【森本】 シリコンバレーで一番学ばれたことはなんですか。
【土居】 ベンチャーの世界では、技術者が決して優秀な経営者であるわけではありません。そこで、投資する場合にどうやって投資するベンチャー起業家を決めるかが重要になります。もちろん、技術は大切ですが、すべての技術が分かるわけではありませんので、人を見るノウハウは必要になります。その際、人を見る方法で、あなたはベンチャーを何回起業した経験があるかという質問をする話が印象に残っています。これは、もし、同じような水準の案件が二つあるとして、一方のベンチャー起業家は、今まで3回失敗してきていて、もう一方が初めて起業する人であれば、3回失敗した人を選ぶべきだというものです。3回の失敗経験があれば、それだけ次に失敗するリスクが減るというわけです。失敗も財産であると教わって、なるほどそうか、と思ったことがあります。
【森本】 同じく、ベンチャーキャピタルから学ばれたことはなんですか。
【土居】 我々も、事業会社の立場に立って、その技術レベルの高低に加え、収益を上げられる技術なのかどうかを見なければならないので、そういう点はベンチャーキャピタルから学んだところです。ただ、シリコンバレーでは、事業会社を経験した方がベンチャーキャピタルをやっている場合が多いのですね。そうした経験をもとにITに特化していたり、材料に特化していたりなど、皆自分の得意な分野に投資をしていて、それ以外の分野には手を出しません。そこが、日本のベンチャーキャピタルとは違うところですし、彼らの技術に対する嗅覚はすごいなと思いますね。
【森本】 カーブアウトしてベンチャーを起こそうということに事業会社自体はどのような考え方をもっているのでしょうか。
【土居】 事業会社の中でも、自社内で事業化できないままでいる技術をどう生かすのかという問題意識はあります。たとえば1億円の利益を出す100億円規模の事業と10億円レベルの事業だけれど1億円の利益が出る事業が10個あるのでは、どちらがいいかというと、理論的には10億円で1億円の利益が出る事業が10個あったほうがいいと皆さんおっしゃいます。しかし、大手事業会社としては100億円規模の事業がやはり必要なのですね。そうした企業としてのいろいろな制約の中で、うまく生かされない技術が出てきてしまう状況があるのです。このことの何が問題かといいますと、なかなか商品化、事業化されることのない技術研究をしていて社内で成果を上げられずにいる優秀な技術者が少なくないのです。 |