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VC vision
前編 後編
第18回 ベンチャーという名の光明  前編 技術という資本
製造業を中心とする大手企業内には、
商品化や事業化されないまま眠っている
優れた技術が数多く存在しているという。
この「埋もれた技術」を企業から切り出して
事業化させていくビジネスをカーブアウトと呼ぶ。
2002年日本において始めてカーブアウトスキームを提唱し、
このカーブアウトをビジネスとして成立させた
株式会社テックゲートインベストメント。
いかにしてカーブアウトビジネスを確立させたのかを、
代表取締役の土居勝利氏に話をうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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収益を上げられる技術かどうかを見る

【森本】 シリコンバレーで一番学ばれたことはなんですか。
【土居】 ベンチャーの世界では、技術者が決して優秀な経営者であるわけではありません。そこで、投資する場合にどうやって投資するベンチャー起業家を決めるかが重要になります。もちろん、技術は大切ですが、すべての技術が分かるわけではありませんので、人を見るノウハウは必要になります。その際、人を見る方法で、あなたはベンチャーを何回起業した経験があるかという質問をする話が印象に残っています。これは、もし、同じような水準の案件が二つあるとして、一方のベンチャー起業家は、今まで3回失敗してきていて、もう一方が初めて起業する人であれば、3回失敗した人を選ぶべきだというものです。3回の失敗経験があれば、それだけ次に失敗するリスクが減るというわけです。失敗も財産であると教わって、なるほどそうか、と思ったことがあります。
【森本】 同じく、ベンチャーキャピタルから学ばれたことはなんですか。
【土居】 我々も、事業会社の立場に立って、その技術レベルの高低に加え、収益を上げられる技術なのかどうかを見なければならないので、そういう点はベンチャーキャピタルから学んだところです。ただ、シリコンバレーでは、事業会社を経験した方がベンチャーキャピタルをやっている場合が多いのですね。そうした経験をもとにITに特化していたり、材料に特化していたりなど、皆自分の得意な分野に投資をしていて、それ以外の分野には手を出しません。そこが、日本のベンチャーキャピタルとは違うところですし、彼らの技術に対する嗅覚はすごいなと思いますね。
【森本】 カーブアウトしてベンチャーを起こそうということに事業会社自体はどのような考え方をもっているのでしょうか。
【土居】 事業会社の中でも、自社内で事業化できないままでいる技術をどう生かすのかという問題意識はあります。たとえば1億円の利益を出す100億円規模の事業と10億円レベルの事業だけれど1億円の利益が出る事業が10個あるのでは、どちらがいいかというと、理論的には10億円で1億円の利益が出る事業が10個あったほうがいいと皆さんおっしゃいます。しかし、大手事業会社としては100億円規模の事業がやはり必要なのですね。そうした企業としてのいろいろな制約の中で、うまく生かされない技術が出てきてしまう状況があるのです。このことの何が問題かといいますと、なかなか商品化、事業化されることのない技術研究をしていて社内で成果を上げられずにいる優秀な技術者が少なくないのです。

技術者も事業会社もハッピーにさせる

【森本】 それは、事業会社にとっても、技術者にとっても不幸なことですね。
【土居】 米国のシリコンバレーでは、技術者が数人で事業を立ち上げて1年後には100人規模の企業に成長している例があったりするのですが、日本の事業会社内で開発された技術では、そういう展開は難しいのです。これは、国全体で考えても、資源の有効活用の観点からも非常に問題だろうと思います。そして、それ以前に、せっかくいい技術なのに、事業規模の問題や事業化のスピードの問題で、その技術が事業にならないままでいることです。開発した技術が成果に結びつかずにいることは、技術者にとってはとても悲しいことなのです。そこで、こうした問題をソリューションする仕組みができないか、と2002年に、ソニーを退職しテックゲートを設立したわけです。日本全体の事業会社に門戸を広げた事業を目指しています。
【森本】 カーブアウトの概念について、もう少し詳しくお話いただけますか。
【土居】 カーブアウトという言葉は、米国では1990年代後半にでてきまして大手事業会社などで一部使われているところがあります。しかし、事業会社の技術をカーブアウトしてベンチャー企業を立ち上げる事業は、まだ少ないと思います。ベンチャーキャピタルが従来のMBOファンド、スピンアウトファンドなどで、外から事業会社の技術、人材を引っ張り出そうとしても、事業会社にしてみれば、いい技術、人材は外に出そうとはしないので、その壁は非常に厚かったと思います。
【森本】 そこで、技術者だけでなく事業会社もハッピーにさせることを考えると、日本なりのカーブアウトというものが必要になると思います。
【土居】 事業会社の立場に立って、経営戦略としての事業化をプランすることで、技術者も、事業会社もハッピーになり、しいては日本経済の成長に貢献できるスキームを確立できるのではないかと考えています。事業会社の方々とお話しをすると、我々と共通の問題意識はあるのです。ユーザ人口が、急に倍に増えるわけではないので、既存のビジネスサイズが倍になることはありません。企業を成長させるには、新しいビジネスを現在の事業に積み上げていくしかないわけです。この新事業創造が事業会社の経営者のひとつの経営課題になっていると思われます。そこで、どうやって新事業創造を加速させるかという話になって、それには仕組みに問題があるのではないかということになっていくわけです。
【森本】 大手製造会社では、使われない技術や特許は、他者に使われるといけないので、コンクリートにつめて東京湾に沈めるという言い方をするそうですね。
【土居】 そういう技術を何とかしましょうということになるわけで、そこで、私たちは日本の企業文化、習慣にあったカーブアウトを提唱して、各事業会社にご提案を進めているところです。事業会社の経営戦略としてカーブアウトを位置づけている点が、私たちのカーブアウトファンドの大きな特徴だと言えると思います。

後編 「技術者という資本」(8月15日発行)へ続く。


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