起業家・ベンチャーキャピタル・投資家を繋ぐコミュニティ・マガジン

Front Interview
第1話 第2話
第3話 第4話
Vol.014 ベスタクス株式会社 社主 椎野秀聰第4話 美徳の経営
コラム(4) パーソナル・データ(4)
製品で肌身を知る
 製造会社の社長は、自分の作る物に責任やプライドを持っていなければならないと思います。また自分の会社の製品がどのように使われているのかを肌身で知らなければいけないと思います。ですから製造会社はアンテナショップやプロショップなどを持つべきです。そこでお客様が商品をどう使っているのかを直に見る。またお客様の声を直接聞くのです。
  私は製品の愛用者カードにはすべて目を通しています。特に苦情のカードなどあると直接相手に電話をすることもあります。電話でお客様に話を聞いてみると、実はまだ使ってなかったなどということもありました。しかしお客様の声を聞くという行動は大切です。愛用者カードに目を通せなくなったら社長の資格はありません。
「使う人の身になって」と言う企業はたくさんありますが、それがお題目だけで終わっている会社も多々あります。実際に行動するのは大変難しいですから。ある自動車会社の社長は自分の会社の車に嫌々乗っていて、息子はBMWに乗っていると言う話を聞いたことがあります。それでは駄目ですね。

会社を辞めるとは
 5年ほど前のことですが、三井(拓秀・現三井法律事務所代表パートナー)君と自分たちの仕事をどう終結させるかという話し合いをしたことがあります。三井君の言うのは「実はどうやって自分と仕事を区別するか。そのためにも事務所を辞めようかと思う」という内容でした。弁護士事務所など簡単に辞めるわけにはいかないのは私にもわかります。「いっそ上場してしまおう」という話も出ました。しかし実現は難しかったのでしょう。結局、大きな事務所を解散して今の規模の事務所にしたのです。
  三井さんとの話の時点で、私自身もベスタクスをどうするかを真剣に考えていました。幸いベスタクスの業績は好調で証券会社と話し合って上場する準備をしていました。私は上場を中止し、調子が良かった会社をそのまま無借金、未上場のままで後身に託すことを決め、会社を去ったのです。2002年の事です。
  ところが5年ほど経つて、無借金で任せた会社が、わずか5年で立ち行かなくなったという連絡が来たのです。いろいろ考えた末に、会社に戻ることにしました。会社を作るのは簡単ですが、辞めるのはとても難しいことを、私自身も身をもって知らされたわけです。

経営は技能なり
 創業者を超える二代目は出ないとよく言われますが、それは間違いだと思います。しかし「経営は教えられない」ということは実感しています。特に創業とか起業というものはマニュアル化できない技能、伝統芸能のような世界です。技術なら他人に教えたり伝えたりすることもできますが、技能は教えられない。だからこそ伝統芸能には価値があるのでしょう。
  技能などというと抽象的すぎるかもしれませんが、たとえば朝礼で社員の顔色を見て健康状態をチェックするとか、会社で飼っている金魚の状態で社員の状況を判断するとか、その一つ一つが経営という技能の一部なのです。そういうきめ細かなところにまで経営者が気を配れるなら、会社は何とかなっていくものなのです。しかしそういうことはマニュアルに書けませんからね。しかし、創業者は、そうした「会社の変化を予知する点」や「会社を判断するバロメーター」のようなものを何万と持っているものなのです。
  会社を息子に継がせて失敗している人がいますが、それも結局は経営という技能を伝えきれなかったからでしょう。もちろん経営は、先代の成功した技能をそのまま継承しなければならないというものでもありません。ベスタクスは一度私が離れて傾いた。それを社員たちが自覚し、自ら考えて自分たちで経営という技能を新しく身につけていく。そうしたことで良いと思っています。


HC Asset Management Co.,Ltd