【森本】 まず最初に、日立製作所がCVC室を創設してベンチャー投資をスタートさせた経緯、目的からお話いただけますでしょうか。
【広瀬】 90年代に米国では、数多くの会社がM&Aで企業の成長路線をキープすることに成功していたわけですが、我々も、こうした企業による直接投資の動きに遅れをとってはならないということが、最初の問題意識でした。これは、当時の庄山悦彦社長の強い思いから始められたもので、日立の中にアントレプレナーシップを確立させたいという考えがありました。そのため、教育コースを設けてみたり、社内ベンチャーを募ってみたりと、いろいろな取り組みを行いました。そうした中で、社外のベンチャーとの接点をつくってはどうか、という考えが生まれてきて、ベンチャーキャピタルファンドの設立に至ったわけです。そして、2000年に100億円の投資予算を組んだ「日立コーポレート・ベンチャキャピタル」を立ち上げてベンチャー投資をスタートさせました。私たちのベンチャー投資事業は、普通のベンチャーキャピタルと同様に、資金を投資してインキュベーションを行うのですが、その基本とするところは、投資による利益獲得が第一の目的ではないということです。私たちが重視するのは、一に情報、二にアライアンス、三にリターンです。CVC室と日立コーポレートファンドの運営は、日立の事業のためになる情報、機会を得ることに集約されます。
【森本】 広瀬さんはどのような経緯から、コーポレートベンチャリングに関わるようになられたのですか。
【広瀬】 私は、情報通信の部署で事業企画をやっておりまして、企業内の構造改革など、会社のシステムに関わる仕事に従事していました。そこで、CVC室が設立されるときに、投資対象の事業内容に詳しい人間がいないといけないということで、CVC室の創設当初から配属されることになりました。何分、ベンチャーキャピタルについては素人同然でしたから、コーポレートベンチャーをやっている会社や、ベンチャーキャピタルの方々に教えていただきながら、この5年間やってきました。
【森本】 つまり、OJTのような状況でベンチャーキャピタル事業の業務を始めていったということですね。
【広瀬】 はい。CVC事業が発足した2000年には、シリコンバレーに赴任しました。そこでは、毎日、自分の事業を立ち上げようとしている起業家たちに会うことが仕事でしたから、彼らの元気がもらえたという実感がありました。そして、米国のベンチャーキャピタルの方々から直接お聞きした、キャピタリストたちの考え方も大変に勉強になりました。非常に新鮮な世界を知ったな、というのが当時の感想です。そして、2005年に日本に戻ってきて、米国のベンチャーキャピタルから学んだことを実践していきたいと、今奮闘している最中になります。
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