当時は広報室といっても社内ではできたばかりでしたし、存在感もありませんでした。ましてや、利益を生む部署でもなかったので、なんとか存在価値みたいなものを作り上げたくて、とにかく声がかかる仕事ならなんでもやりました。でもそんなふうにしていると、だんだんいろいろな部門から声がかかるようになってきました。
そんなある日、人事部から声がかかり、三菱商事のリクルート用パンフレットをつくってほしいという話がありました。リクルート用のパンフレットをつくるにしても、他社と同じ物ではつまらない。「何とか読まれるパンフレットを作ってほしい」というのが人事部からのオーダーだったのです。たしか当時の予算が1,000万円ぐらいでした。それだけ予算があるのなら、定価をつけて、書店に並ぶちゃんとした本を作ろうということになったのです。貰った学生も定価が裏に書いてあるようなものであれば、そう簡単に捨てるはずもないだろうし、読んでみようかという気になるだろと考えたわけです。
「学生から金を取るのか」などという反対もありましたけれど、「実際に金を取るわけじゃなくて、学生に読ませるための仕掛けですから」って説得しましてね。そうしてできたのが、サイマル出版から出た『時差は金なり』という本だったのです。この本がたまたま朝日新聞の書評に取り上げられ、NHKや他のマスコミでも紹介されるようになり、映画化などという話まで出てきて、あっという間に40万部も売れるベストセラーになりました。当時、「儲かった金はどうする、広報室には売り上げなんて勘定科目はないぞ」などという冗談も出ました。
(9月13日更新 第2話「ベンチャースピリッツの芽生え」へつづく) |