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Vol.015 早稲田大学ビジネススクール教授 商学博士 松田修一第4話 流れる星のごとく
コラム(4) パーソナル・データ(4)
豊かさの中の苦しみ
 戦後の日本は劇的な経済復興を果たし、その後もハッピーな状況を作り上げてきましたし、それを否定することはできません。しかしそれに満足してはいけなかった。遅くとも第2次石油ショックから10年の間にギアチェンジをして世界にもっと門戸を開くべきだったと思います。もしそちらにシフトしていれば、今も世界で十分に戦える企業を数多く輩出していたと思います。当時の日本企業なら、まだ若かったのでリカバリーショットを打てたのです。
  しかし日本はその道を選ばなかった。その結果が現在の姿です。1990年代後半のバブル崩壊で日本企業はそれ以前にため込んだ利益をすべて食いつぶしてしまった。そして日本企業が一番体力の無くなった2000年前後に行われたのが、金融自由化や国際会計基準の導入です。今や自動車会社にも外国資本が流入し、メガバンクも純粋に日本資本と呼べるのは三菱東京UFJとみずほしかありません。監査法人でさえ外国勢の傘下にあるのが現状です。
  これからの日本は本当の苦しみ、「豊かさの中の苦しみ」を感じるはずです。その事実は会社の決算書にまざまざと現れています。さらに30年後はどうなっているのか。日本は米国に見捨てられ、中国からは邪険にされているかもしれない。「どういう世界になっても自分の力で生き抜け」と多くの若者たち、特に今の20代30代に気づかせ、支援し、かつ、じゃまをしないのが、私たち世代の役割だと思います。

意志と成長の相関関係

 とはいっても、これからの日本を悲観的に見ているわけではありません。ベンチャー輩出によってリカバリーショットが打てるのではないかと希望を持っているのです。今は日本の省庁でベンチャーに関わっているところが4つあります。ベンチャーを支援する仕組みもできつつあります。しかしこの1、2年はそれを阻害する動きも出てきています。私はベンチャーを支援する点を面に広げていくこと、自分も出て行って先頭になって支援したいと考えています。
  ベンチャーだからといって諸手を挙げて支援するのではありません。中には多くの問題を抱えている企業もあります。「志の低い人」が経営する会社もあります。志の低い人とは、たとえば株式公開を最終目標にしている社長です。株式公開は社長にとっても社員にとっても、そして株主にとっても大変ハッピーなイベントです。しかしそのイベントが最終目標では、その後はありません。
  私はベンチャー企業の公開前後10年間を調べたことがありますが、企業が公開後に成長するかどうかは公開前5年間の行動を見ればすべてわかります。株式公開を目的にして「公開などたいしたことはない」と言っていた会社は、公開後はなかなか伸びていません。株式公開を企業体質を変えるチャンスとして活用し、次の10年に備える企業が伸びているのです。公開時に、企業がさらにその5倍まで成長することをイメージできるかどうか、経営者がそうした強い意志を持っているかどうかが、その後の企業の成長や株価を左右するのです。




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