起業家・ベンチャーキャピタル・投資家を繋ぐコミュニティ・マガジン

Front Interview
第1話 第2話
第3話 第4話
Vol.007 株式会社ドリームインキュベータ 代表取締役会長 堀紘一第2話 ベンチャースピリッツの芽生え
コラム(2) パーソナル・データ(2)
チャレンジ精神の芽生え
 いったん相手が話していることの本質が理解できると、会話も弾みました。ブルースは僕にも興味を持ったのでしょうね。付き添っていった友達だけではなく、僕にも「一緒にうちに来てみないか」と声をかけてくれたのです。僕も、「この人の弟子になってやってみるのもおもしろそうだな」と思いました。
  当時の三菱商事で会社を辞めるのは、親の会社を継ぐためか、それとも病気になってしまったか、そのどちらかしかありえませんでした。僕の場合は、家業があるわけでもなし、ましてや病気でもない。前例がないというか、ありうべからざることだったのです。退社する決意を、まずは、自動車部の課長に告げたところ、「部長のところへ行きなさい」と言われ、部長のところに行ったら「本部長のところへ」と。さらには人事部にも行き、常務や社長のところにまで説明に行きました。結局、100人ぐらいに説明して歩いたのです。
  上司の方々には一様に「それは三菱商事を辞めてまでやるべきことなのか」と言われました。「三菱商事という会社には何の不満もありません。ただ、ブルース・ヘンダーソンという人物と一緒に新しいチャレンジをしてみたい」という、僕の本懐を理解してくれる人は、当時いなかったのです。

包丁一本サラシに巻いて
 三菱商事にいた僕の叔父からも呼び出されました。「日本社会というのは、一流企業から外れるのは戸籍がなくなるようなものだ」と。そして、「お前が包丁一本サラシに巻いて、自分の腕一本でどこでも食っていけるという覚悟をして辞めるのなら仕方がないだろう」と言われました。
  もちろん叔父が心配してくれたのもわかります。日本社会というものは、名刺がものを言う、組織がものを言う社会ですから。たとえば、今ではわかりませんが、三菱商事の名刺を持っていれば、銀座で飲んでも「会社に」と言うだけで、ちゃんと請求書が会社に回るようになっているのです。お店のほうも、僕個人ではなく、名刺というか名刺に刷られている会社名を信用しているわけです。そこを辞めるというのは、世の中を渡っていくうえでの信用、バックボーンを失うということでもあります。
  振り返ってみると、僕自身いくつかの会社を経験してきたわけですが、業界が違うと価値観がまったく違う、常識も違っているということを実感しました。たとえば読売新聞で通用した常識が三菱商事ではまったく通用しない。読売新聞で評価されたことが、三菱商事ではまったく無視される。ただ、こうしたことを知り、経験することができたことは、僕にとって大きな勉強になり、物事を見極めるための核となっています。
(9月20日更新 第3話「成功の可能性、失敗の可能性」へつづく)




HC Asset Management Co.,Ltd