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VC vision
前編 後編
第19回 わが魂をベンチャーに埋めよ  後編 公開後を視野に入れるベンチャーキャピタル
ベンチャーキャピタルの新しい可能性の開拓に
力を注いできたエス・アイ・ピー株式会社が、次に目指すのは、
ベンチャー企業が株式公開した後のファイナンス支援の事業化だ。
これまで、得てしてIPOが目的になり、
その後のベンチャー企業の成長に関与し切れてこなかったベンチャーキャピタルだが、
株式公開後をも配慮した支援こそが、
ベンチャーキャピタルにとっての重要な任務の一つだという。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
パートナー 投資先事例
目の数が多い方が確実性が高まる

【森本】 投資の決定に関するポリシーはどのような考えでいますか。
【齋藤】 エス・アイ・ピーの過去の試行錯誤の中で、会社と個人の力量をどう役割分担させなければいけないかというテーマがあります。SIPグローバルワン、VCクラブSSMというファンドのステップにはそういう問題意識が込められています。個人が個人としてVCクラブSSMのようなファンドを立ち上げるとしても、一方で、機関投資家までの資金を集めるには、信用が必要になります。大きなリスクを保証する意味で、会社という組織は必要です。それと同時に、ビジネスキャリアを積んできたそれぞれの担当者が、キーマンとしてハンズオンでベンチャー企業を育てていくという、この二つをバランスしていくことが、役割分担に対する答えになると考えています。また、知的創造ファンドは、キーマンの制度に則って藤原と会長の二人で担当したものですし、今回のデジタルコンバージェンスファンドは、私と白川がキーマンになっています。最終的に意思決定のプロセスでは、キーマンの二人が提案する案件を、常勤役員の我々3人に会長が参加する業務執行会議にかけますが、最後の意思決定はキーマンに任せるというシステムにしています。
【森本】 業務執行会議ではどのようなことを行うのですか。
【齋藤】 技術的なチェックやコンテンツ的チェックは外部アドバイザーにも見てもらうのですが、業務執行会議でも検討します。あとは、投資した場合の落とし穴やリスクを踏まえた議論を行います。
【白川】 キーマン二人ですべてが押さえられればいいのですが、ひょっとすると、もれている視点があるかもしれませんから、目の数が多い方が確実性が高まるということです。
【藤原】 会社としての機関決定はその場で行いますが、ただし、キーマン二名が最終的にゴーサインを出さないと、その投資は実行されないということになっています。
【森本】 ハンズオンを進める上で、どんな点を重視しますか。
【齋藤】 まず、ビジネスモデルの設計がキチンとできているかがポイントになると思います。また、どういうステークホルダーと付き合うことで成長が加速するのか、資本計画はどう進めるか、他事業会社との提携をどうするか、ということに留意します。ただ事業を伸ばしたいということで悩んでいるベンチャー経営者がほとんどですから、成長の段階に応じて、その都度何をすべきかを踏まえながらサポートしていきます。

公開後に明確な視野を置く

【森本】 最後に、将来のビジョンをお聞きします。
【齋藤】 まず、いまのファンドの目標額を達成することが、この秋までに全力を上げることです。我々3人の体制では最初であるこのファンドの結果が見えてくれば、規模を大きくした第2、第3のファンドの展開も具体化してくると思います。いまは、未公開企業をフォーカスにした展開にありますが、将来的には、公開したベンチャー企業の第2ステージにファイナンスして一緒に成長していく展開や、ハンズオン型ベンチャーキャピタルへのファンド・トゥ・ファンズを通して仲間を増やしていくこともしたいと思います。こうした展開を通じて、規模に合わせたポートフォリオが組めるようになっていけると思います。そのコアを、未公開のアーリーステージでキチンと作り上げるのが、いまのファンドの役割になります。ですから、この1年は、本当に勝負になると思っています。
【森本】 公開後のファイナンス展開とは、具体的にはどんなイメージなのですか。
【齋藤】 我々は、ベンチャー企業にとってのIPOとは、ゴールではなくて、やっと「成人」になった段階と捉えています。たとえば米国では、大きく成長するベンチャーは新しい企業を加えたグループ経営の展開で、企業をより伸ばしていく手法が定着しています。公開した次のフェーズとして、そういう戦略をベンチャー企業と一緒に描いていくことをイメージしています。M&Aは、一つのターゲットになります。
【森本】 公開株式を取得することは考えていますか。
【藤原】 増資引き受けですね。それで、exitをファンドの期間の中で仕上げていくということです。ここは、将来チャレンジしていきたい分野です。
【森本】 それもハンズオンの一環という捉え方なのですね。
【齋藤】 そうです。
【藤原】 株式を公開しても、3〜5年ぐらいの間は、ベンチャーであることに変わりはないのですね。公開をしている、していないに関わらず、経営実態がベンチャーである企業には、ベンチャーキャピタルはサポートを継続しなければいけないということです。
【齋藤】 新しい企業、新しい産業の育成を考えれば、ベンチャーキャピタルが公開後に明確な視野を置くことは、一つの必然といえます。



インタビューを終えて

 米国のベンチャーキャピタルは、ベンチャー企業などの事業経験を積んできた者が、その経験を生かして、新しいベンチャー企業を支援するプロセスが確立している。つまり、明確な個性と人格を持つベンチャーキャピタリストが、ベンチャーキャピタルとして機能する仕組みができあがっている。エス・アイ・ピーの創設者である齋藤篤氏は、日本のベンチャーキャピタルと米国のベンチャーキャピタルの間にあるパフォーマンスの大きな違いは、この差から生まれていると、かなり早い時期から指摘してきた。ハンズオンをキーワードにするエス・アイ・ピーが90年代半ばに誕生していたことは、2000年以降の日本のベンチャーキャピタルの動向に大きな変遷をもたらしたことは間違いない。ベンチャーキャピタリストという人材を育てていくことは、地道な努力が必要なはずだが、日本のこれからの直接金融のシステムを強固に確立するには、欠かすことのできない事業でもあるだろう。(森本紀行)

次号第20話(10月3日発行)は、株式会社インスパイア・インベストメントの芦田邦弘さん・井出敬也さんが登場いたします。


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