公認会計士2次試験に合格はしましたが、それだけで資格をもらえるわけではありません。3次試験を受験するため実務経験が必要となります。
大学院生になると、実務経験とアルバイトを兼ねていくつかの企業の監査を手伝うようになりました。私は当時から、企業を調査するときは、結果としての帳簿が合っているかどうかを見るだけでなく、「元は何だろう」「原因は何なのか」と常に問い、その元となる事実を明らかにしていくことが監査なのだと信じていました。そしてそこにいるのは、結局人間なのです。つまりずっと人間というものに興味を持って仕事をして来たのだと思います。
ある企業から監査を依頼され、大阪の営業所に行った時のことです。売掛金チェックを担当したのですが、私は単に売掛金の帳簿上の数字が合っているかどうかを見るだけでなく、与信管理表を持ってきてもらい、売り掛けと与信の関係を突き合わせてみたのです。すると売り掛けのほとんどが与信限度以上であることがわかりました。つまり与信限度が2億円なのに、3億円、4億円もの売掛金が計上されているのです。私はそこを指摘し「もし相手が倒産したときには営業が責任をとるのか、それとも与信限度を決めた人が責任をとるのか」と聞きました。営業所の経理担当は、そのような質問をされるとは思わなかったのでしょう、大変困って返事らしい返事をもらうことができませんでした。
私は東京に戻って大阪で見た通りのことを報告しました。すると先方の取締役から「今まで20年監査を受けてきたが、そのような指摘は初めてだ」と言われました。今でもそうですが、私は原因がわからないと結果を判断できないたちなのです。そして事実を明らかにするのが監査だと信じて仕事をしていました。しかし「君のやり方は他の人とは違う」と指摘されたことで、初めて普通の会計士とは違う方法で監査をしていたことに気づいたのです。私がやっていたのは「会計監査」ではなく、企業の「活動監査」であり「業務監査」だったのです。私自身はそれを「経営監査」と呼びました。
(5月9日更新 第2話「若き血潮の深化」へつづく)
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