベートエクイティ投資でスタートした日興アントファクトリーに、日興キャピタルで行っていたベンチャーキャピタル事業が組み込まれ、現在の事業形態ができあがったわけだが、ファイナンスの視点から見ると必然の帰結である。また企業の誕生と成長、発展、そして存続という時代対応を考えたとき、こうした全方位的な支援体制は大変魅力的なものであろう。そして、尾崎一法社長のリーディングの基、ベンチャーキャピタル事業が牽引力となっていることが、日本のベンチャーキャピタルの独自性を追求するに当たって、大いなる指標となることは間違いない。(森本紀行)

次号第7話(9月6日発行)は、日本テクノロジーベンチャーパートナーズの村口和孝さんが登場いたします。


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