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VC vision
前編 後編
第7回 ベンチャーよ、故郷を振り返れ 前編 個人の意志、個人の責任
大学在学中、ベンチャーキャピタリストをみずから進むべき道と定め、
ベンチャーの聖地シリコンバレーのベンチャーキャピタルの門をたたく。
野村証券系のベンチャーキャピタル「ジャフコ」に約14年間在籍したのち、
1998年、当時日本にはなかった、個人が意思決定をし、
個人が全責任を負うというベンチャーキャピタル、
日本テクノロジーベンチャーキャピタルをスタートさせた。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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日本のベンチャーキャピタルに欠けているもの

【森本】 ジャフコでベンチャーキャピタリストとしてトップクラスの業績を残された村口さんが、独立のベンチャーキャピタルを立ち上げてまでやられたかったこととは何なのでしょうか。
【村口】 私が独立を決意した直接のきっかけになったのは、1998年の3月に個人的に出かけたイスラエル旅行なのです。そこで、日本のベンチャーキャピタルに足りない本質的なものを見つけた思いが強くあります。ベンチャーキャピタルというものは、そもそもサラリーマンでは成しえないということがわかったのです。
【森本】 イスラエルのベンチャーキャピタルには何があったのですか。
【村口】 当時は、私もベンチャーキャピタリストとしてのキャリアが14年になっていまして、成功事例もたくさんあったころでした。ベンチャー企業の社長と直接打ち合わせをし、一から企業を創業させてきた投資経験から、かなり自分に自信があったのです。イスラエルのベンチャーキャピタルの歴史は10年くらいのもので、14年のキャリアをもつ私にしてみれば、彼らにベンチャーキャピタルを教えてあげられるのではないか、という自負もあったのですね。ところが、イスラエルでも、起業家を育てるベンチャーキャピタルがしっかりと行われていたのです。私が日本で苦労してきたことを苦もなくやっていたわけですね。
【森本】 何が違っていたのでしょうか。
【村口】 それを知りたくて、イスラエルのベンチャーキャピタリストたちにいろいろ話を聞いていったのです。そのなかで、これだな、と直感的に感じたのが、日本の経済産業省にあたるイスラエルの省庁担当者と話をした時で、彼は「日本人は非常にいい」というのです。日本人は意思決定をするのに、いつでもみんなで集まって話し合って決めている、と。それは、ベンチャーキャピタルの業務を行うには、非常にいいスタイルなのだ、というわけです。それに対してイスラエルでは、彼は「individualism(個人主義)」という言葉を使っていたのですが、3人が集まって議論するとみんな自己主張をし始めて収拾がつかなくなるというのです。
【森本】 先方としては日本人を褒めているつもりで言ってくれたのでしょうね。
【村口】 ええ。でも、私は「日本に足りないのはこれだな」と思ったのです。純粋なindividualismが一貫したときに、初めてスタートアップに強いベンチャーキャピタルが生まれてくるのではないかと。つまり、日本のベンチャーキャピタルは、individualismになりきれないところに重大な問題があるのだ と思ったのです。
【森本】 individualismを徹底させると、どういうベンチャーキャピタルができるのですか。 
【村口】 ベンチャーキャピタルは、結局のところ、個人が意思決定をして、個人で責任を負うべきだということです。それまでも、組織の一員としてベンチャーキャピタルの活動をすること自体に根本的な問題が内在しているという思いが私にはあったのですが、その話を聞いているうちに、組織型のベンチャーキャピタルの構造では、絶対にスタートアップを支援するベンチャーキャピタルは出てこないだろう、と気づいたわけです。個人が意思決定をするベンチャーキャピタルこそが必要であるのに、それは日本には存在していなかったのです。

個人が全責任を負うベンチャーキャピタル

【森本】 「日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP)」のビジョンの根幹も、その「個人」というところになるのですね。
【村口】 ええ、日本テクノロジーベンチャーパートナーズという名前も、当時の大手ベンチャーキャピタルが行っていた方針を全部引っくり返した、逆をいく、という意味が込められています。まず、日本はもうダメだ、アメリカのベンチャーに投資せよと、当時、大手は一生懸命言っていましたが、それに対して、いや、日本こそがベンチャーに向いていて世界に先駆ける国だ、というのが私の主張です。そして、テクノロジーはリスキーだ、ということもよく言われていました。技術系のベンチャーは販売も営業も考えないし経営センスもない、と。これからは、ニューサービスが主流なのだとね。しかし、私は、日本のテクノロジーは世界に誇れる高いクオリティがあるのだし、日本発のテクノロジーをベースにしたベンチャーキャピタルは、非常に大事ではないかと思っています。だから、テクノロジーの分野に特化してやっていこうというコンセプトを掲げました。それから、当時の大手ベンチャーキャピタルが行っていたのは、ベンチャー投資ではなくて中堅企業投資といっていいものでした。私は、そうではなくてスタートアップに力点を置くベンチャー投資をしようということを明確にしました。最後に、パートナーズですが、日本のベンチャーキャピタルはパートナーズではなくてカンパニーなのです。要するにサラリーマンですね。投資は会社の利益が優先された話でしかなくて、起業家個人を重視するパートナー精神は希薄です。ですから、パートナーシップを第一にするスタイルを強調したかったのです。
【森本】 なるほど。
【村口】 こうしたコンセプトのもとに、私個人が全責任を負うベンチャーキャピタルがNTVPなのです。ですから、集めるお金も全員、個人から集めました。企業体からの出資は受けないことが原則です。NTVPi-1号投資事業有限責任組合は、すべて個人から資金を集めたファンドなのです。
【森本】 個人出資者の反応はいかがでしたか。とくに、スタートアップにフォーカスしたファンドですと、すんなりとはお金を出していただけそうに思えませんが。
【村口】 最初はほとんどの方に断られました。おっしゃるとおり、弊社のファンドは、まだ、何の実績のない分野で企業を創業させようという案件を対象にしていますから、個人投資家たちにはリスクが大きすぎて関わりにくいのは確かです。ですが、個人資金を個人の責任で投入するファンドという私の考えに本質的に賛同してくれる人も、何人か出てきてくれています。その典型的な人が、掘場製作所の創業者である堀場雅夫さんですね。私がコンセプトを話したら、「ほれや!」と叫んだ堀場さんの声は、とても印象的で、いまも耳に残っています。





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