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VC vision
前編 後編
第13回 ベンチャーの帆を高く上げよ  後編 新しいインフラをつくる
株式会社日立製作所のコーポレートベンチャリングの特徴は、
「日立フィット」を重視している点である。
それは、日立自身の事業展開にプラスアルファをもたらす
外部事業を見つけ出し、自社事業部と共同できる企業、技術に投資するというもの。
「キャピタルゲインが第一の目的ではない」の言葉にこそ、
日立のコーポレートベンチャリングの真髄があるといえるだろう。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
日立CVC組織図
ベンチャーの世界はおもしろいと思う社員を増やす

【森本】 日立のCVC室における広瀬さんの主業務はどのようなものなのでしょうか。
【広瀬】 2つあります。ひとつは、いかに日立の中に外のベンチャーの元気を取り入れていくか、ということです。もうひとつは、日立の事業に関連するベンチャー企業を育てていくということです。
【森本】 そのための具体的な策としては何をなさっているのですか。
【広瀬】 日立CVCは、米国のサンノゼ、ワシントン、ボストンにオフィスを持っていますが、日本のスタッフを約2年のローテーションで米国に赴任させています。そうすることで、毎日ベンチャーと会う経験を積んだ人間が非常に積極的な形で日本の職場に戻ってくるので、社内が活性化する効果があります。それと、日立の各事業部の人間をベンチャーのコミュニティに連れて行って刺激を与えたり、社内の各職場のイノベーションを促進するためのコースを設けて、そこでレクチャーをしたりしています。あと、社内ベンチャーの組織もあるのですが、そこでもプランの評価を手伝ったりして接点を広げています。やはり、実際に体験して、ベンチャーの世界はおもしろいと思う社員を増やさないといけませんから。
【森本】 ベンチャー企業の開拓はどういう手法で行っていらっしゃるのですか。
【広瀬】 最初は、ベンチャーキャピタルに出かけていって、ディールフローを紹介してもらっていました。それと、社内にはベンチャーと付き合っている事業部もたくさんありますから、社内に広報して案件を探すこともしてきました。また、コーポレートベンチャーもある程度存在を知られるようになると、自動的に案件が入ってくる状況になってきます。我々も、毎年投資枠をキープしてインキュベーションを行っているので、そのことがベンチャーキャピタルの世界でも知られていますので、いろいろなベンチャー企業がやってくることも多くなっています。
【森本】 日立は現在「インスパイアAプラン」を実践されていますね。
【広瀬】 はい、日立は何を大切に考えているかを内外に明示する展開をして、こういう事業に興味があります、こういう技術を求めています、という情報公開をしています。それを見てディール先が訪れてくるというルートもできてきています。
【森本】 コーポレートベンチャリング事業の陣容は、どういう経験の方々で構成されているのですか。
【広瀬】 日本に3名、カリフォルニアに4名、ワシントンに1名、ボストンに1名と、私を含めて合計10名です。ベンチャーキャピタルの経験者の方は外部から招聘しました、あと技術系や経理担当は日立社員が中心です。おもに企画畑を歩いてきた人が多いですね。我々は、技術の専門部隊として存在しているわけではなくて、日立には、研究所や事業部に多数の技術者がいるので、日立が何をやっているかを知っていることが重要なのです。

インフラを提供する会社になりたい

【森本】 投資先を発掘し、審査をして投資をする流れがありますが、それはどのように展開されていますか。
【広瀬】 普通のベンチャーキャピタルとあまり変わらないと思います。案件は、ディールフローで流れてくるのですが、重要なのは、きちっとしたネットワークがあって、ディールを探してくるということです。それを我々がスクリーニングをして、内部で深く検討会を行いさらに詳しくチェックして、日立の事業との連携するインパクトを計って、必要ならば投資するという流れです。もちろん、すべてのディールが投資目的とは限りません。日立との連携を目的にした案件もあります。
【森本】 審査基準には、どういうポイントを置いていますか。
【広瀬】 それには、4つのプライオリティがあります。まず、ひとつはマーケットですね。市場のないところには事業はありませんから。二つめは、マネジメントです。三つめは競合力。資金的な競合力と技術的な競合力とがありますが、これを見ます。この三つは、一般的なベンチャーキャピタルも実施していることですが、我々の場合は、次に、「日立フィット」がきます。日立の事業領域とマッチすることを重視しています。しかし、基本的には、パッションといいますか、熱意がないとだめですね。
【森本】 その熱意はどこで判断されますか。
【広瀬】 経営者として自分の志がきちっとあることですね。成長のステージによって必要な能力は違ってきますが、審査の段階では、ビジョナリストであることを重視します。次に事業を実現しようとしたら、技術力、CTOが大事になってきます。その次の段階では、マーケティング力が必要になります。そして最後が経営力、オペレーション力が重要になってきます。会社の段階に応じた経営陣のキャラクターのマッチングというのはとても大切なことだと思います。
【森本】 日立フィットについて詳しくお聞かせください。
【広瀬】 日立には、インフラを提供する会社になりたい、という理念があります。昔なら鉄道とか電力といったもので、こうしたインフラを提供する企業は特別な存在です。日立もそうありたいという目標があります。それで、自分たちに足りない技術があればそれを補完する事業を掘り起こす、つまり日立がやりたいことを可能にする人や技術、事業を探しにいくということですね。ですから、新しい事業をやっている人がいるけれども、それは日立としても考えるべきことではないかという情報があれば、社内に発信してそれに応じた事業部で検討してもらったりもしています。逆に、ある事業部でこういう技術が自分たちにはなくて、それをできるところを探してほしいという要望が出されることがあります。それがベンチャーに関する要望であれば我々のところに連絡が来るわけです。そこで我々は、CVC室のネットワークの中から探してきて、事業コラボレーションを進めたりということもやっています。


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