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VC vision
前編 後編
第13回 ベンチャーの帆を高く上げよ  前編 新しい市場をつくる
株式会社日立製作所がコーポレートベンチャーキャピタルを立ち上げたのは2000年。
まだ、7年目を迎えたばかりであるが、そのビジネスコンセプトは明快であり、
掲げた目的とブレることのない投資活動を展開する。
CVC室室長の広瀬正氏がシリコンバレーで学んできたベンチャーキャピタルを
どのように日立のコーポレートベンチャーキャピタルの事業化に生かしているのであろうか。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
日立CVC組織図
アントレプレナーシップを確立させたい

【森本】 まず最初に、日立製作所がCVC室を創設してベンチャー投資をスタートさせた経緯、目的からお話いただけますでしょうか。
【広瀬】 90年代に米国では、数多くの会社がM&Aで企業の成長路線をキープすることに成功していたわけですが、我々も、こうした企業による直接投資の動きに遅れをとってはならないということが、最初の問題意識でした。これは、当時の庄山悦彦社長の強い思いから始められたもので、日立の中にアントレプレナーシップを確立させたいという考えがありました。そのため、教育コースを設けてみたり、社内ベンチャーを募ってみたりと、いろいろな取り組みを行いました。そうした中で、社外のベンチャーとの接点をつくってはどうか、という考えが生まれてきて、ベンチャーキャピタルファンドの設立に至ったわけです。そして、2000年に100億円の投資予算を組んだ「日立コーポレート・ベンチャキャピタル」を立ち上げてベンチャー投資をスタートさせました。私たちのベンチャー投資事業は、普通のベンチャーキャピタルと同様に、資金を投資してインキュベーションを行うのですが、その基本とするところは、投資による利益獲得が第一の目的ではないということです。私たちが重視するのは、一に情報、二にアライアンス、三にリターンです。CVC室と日立コーポレートファンドの運営は、日立の事業のためになる情報、機会を得ることに集約されます。
【森本】 広瀬さんはどのような経緯から、コーポレートベンチャリングに関わるようになられたのですか。
【広瀬】 私は、情報通信の部署で事業企画をやっておりまして、企業内の構造改革など、会社のシステムに関わる仕事に従事していました。そこで、CVC室が設立されるときに、投資対象の事業内容に詳しい人間がいないといけないということで、CVC室の創設当初から配属されることになりました。何分、ベンチャーキャピタルについては素人同然でしたから、コーポレートベンチャーをやっている会社や、ベンチャーキャピタルの方々に教えていただきながら、この5年間やってきました。
【森本】 つまり、OJTのような状況でベンチャーキャピタル事業の業務を始めていったということですね。
【広瀬】 はい。CVC事業が発足した2000年には、シリコンバレーに赴任しました。そこでは、毎日、自分の事業を立ち上げようとしている起業家たちに会うことが仕事でしたから、彼らの元気がもらえたという実感がありました。そして、米国のベンチャーキャピタルの方々から直接お聞きした、キャピタリストたちの考え方も大変に勉強になりました。非常に新鮮な世界を知ったな、というのが当時の感想です。そして、2005年に日本に戻ってきて、米国のベンチャーキャピタルから学んだことを実践していきたいと、今奮闘している最中になります。


産業としてベンチャーキャピタルを確立する

【森本】 米国ではどのような方々とお会いになったのですか。
【広瀬】 米国にはベンチャーキャピタルが800社くらいあるのですが、多くのベンチャーキャピタルの方々のもとへ会いに行きました。ディスカッションもするし、一緒に投資する機会もあるので、やはり、深い付き合いになりました。米国の場合は、ベンチャーキャピタル同士の競争も厳しいので、常に、友達関係でいるというわけにはいきませんが、ホームパーティやゴルフなどを一緒にしたりもしましたね。
【森本】 一番影響を受けた人は誰ですか。
【広瀬】 Vinod Khosla氏です。この方には大変影響を受けました。非常に明快にベンチャーキャピタルとコーポレートベンチャーキャピタルの差についてディスカッションをしていただけました。あと、インテルキャピタルの創始者のLeslie L Vadaszさんにもたくさんのことを教わりました。彼らから、コーポレートベンチャーキャピタルをどういう考えでやっているのか、また、ベンチャーキャピタルとはどう付き合っていけばいいのかを教わったことは、自分の知識となり、財産にもなりました。
【森本】 広瀬さんが米国で学ばれてきたことが、今の日立のコーポレートベンチャリングのベースになっているといってもいいのでしょうか。
【広瀬】 米国では、若いですけどもベンチャーキャピタルを経験している人を実際に雇っていましたので、投資先の細かい付き合い方や、ネットワークづくりなどは、現地の人たちの力を借りました。
【森本】 米国のベンチャーキャピタルについて一番学んだところはどういうところですか。
【広瀬】 ベンチャーキャピタリストとしての私の経験は10年にも満たないもので、専門家の方からみれば、当たり前のことかもしれませんが、なるほどなと思ったことは、米国では創設時からベンチャーキャピタルを産業としてつくってきたことです。たくさんのベンチャーを育成しようとしたときに、産業としてベンチャーキャピタルを確立させたことは、すごいアイデアだと思います。1958年には、The Investment Company Actという法律ができていて、そのころからすでにベンチャーキャピタルを産業として育てようという考え方があったことは驚きでしたね。そういうプロフェッショナルを育てて、社会の仕組みとしてベンチャー育成のシステムをつくって、それがベースとなって現在に来ているのですから、その歴史は大きいですよね。





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