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VC vision
前編 後編
第7回 ベンチャーよ、故郷を振り返れ 前編 日本型ハンズオン
商品もなければビジネスモデルもない、起業以前の経営者との対話の中から、
創業へ向けてのシナリオを構築する、スタートアップに徹底してフォーカスした投資。
そして、社会に価値をもたらす事業の創成と強い経営者の育成。
あたかも親が子を育てるような、日本人的メンタリティにあふれたハンズオンがそこにある。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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経営者と投資家に密着した付き合いを

【森本】 村口さんの場合ですと、投資後の活動としては具体的にどのようなことをなさっているのですか。
【村口】 創業したあとは社外取締役になりますが、その際には取締役会に出ても財務の話は全然しません。どういう技術でどういう商品を生み出そうかという進捗状況の話しかしていません。あとは、人材やコンセプトワークの話ぐらいですね。これも、組織型ベンチャーキャピタルとは違う点だと思います。
【森本】 そういったスタートアップの案件や実際に投資してくれる出資者は、どうのようにして見つけているのですか。
【村口】 案件は人づてがほとんどです。ファンドの告知とか募集については、ワン・バイ・ワンです。いままで面識のない人に話をもって行って、直接投資を募る形でやっています。今ではいろいろお世話になっている堀場製作所の堀場雅夫さんも、最初はどんな人か知らないで会ったくらいですから。いまでも、できるだけお金は少なく、ファンドは小さく、組合員も少なく、で、経営者と投資家に密着した付き合いを継続しながらやっています。出資者は、最近は機関投資家も4社入っていますが、あとはみな個人です。
【森本】 機関投資家と個人の出資比率は、どうなっていますか。
【村口】 半々くらいですね。
【森本】 個人の投資家は何人ぐらいいらっしゃるのですか。
【村口】 100人くらいですね。100万円単位で参入している人もいますからね。大口では20人くらいですね。それ以上の人数になると付き合いきれなくなりますから、規模としてはこれくらいを維持していきたいと思っています。人とコミュニケーションを取れる形で進めていこうと思うと、投資家もそうですが、投資先もせいぜい20社くらいまでが限度です。それでも丁寧にコミュニケーションを取るには多いかな、という感じがします。
【森本】 1社当たりの投資額はどれくらいになるのですか。
【村口】 平均すると4億円くらい投資していますね。
【森本】 投資先で倒産したところはないのですか。
【村口】 それはありません。つぶれそうになったところはありますが。借金をしないかぎり、会社というものはつぶれないものです。予算が枯渇するだけで。だから、ベンチャーは絶対つぶれないといっていいと思います。活動が低迷するかしないかだけです。だから、こちらとしは、その低迷しないための軍資金を提供していくわけですね。

新しい事業で社会に大きな付加価値を

【森本】 村口さんは個人で責任をとる体制でいくとおっしゃっていますが、創業期のアドバイスが的確にできる社内陣容にするために、どう整備していくお考えですか。
【村口】 ドリームチームをつくるべき、という考え方がありますよね。しかし、私はそこが少し違っています。創業ベンチャーにとって、まず大事なことは、おぼろげながらでも、何かをやろうと出発することが重要なのです。新しいテクノロジーが今後どういう商品となって、社会にどういうニーズを作り出すのかということは、やってみなければわからないことなのです。商品にたどり着くまで、どういう形になるかもわからないし、その商品にたどり着かなければ、どんな顧客とどういうニーズが生まれるかもわかりません。つまり、これらが決まってくるまでは、どういう陣容を整えて経営者をフォローすべきかも、見えてきません。少なくとも、商品のめどが立つまでは、組織的陣容を整えるのは待ったほうがいいのです。だから、財務がわかる人とか、営業に強い人とか、会計に明るい人がいるとか、そういう人材が集まればいいベンチャーキャピタルができるというのは、長期的にはそうかもしれませんが、そこには段階があるということですね。投資先にも段階を見ながら投資をしなければいけないわけですから、その段階を見つつ、順々に必要な人材を採用していけばいいと思っています。ですから、決してベンチャーキャピタル側では準備しないことです。キャピタルの社内陣容は小さければ小さいほうがいいわけです。むしろ社会全体を投資先ベンチャーの支援環境と捉えるようにして,社内にリソースをおかないという大原則が重要だと思います。
【森本】 投資対象としては、どんな事業分野を重視していますか。
【村口】 私が手がけている産業は、ヒューマンサイエンスとか、ライフサイエンスという言い方をしているのですが、半導体、通信、放送、ネット、医療、バイオなどが軸になります。つまり、今後に大きく変化をしていく分野ということです。ベンチャーというのは、新しい事業を起こすことで社会的に大きな付加価値を生み出していく領域でないとダメなのです。
【森本】 そうした投資先の価値を向上させるための施策として、どんなことに留意されているのですか。
【村口】 それは、先ほどもお話しした経営者の主体性を尊重するということに通じますが、コーチに徹するということですね。あるいは、旅行の添乗員に徹するということかな。あとは自分たちでやってくれ、ということですよ。経営陣が主体的に経営ができるように最大限の注意を払って関与しているのが、弊社の関与の特徴です。経営者の個性をいかに生かしていくかをポイントにしています。
【森本】 やはりベースは、日本のテクノロジーを武器にしたベンチャーを育てるということになりますね。
【村口】 そうです。本当に日本人が日本のスタートアップの会社を成功させようと思ったら、何をやらなければいけないか、ということです。それを常に考え続けながら一生懸命やることだと思っています。


インタビューを終えて

日本のベンチャーキャピタルのこれからの有り様を探ろうという本企画も、すでに7回目を迎えた。ベンチャーキャピタルを起業したベンチャーキャピタリストの思いは、じつにさまざまで、その思いの数だけ、いやそれ以上に、選択肢と可能性が開けている。こうした中で、ファンドの組成から投資までの、すべての判断とその責任をすべて個人が負うという、日本テクノロジーベンチャーパートナーズは、ベンチャーキャピタルのもっともプリンシプルなありようといえるだろう。さらにその関与にあたっての姿勢を見るに、「もののふ」のようにベンチャーキャピタリスト道を極めていくかのような印象を受ける。ベンチャーキャピタルの産業化というひとつの命題を逆照射する存在がここにある。(森本紀行)

次号第8話(10月4日発行)は、ウエルインベストメントの東出浩教さんが登場いたします。


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