いったん相手が話していることの本質が理解できると、会話も弾みました。ブルースは僕にも興味を持ったのでしょうね。付き添っていった友達だけではなく、僕にも「一緒にうちに来てみないか」と声をかけてくれたのです。僕も、「この人の弟子になってやってみるのもおもしろそうだな」と思いました。
当時の三菱商事で会社を辞めるのは、親の会社を継ぐためか、それとも病気になってしまったか、そのどちらかしかありえませんでした。僕の場合は、家業があるわけでもなし、ましてや病気でもない。前例がないというか、ありうべからざることだったのです。退社する決意を、まずは、自動車部の課長に告げたところ、「部長のところへ行きなさい」と言われ、部長のところに行ったら「本部長のところへ」と。さらには人事部にも行き、常務や社長のところにまで説明に行きました。結局、100人ぐらいに説明して歩いたのです。
上司の方々には一様に「それは三菱商事を辞めてまでやるべきことなのか」と言われました。「三菱商事という会社には何の不満もありません。ただ、ブルース・ヘンダーソンという人物と一緒に新しいチャレンジをしてみたい」という、僕の本懐を理解してくれる人は、当時いなかったのです。 |