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Vol.006 日本アジア投資株式会社 代表取締役社長  立岡登與次第2話 艱難辛苦の営業道
コラム(2) パーソナル・データ(2)
営業は看板でするものなのか
 日本アセアン投資に入って最初に困ったことが営業でした。日立製作所時代は「日立」の看板を背負っているわけで、日立製作所ですと名乗れば、丸紅さんだろうが伊藤忠さんだろうが、たいていの人は「話ぐらいは聞こうか」と会ってくれるわけです。でも日本アセアン投資の名前ではそうおいそれとは会ってくれないのです。
  今でも思い出しますが、名刺を出して挨拶をしても、「結構です」とか、「間に合っています」とか言われたりするのです。こちらがお金を出そうとしているのに、間に合っているということは、お金が充分にありますということなのかな、などと考えていたのです。ところが、じつは、私の名刺には「日本アセアン投資」と書いてあるので、相手は、社名に「投資」という二文字が入っているので、ワンルームマンションや金、商品先物などの営業だと思っていたのですね。たしかに、その手の会社も投資会社を名乗っていましたからね。日立の頃とはずいぶん違うなと思いました。世の中はそんなに甘くないぞと思い知らされました。

お金を出してやるんだという姿勢
 入社当時を振り返って思い出すのは、中小企業の社長の気持ちがわかっていなかったということです。営業先で一応話は聞いてくれるのですが、相手は最初、こちらをとても警戒しているわけです。「ベンチャーキャピタルに株を持たれたら何をされるかわからない」という恐怖感、危機感を持っていらっしゃるのです。
  当初、私は、そういう考え方をする社長が不思議でしょうがなかったのです。「せっかくこちらがお金を出してあげようと言っているのに」とか、「企業発展のチャンスじゃないか、何を怖がっているんだろう」などと思っていたのです。
  日立のような大企業にいる社員は、会社の株を誰が持とうがあまり関心がないわけです。私も最初はその部類だったわけです。だから中小企業の社長が株を親族以外に渡したくないという、その気持ちがわからなかったのです。そして、その気持ちがわかるようになるまでは、私の態度も「お金を出してやるんだ」と高飛車なものだったのでしょう。事実、営業成績は全然上がりませんでしたから。

場数を踏んで、失敗を繰り返して
 当たり前のことなのですが、中小企業というのは「家業」なのです。会社の株を渡すということは、大事な娘を嫁に出す気持ちに近いものなのです。だから親類縁者以外の、どこの馬の骨ともわからない者に株を渡すのを嫌うのは、当然のことなのです。
  そうなると、「株を渡すと会社をめちゃくちゃにされるかもしれない」「乗っ取られるかもしれない」、そんなふうに恐れている中小企業経営者をどう説得するか。もう、これはテクニックの問題ではなく、担当者と社長の信頼関係ができているかどうかによります。
  担当者が社長と同じ目線で話ができて、相手が考えていることを心から理解し、解決をしてあげる。そういうスタンスでないとベンチャーキャピタルの仕事は上手くいきません。でも、そういうことは、頭でわかっていても、経験を積んでいかないと本当に理解できるものではありません。何度も場数を踏んで、失敗を繰り返して、初めてわかるようになるものなのです。
  私も「二度と顔を見せるな」と怒鳴られて、追い出されたことは一度や二度ではありません。それでもくじけず、めげず、通ううちに、「今日はこの間と違って反応が良かったな」というように経営者の心の中が見えてくるようになるのです。こうした地道な努力の積み重ねこそがベンチャーキャピタリストとして成長するために不可欠なものなのではないでしょうか。




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