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VC vision
前編 後編
第34回 官民一体のベンチャー投資 後編 継続する投資を
新規事業投資株式会社は、ファンド運用と直接投資による独自のベンチャー投資と、
ベンチャーファンドへの出資という2種類のビジネスを柱にしている。
後編では、独自ファンドの運用スタイルについて話を聞きながら、
同社のベンチャー投資に対する基本的な考え方について話をうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
投資先事例

株主の皆さんと一緒になって作った会社

【森本】 これまで、どれくらいの数の案件を検討されてきていますか。
【酒巻】 我々が何らかのコンタクトをとった企業は、年間1,000社ぐらいですね。
【森本】 その中から最終的に何社に投資を実施しているのですか。
【酒巻】 ここ2、3年のベースでいいますと、年間20社から25社に投資しています。
【森本】 1,000社から20から25社というと、かなり絞り込んだ投資になりますね。
【酒巻】 1,000社は担当がコンタクトを取るレベルの数字です。そこから担当が課長レベルに報告する段階、さらには検討会に上げられる段階の時点でかなり絞られてきていますから、それほどハードルが高いというわけでもないと思います。
【森本】 ファンドで今まで投資した案件数は、何社ですか。
【酒巻】 2006年のスタートから現在までの2年半で約50社に投資しています。
【森本】 1社に対する投資額は大きく取っているのですか。
【酒巻】 いえ、どちらかというと少ないと思います。だいたい5%からそれ以下のシェアです。
【森本】 御社だけが投資している案件はありますか。
【酒巻】 それは、ほとんどありません。他のベンチャーキャピタルと並行的に出資するものがほとんどです。
【森本】 いわゆるリードをとる案件は少ないのですね。
【酒巻】 そうですね。当社は株主の皆さんと一緒になって作った会社ということもありますし、株主にはベンチャーキャピタルも入っていますから、当社としては、民間のベンチャーキャピタルの皆さんと一緒になって投資させていただくというスタンスが強いですね。

コンスタントに投資を継続していく

【森本】 投資先に取締役として入ることもないのですね。
【酒巻】 基本的にありません。業界でよく言われるハンズオンという言葉にはいろいろなレベルの意味があるのですが、アーリーを対象にしている当社のインキュベーションファンドでのGPのような、実際にベンチャー企業の中に入り込んで一緒になって事業を立ち上げることをハンズオンというのならば、我々はそれはやりません。我々が投資した後に、当社の株主などをマッチングの相手としてご紹介するなどのサポートや、取締役会にオブザーバーとして参加して、我々なりのアドバイスをしたりということが、投資先への関与の仕方になります。あくまでも、投資先が成長するお手伝いをさせていただくポジションにいるのが、金融投資家としての我々のスタイルになります。
【森本】 インキュベーションファンドではIT、バイオ、ナノテクという分野が特化されていますが、直接投資や新規事業投資ファンドでは投資分野に縛りはあるのですか。
【酒巻】 当社独自の投資活動には、業種や分野の縛りはありません。その時々に成長が期待できる企業があれば、分野にかかわらず投資していくというスタンスです。
【森本】 ソフトもハードも両方あるということですね。
【酒巻】 ええ、そうです。IT、ソフトウェア、サービス業、製造業にも投資しています。
【森本】 御社の将来の展望についてお聞かせください。
【酒巻】 現在のような厳しい投資環境下においても、コンスタントに投資を継続していくことが大事だと思っています。それが当初官民一体として立ち上げられた組織としてのミッションでもあると思います。そして、新たな理念のもといろいろな分野で投融資活動を行う日本政策投資銀行グループの一員としても、当社の投資経験を活かして今後とも貢献していきたいと思っています。


インタビューを終えて

小泉「構造改革」の進展で、政府系金融機関の再編民営化が進む中、政府系金融機関の役割も大きく変わってきている。従来の長期融資にとどまらず、企業の純資本に関与する直接投資のスタイルも大胆に導入されている。日本政策投資銀行がベンチャー投資に参入して新規事業投資(株)をグループ会社に加えていることも、その変化の一つといっていいだろう。しかし、その投資活動が、民間のベンチャーキャピタルと競合するものであっては、あまり意味をなさない。その意味で、官民一体のスタイルで、政策的な投資活動に的を絞った同社のベンチャー投資は、理にかなったものになっている。同社が先行的に未開拓分野での実績を切り開けば、民間ベンチャーキャピタルも後に続いていくことができるだろう。新規事業投資(株)の社会的役割の意義は、決して小さくないと思う。(森本紀行)


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