【森本】 カーブアウトというコンセプトは、どのような経緯で形成されてきたのですか。
【土居】 先ほどご紹介させていただきました大手事業会社の技術担当役員が参加している文部科学省の社団法人「科学技術と経済の会」という団体があります。約160社が参加していますが、同会での研究と議論の一つに、研究開発からいかに新しい事業を創造するかという技術経営の議論があります。弊社の取締役執行役員である渡辺誠一も、ソニーの上席常務時代に、この科学技術と経済の会のソニー代表を務めており、テックゲートが2002年より行ってまいりましたカーブアウトの研究に賛同いただき、同会の中で事業会社参加によるカーブアウト研究会をスタートさせています。ここでは、ベンチャーキャピタルの立場ではなく、事業会社の技術担当役員の立場でカーブアウトによる新事業創造に関して成功事例、失敗事例の研究を含め議論をしていました。
【森本】 事業会社にとって特許技術は絶対に他社には公開しないものです。
【土居】 はい。かつて、米国のベンチャーキャピタルが日本市場でスピンアウトファンドやマネジメントバイアウトファンドをやろうとしたことがありましたが、思うように行かなかったと聞いております。これは、日本の事業会社は、不要なあまり良くないIPは公開するけれども、重要なIPは絶対に表に出さないからです。そこではっきりしてきたことは、その事業会社にとっての経営戦略として、いい技術、人材を有効活用するというスキームがないと、表に出てこないということでした。このカーブアウト研究会では、日本文化、企業文化に適応したカーブアウトはどうあるべきかという研究を行っています。ノウハウや特許的なシステムについても研究を行いながら、カーブアウトのスキームを議論し、事業会社参加型の弊社独特のカーブアウトスキームを構築してきました。
【森本】 もともと各事業会社の技術担当者の方々には、カーブアウトに対する強いニーズがあったわけですね。
【土居】 そうですね。最初は、事業会社からカーブアウトベンチャーを作る仕組みについて議論されていたのですが、そのうち、技術やビジネスモデルに対する第三者の評価機関が必要なのではないかということに議論が発展していき、システム的にも整理された議論がかなり行われてきました。事業会社内だけの議論に留まらず第三者のアイデアを盛り込み、いかにスピード感を持って新事業を創造していくかということも一つの議論のポイントでした。事業会社1社の中で議論をしていると、なかなか結論が出にくい問題に直面することになるので、第三者に評価させるシステムを確立させようとする議論が出てきたわけです。事業会社が新事業を立ち上げる際には、事業部での実施、ジョイントベンチャー、社内ベンチャーなど、いくつかの選択肢がありますが、選択肢の中にカーブアウトという新しい経営戦略カードを設ける可能性が出てきたのです。 |