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Vol.006 日本アジア投資株式会社 代表取締役社長  立岡登與次第3話 一気通貫のベンチャーキャピタリスト
コラム(3) パーソナル・データ(3)
カリスマなきあとの会社のあり方
 経営企画に籍を置いていたときに、組織全体のことが見えるだけに、「会社はなぜこうしないのか」とか、「今のやり方で本当に人が育つのかな」などと疑問を持つようになっていました。しかし、当時の社長や会長は、カリスマ的な雰囲気を持った方々でしたので、自分のような人間が意見をするべきではないと思っていましたし、当時の他の社員も、資金を集めたり投資をしたりするにあたっても、自分に与えられた課題を一つ一つこなしていればよいというスタンスでした。判断はすべて上司が行うので、社員は、黙々と業務を遂行すれば、そのほうが効率的に仕事が進むものだと思っていたようです。そんな中で、カリスマなきあとの会社のあり方として、私が当時考えはじめていたのがユニット制でした。
  社長を拝命したのは1998(平成10)年でした。そのとき真っ先に導入しました。ユニット制というのは、案件の発掘から公開までを小規模な一つのユニット(チーム)に責任をもって担当させていこうとするものです。
  それまでは、投資案件の発掘をする人、審査をする人、企業を育てる人、それぞれがベルトコンベアーのように別の部門になっていたのです。ひとりひとりは発掘なり審査なりのプロフェッショナルになりますが、発掘から公開まですべてをわかっているベンチャーキャピタリストが育たないわけです。
  この案を最初に役員会に提案したときには反対されました。「そんなことをすれば若手が好き勝手に投資を始めるのではないか」とか、「モラルハザードが起こって不良資産の山になる」とさんざん、批判を浴びました。しかし、一年間かけてスキームを吟味し、周りを説得して、チームに権限と結果責任を持たせるというユニット制を採用することになりました。しかも3,000万円までの投資ならチームにすべての権限を与えたのです。しかし、導入してはみたものの、じつは、私自身も上手くいくかどうか自信があったわけではありませんでした。

若くて力を持ったベンチャーキャピタリスト
 さて、ユニット制を導入してどういうことが起こったかといいますと、しばらくの間、投資がまったく進まなくなってしまったのです。いざ自分の権限でお金を出せるとなると、担当者たちが慎重になりすぎたのでしょうね。それまで自分たちで判断をしたことがなかったのですから無理もありません。最初の半年は投資実績が目標の半分程度に落ち込んでしまったのです。これはダメだったのかなと思いました。ところが、下期になると、どんどん投資案件が出てきました。結果的に下期は目標の2倍ありましたから、通期では投資目標を達成することができました。それ以降は安定して案件が出てくるようになりました。
  ユニット制を導入して一番変わったことは、投資の質が非常に良くなったことです。それまでは、年間20数%程度の倒産率であったのが5%程度にまで下がりましたからね。それと、公開件数もそれまでは年間一桁がやっとだったのが、二桁に乗り、20件、40件と飛躍的に増えていきました。
  そしてなによりも、社員が自分の考えに基づいて仕事をすることができるようになり、個々の能力が飛躍的に向上したと思います。現在の弊社の中核になっているのが、若い頃からこのユニット制で鍛えられた連中です。今は彼らが仕事を引っ張ってくれるだけではなく若手を育ててくれています。若くて力を持ったベンチャーキャピタリストが次々と育っていってくれるのではないかと期待をしています。
(8月23日更新 第4話「ベンチャーキャピタルをリードする」へつづく)



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