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VC vision
前編 後編
第19回 わが魂をベンチャーに埋めよ  前編 ハンズオン型独立ベンチャーキャピタル
ジャフコ、日本アジア投資で
日本のベンチャーキャピタルの草創期を 作りあげてきた
齋藤篤氏が設立したベンチャーキャピタルがエス・アイ・ピー株式会社。
ベンチャーキャピタリストの力量に立脚する
独立系ベンチャーキャピタルの実現がコンセプトに掲げられる。。
今年6月、新しい指導体制を確立したエス・アイ・ピー株式会社は、
これからはどう変わろうとしているのか。
これまで取り組みを振り返りながら、今後目指す展開を
代表取締役CEOの齋藤茂樹氏、代表取締役社長の藤原和隆氏、
取締役の白川彰朗氏のお三方に話をうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
パートナー 投資先事例
米国型ベンチャーキャピタルを目指して

【森本】 まず、エス・アイ・ピーの設立当時の理念について、お話をうかがいしたいと思います。
【齋藤】 当社の設立は1996年で、今年で11年目になります。そもそもの経緯をお話しますと、現取締役会長で私の父でもある齋藤篤と初代社長の伊藤親保は、1991年にCSKベンチャーキャピタルを立ち上げています。その後の紆余曲折を経て、ふたたび二人が1996年に新しく立ち上げたベンチャーキャピタルがエス・アイ・ピーです。
【森本】 齋藤篤氏は、ジャフコ、日本アジア投資で企業型ベンチャーキャピタルに10数年間携わってこられていますね。
【齋藤】 はい。銀行に対するカウンターパートである直接金融会社としてのベンチャーキャピタルを国内で一から作り上げてきたパイオニアの一人です。その齋藤篤には、日本のベンチャーキャピタルが、米国のベンチャーキャピタルに比べて低いパフォーマンスにとどまる問題を克服したいという思いがありました。米国のベンチャーキャピタルをしのぐパフォーマンスを実現するベンチャーキャピタルを作り上げるのが、長年の目標でもあったのです。ですから、エス・アイ・ピーでは、米国と競争できるリターンが得られるファンド展開を実現することが大きなテーマになっています。また、齋藤篤と伊藤親保がエス・アイ・ピーを設立する際に掲げたキーワードは、ハンズオンでした。
【森本】 米国型のベンチャーキャピタルのスタイルを導入しようという思いが込められたキーワードですね。
【齋藤】 米国のベンチャーキャピタルは、ベンチャーキャピタリストがアントレプレナーとともに汗を流して、その会社と命運を共にして活動することが基本スタイルです。対して日本の企業型ベンチャーキャピタルには、担当制が敷かれ、組織としてのサポート体制は整備されていますが、人間と人間の付き合いを通じた共同作業を行う場面はほとんど見られません。米国のベンチャーキャピタルのように、ベンチャーキャピタリスト個人にアントレプレナーシップの力量が備わったベンチャーキャピタルを作りたい、ということで始めたのがエス・アイ・ピーでした。
【藤原】 第1号ファンドとして「SIPグローバル1」を立ち上げています。これは、齋藤篤と伊藤親保の二人が中心となり、日本と米国のベンチャー企業に投資するファンドで、齋藤篤が日本を担当し、伊藤親保が海外を担当しました。ファンドの設立は1997年です。米国のベンチャーファンドと同じようなパフォーマンスを上げる目的で組成したものですが、当時はまだ投資事業有限責任組合法ができる前でしたので、ケイマン籍で設立したファンドとして資金集めをしました。しかし、ちょうど金融危機の頃でして、結局、200万ドル規模のファンドレイズになっています。14社に投資をして、最終的に株式公開した企業は6社でした。2倍弱くらいのリターン率で、2006年12月に償還しています。


ベンチャーキャピタリスト・ファンド

【齋藤】 日本と米国の両方に投資するこのファンドを通じてわかったことは、日本のベンチャーキャピタルが海外のベンチャー企業にハンズオンを展開することは困難であるということです。いくら目利きでいい投資先を見つけたとしても、米国のネットワーク内で共同投資をすると、米国のベンチャーキャピタルに代わって強いコンタクトを持つハンズオンを続けることが難しいのです。日本で投資した場合は、ベンチャー企業と近いポジションで接することができるので、米国のベンチャー企業への投資に比べて、2倍近いリターンが出ています。そうしたステップを経て、得た結論としては、ハンズオンがしっかりできれば優れた結果が出せるということです。米国のベンチャーキャピタル並みのパフォーマンスを展開するには、やはり、財務をモニタリングしながら戦略的にハンズオンをしていくことがポイントだと思います。
【森本】 2号めのファンドは、どういうコンセプトを掲げたのですか。
【齋藤】 齋藤篤が次に取り組んだことは、ベンチャーキャピタリストという個人をベースにしたファンドを作ることです。2号ファンドの「VCクラブSSM投資事業有限責任組合」は、日本で最初の個人ベースのファンドになっています。
【藤原】 VCクラブSSM投資事業有限責任組合は、2000年に立ち上げたものです。SSMは齋藤篤他パートナーの頭文字をとったもので、3人の個人が共同でゼネラルパートナーとして運営するスタイルのファンドとして立ち上げた点が特徴です。この時には、もう投資事業有限責任組合法が制定されていましたので、ベンチャー投資の法的な整備もできていました。このファンドでは、中小企業事業団(現・中小企業基盤整備機構)がアーリーステージのベンチャーファンドの育成を政策として掲げていたことから、半分の資金を出資していただいています。総額10億円で組成しています。
【齋藤】 当時、齋藤篤はベンチャーキャピタリストクラブを作っていました。日本のベンチャーキャピタルには、アントレプレナーシップの仕組みが入っていないため、独立系のベンチャーキャピタルが立ち上がりにくいという問題がありました。これを解決しようという目的で組織したものです。独立を目指すベンチャーキャピタリストたちを一つの団体に構成して、みんなで問題意識を共有しながらやっていこうという趣旨で作った組織です。VCクラブSSMのファンドは、このベンチャーキャピタリストクラブの個人メンバーをゼネラルパートナーにして運営しようとしたものです。
【藤原】 このファンドには、もう一つ特徴があります。それは、エス・アイ・ピーがファンドの組合員には入っていないことです。エス・アイ・ピーの参加形態は、個人のゼネラルパートナーから事務受託をして、出資者や投資先とのコミュニケーションを取るという構図となっています。エス・アイ・ピーは、財務の管理業務を中心に関わり、そのほかには、機関投資家との対応の窓口になるなど、組織的対応が必要なときにも責任を果たしていきます。



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