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VC vision
前編 後編
第18回 ベンチャーという名の光明  前編 技術という資本
製造業を中心とする大手企業内には、
商品化や事業化されないまま眠っている
優れた技術が数多く存在しているという。
この「埋もれた技術」を企業から切り出して
事業化させていくビジネスをカーブアウトと呼ぶ。
2002年日本において始めてカーブアウトスキームを提唱し、
このカーブアウトをビジネスとして成立させた
株式会社テックゲートインベストメント。
いかにしてカーブアウトビジネスを確立させたのかを、
代表取締役の土居勝利氏に話をうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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活用されてこなかった技術の事業化

【森本】 資料を拝見しますと、御社の場合、まず事業化すべき優れた技術があって、その事業化を目的にファンドという仕組みを使って資金を調達する、という流れでベンチャーキャピタルとしてスタートされています。
【土居】 テックゲートインベストメントは、製造業の研究開発から新事業を創造した企業経営者を含む事業会社経験者を中心に、カーブアウトの実践研究とコンサルティングからスタートしています。おっしゃるとおりでして、もともと、ベンチャーキャピタルをやろうとしていたわけではないのです。
【森本】 この事業を始められた経緯についてお聞かせください。
【土居】 はい。製造業を中心とする大手の事業会社では、さまざまな技術開発が行われています。日本では、優秀な技術者は、こうした大手事業会社の研究部門や国立の研究所に多く集まる傾向があります。しかし、その技術者たちの研究開発活動の中には、優れた研究・技術であるにもかかわらず、日の目を見ないで埋もれている技術も多くあります。こうした事業会社内で事業化されずにいる技術を、いかに有効活用していくか、そして、いかに新事業に結びつけるかをテーマに、テックゲートというコンサルティング会社を2002年に起こしたのが、私たちのそもそものスタートになります。テックゲートでは、大手事業会社の新規事業担当者、技術担当役員などと勉強会を企画し、日本文化にあったカーブアウトスキームに関する議論、研究を行ってきました。技術経営を発展させることを目的とする技術担当役員から構成される、社団法人「科学技術と経済の会」の中にカーブアウト研究会を設立いただきまして、同会の中でも日本の企業文化に適応したカーブアウト研究を推進してきました。カーブアウトスキームに対して、科学技術と経済の会の活動等を通じて、事業会社の経営陣の理解が得られるとともに、日本の産業界の活性化のためには、第三者としての技術評価や事業戦略立案に加え、第三者としてのファンド組成が必要との議論となりました。その結果として事業会社の後押しもあり、2004年にテクノロジーカーブアウトファンド設立準備会社としてテックゲートインベストメントを設立しました。
【森本】 通常のベンチャーキャピタルとは、目的や手順が異なっています。
【土居】 はい、まずは、事業会社との新事業創造の議論があり、事業会社の優秀な技術と人材がある、というところが我々のスタート地点です。この優秀な技術と人材をどのように事業化していくかに集約されるところが、我々の事業の特徴だと思います。ただ、新事業を作っていくために投資しているところは、我々もベンチャーキャピタルであるという言い方ができると思っています。
【森本】 カーブアウトのコンサルティングのためのテックゲートから出発し、カーブアウトを日本の産業の活性化というスコープで実践するために、ファンドの運用を行うテックゲートインベストメントが設立されたわけですね。
【土居】 はい、カーブアウトのスキームを研究するとともに、カーブアウトする前段階の経営戦略コンサルティング会社としてテックゲートを設立し、事業会社の経営陣の理解が得られるとともに、日本の産業界の活性化を推し進めるカーブアウトの実現には、第三者の資金も必要との金融会社の賛同も得られまして、2004年9月にテクノロジーカーブアウトファンドの設立準備と運営するためのテックゲートインベストメントを立ち上げています。このテックゲートインベストメントが、ベンチャーキャピタルとして機能する組織になります。


技術を事業会社から切り出す

【森本】 今後、ベンチャーキャピタルの中にも、テックゲートのような手法でカーブアウトに取り組むところも出てくるのではないでしょうか。その意味では、先駆的な取り組みだと思います。
【土居】 そうですね。では、なぜ私たちがカーブアウトを始めようとしたのか、その点について、まず、私のバックグランドからお話します。私はソニーの開発研究所で、技術開発からの新カテゴリーの商品開発を行っていました。当時ソニーには中央研究所という基礎研究機関もありまして、基礎技術研究は主にここで行われています。開発研究所は、これらの開発された技術を使って、新しいビジネスドメインを作り出すことが目的の開発機関です。R&D戦略のなかで5年後、10年後にはどういう技術がキーになるかを探って、そうした技術研究に資金を投入するプランを立てるというふうに、中長期の戦略を練ることが開発研究所のミッションでした。開発研究所から出て成功した事例では、8ミリビデオ、AIBO、プレイステーションなどがあります。優秀な技術であるにもかかわらず研究開発の結果がすべて製品化、商品化されるわけでないことを当時から感じておりました。これらの技術、人材が100%活躍する環境が構築できれば、資源の乏しい日本経済の発展に少しでも役立つのではとの発想の結果、起業する人材にとっても、送り出す親会社にとっても有効なカーブアウト事業を開始しました。現時点では、カーブアウトと言う文言が一人歩きしている感があり、従来の事業再生ファンドやスピンアウトファンド、MBOファンドもカーブアウトの文言を使い始めております。弊社だけでは非常に微力であるので、今後、優秀な技術、人材に光を当てる弊社と同様なカーブアウトファンドがどんどん組成され、事業会社の新事業創造が活性化されてくると良いと考えております。
【森本】 なるほど、ソニーの新しい基軸になる新事業の立ち上げに関わってきたからこそ、事業化に結びつかない技術があることに着目できたわけですね。
【土居】 それからもうひとつ、開発研究所での経験ですが、NEWS(Network Engineering Workstation)という業務用のワークステーションを事業化したことがあります。これは、家電メーカーのソニーが、業務用のワークステーションをリリースしたということで話題になったものです。この事業を契機に、ソニーもITに力を入れなくてはならないと、シリコンバレーのPalo Altoにソニーマイクロシステムズという会社を作ります。1989年のことですが、私もこのソニーマイクロシステムズの設立に参加しまして、シリコンバレーに3年くらい赴任していました。このソニーマイクロシステムズにてOSを含むコンピュータ関連の技術開発を行っていました。
【森本】 このシリコンバレーでの経験が、ベンチャーを意識するきっかけになったのでしょうか。
【土居】 はい。シリコンバレーにいますと、ベンチャーキャピタルとのつながりや、ベンチャー企業との付き合いができてきます。彼らのビジネススピードやビジネスの作り方は、自分がこれまでやってきた新規事業の進め方に、非常に大きな参考になりました。これは、日本にいては決して体験することはできないもので大きな財産になっています。その後日本に帰ってきて、中長期のR&D戦略を担当するようになったとき、新技術の事業化にさまざまな角度から取り組むことができました。



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